コロナ禍において、感染対策を進める政府や自治体のコミュニケーションのあり方がこれほど問われる時代はありません。危機における自治体のコミュニケーションはどうあるべきなのか。そんな疑問を持つ学生(でもあり、現役の首長でもある著者)が、科学コミュニケーションを専門とする川山竜二教授に話を聞きました(本取材は2021年1月にオンライン形式で実施しました)。
今のコミュニケーションには、震災の教訓が生かされていない。
よく新型コロナウイルスは初めての経験だから対応が難しいと言われますが、実はこのような経験は今回が初めてではありません。私たちは、10年前にも東日本大震災という大きな危機に遭遇しています。しかし、残念ながらその時に得た非常時のコミュニケーションの教訓が今回の対応に生かされていない。
最近の政府や自治体のコミュニケーションの仕方を見ていると、科学者の考える価値観と政治家の考える価値観は別軸にあるにもかかわらず、それぞれの見解が合わないところをそのまま露呈しながら情報発信しているように思います。東日本大震災時にあったベクレルの話や食品の安全性についての議論から、全く進歩していないのです。
今の政府・自治体のコミュニケーションに点数をつけるとすれば、「30点」ぐらいでしょうか。減点ポイントは3点あります。1点目は「コミュニケーションの特性を分かったうえで発信ができていない」ということ。2点目は「科学技術リテラシーを踏まえた発信ができていない」ということ。3点目は「国民の行動変容を促すという政府広報の役割を果たせていない」という点です。その一方、評価できる点は専門家会議の話をそのままダイレクトに伝えていて、情報を隠したりしているわけではないということですね。
個人が主体的に価値判断できる環境を整える。
民主主義国家である日本では、国民が個人の判断に基づいて判断できるコミュニケーションが公共セクターには求められます。ただ、コロナ禍のような危機下においては、個人の価値観と社会全体の価値観を同じ次元でとらえて、個人が価値判断をできる環境を整えるコミュニケーションがとりわけ重要だと考えています。個人の価値観を担保した上で、個人の安全、社会の安全が両立できるようにしていかなければなりません。
