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紀里谷監督最新作『新世界』、業界の枠組みを超えたマネタイズ手法とは

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「売れるもの」ではなく「生み出したいもの」が重要

― 「これまでになかった方法を採用しよう」と考えた背景は。

芸術家の使命は新しい可能性の提示であると考えます。生み出す作品はもちろんのこと、新しい考え方・仕組み・世界、すべてにおいてこれまでになかったものを生み出すのです。

そういう見地に立って昨今の世の中を見回すと、形容しがたい違和感を覚えます。映画だけでなく、あらゆる分野において、創作の前のマーケティングが重要視されていて「生み出したいものは何か?」ではなく「売れるものは何か?」という問いばかりが議論されているように思えました。

それではモノづくりに未来はないし、実際に日本のモノづくりが衰退している原因もそこにあると思っています。モノづくりの原点に立ち返るためにはどのような仕組みが必要なのか?という課題に正面から向き合ったのが、この『新世界』プロジェクトです。

どれだけマーケットリサーチをしてリスクを減らしていると思っていても、実際に世に送り出される作品・商品・サービスがヒットするとは限りません。よく「○○のヒットの理由」などと言われますが、ヒットの法則が本当に存在するのであれば、世の中ヒット商品だらけのはずなのに、現実は違います。では、何を拠り所にして私たちはモノづくりをすればいいのだろう、と考えました。

『新世界』のメインビジュアル。

そこで私は、どうせ結果が予測できないのであれは、自分が信じるもの、つまりワクワクするものをつくるしかないと思いました。最悪それが直近の結果に結びつかなかったとしても、未来の結果は違うというのは、これまでの芸術の歴史が証明しています。

このような考え方が「青臭い」と一蹴されることもわかっています。当たり前の話ですが、お金が絡むからです。様々な企業の新商品開発に多大な資金が必要なように、映画も巨額の製作費を必要とします。

このジレンマをどう解決すればいいのか?と考えあぐねていたら、とある記憶がよみがえりました。最近は減りましたが、私はCMの監督として制作の現場にいたこともあり、多くの企業の社長さんや友人と話す機会があるのですが、彼らの多くは自社の商品やサービスの広告のために億単位の資金を使っているにもかかわらず、どこか釈然としない雰囲気で私に問いかけてくるのです。

「紀里谷さん、もっと面白いことできないの?」「なんか違うやり方ないの?」と。こちらとしては「え?そんなこと思ってたの?納得してCMつくってたんじゃないの?」と驚いたんです。

でも、よくよく考えたら納得できる話でした。起業家の多くは、芸術家と同じで、誰もがこれまでとは違った商品やサービスを生み出すことを目指していて、「今まではこうだったけどもっと良くできるはず」とか「もっと素晴らしい世界をつくってみたい」とか、みんな夢があるんですね。

それは僕の「こういう作品つくってみたい」という想いと同じです。つまりお互いが、先にも述べた「新しい可能性の提示」をしようとしているのだ、と気がつきました。それであれば、直接会って、直接話し合って、つながって、お互いが面白いと思える、ワクワクしたことをやればいいのではないか?と思ったのです。

次ページ 「監督自らが広告主企業の社長とブレスト」へ続く