ボスニア紛争をめぐる国際情報戦にPRパーソンが深く関わる実態を2000年放送の「NHKスペシャル」をもとに描いた『戦争広告代理店』。著者の高木徹氏は今、どのようなテーマに関心を持っているのでしょうか。
※本記事は『広報会議』150号(2021年6月1日発売)より転載しています
『戦争広告代理店』のもとになった「NHKスペシャル 民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~」の放送から20年以上経ちますが、今も番組づくりでPR視点を意識することはあります。
世界が評価したNZ首相の配信
コロナ禍において素晴らしいリスクコミュニケーションを実施した、と感じたのはニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相です。同国はこれまでのところ感染者数を低いレベルに抑えています。広報の皆さんにぜひ研究してほしいのは、2020年3月ロックダウンの措置を発表した日の夜、同首相がFacebookを通じて発信した動画です。「カジュアルな格好ですみません、子どもを寝かしつけていて」と言いながらも、その内容には科学的な根拠も含まれ、原稿の読み上げもしていません。未曾有の非常事態に、少しでも不安をやわらげ、共に戦おうとする姿勢が伝わるメッセージでした。
もちろんこれは誰でもできる手法ではありません。アーダーン首相は大学でコミュニケーションを専攻し、PRの仕事に就いてもおかしくないスキルがあるのではないかと思います。現職首相として産休を取得してきた経歴も活きました。国民に語りかけたこの動画は、世界を駆け巡り、評価され、コロナ禍でのニュージーランドの存在感を高めたと思います。置かれた環境、資産をいかに活かしPRにつなげるか。これは企業広報においても同様で、広報の手腕が問われるところです。

