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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

「音楽人生30年、“ベテラン”ではなく、“新人”と呼ばれたいが一心で小説を書いた」(ゲスト:松尾潔)【前編】

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直木賞作家・白石一文からずばり一言、「あなたは小説書きたい人でしょ」

権八:音楽プロデューサーという立場で表現したり、エンターテイメントに関わったりしてきて、今回小説を書いたのは「やっぱり小説じゃないと描けないものがあったのかも」っておっしゃっていた。それはなぜですか?これ、もしかしたら核心かもしれないんですけど。

松尾:いきなりド直球来ましたよね。僕は小説が書きたいというよりも、澤本さんとご一緒してた頃からずっと今でもやってることがあるとすれば、物語をつくりたいんですよ。ストーリーメイキングっていうことやりたくて。それって音楽をつくることで十分満たされてきたんです。物語って別にバーバルである必要ないし、インストゥルメンタル音楽だって物語だと思うし。ましてや歌詞がついてるポップミュージックとかだと、そこにわかりやすいストーリーもある。メロディーの起承転結や序破急でも何でもいいですけど、そういうところでストーリーってつくれるから。もっと言うと、「この楽曲とこの人を結びつける」ってことが物語の始まりかもしれない。そこで僕はすごい満ち足りた気分でずっと仕事やってきたんです。予想や期待以上の商業的な結果も出てましたし。だけど、会う人会う人に「小説を書かないんですか」みたいなことはずっと言われ続けてきたんです。

権八:えっ!

松尾:それって僕すごい失礼なことだなと思ってきたんですよ。「いや、だから、音楽つくってるじゃないですか」って。「じゃ次はいよいよ小説ですか」って、物語づくりのゴールや上位に小説があるみたいな物言いにいつもカチンときてたんですよ。ドラマや映画の主題歌もつくるから作家さんとのお付き合いも増えてきますよ。そういった人たちの発想は面白いなって思うし、もちろん小説読むのも好きです。つくる人に対しての敬意は持ってるけど、コンプレックスを持ってるわけじゃなかった。

ただ、そういった作家さんや編集者の方が「松尾さんの小説読みたい」みたいなことを言われる機会が増えてきて。それこそ澤本さんとご一緒してた2002年ぐらいに、小説家の藤田宜永さんからもかなり熱く「小説書かないか」って言われたんです。ちょっと気持ちが動いたけど「いや俺、音楽で物語つくってますから」みたいな(笑)。そういう青い反骨心もあったんです。

2013年に、今度は小説家の白石一文さんとご一緒する機会があって。そのときに「あなたは小説書きたい人でしょ」って言われたんです。いろいろ反論したんですけど、見事に論破されちゃったんですよね。これ、どういうことかっていうと、みなさんもご自身の生活に引き寄せて考えてもらうと共感しやすいと思うんですが、僕は小説書くんだったら自分が読んでるようなきちっとした構成のものが書きたい。けどそれはどう考えても本業の音楽の仕事を続けながら書くのは絶対無理だと思ったんです。正直そんな時間もないですし。執筆どころか取材もできないと思うって白石さんにお話ししたら「松尾さん、あなたが今いる音楽業界、その場所こそ、誰もが知りたい場所です」って乗せられちゃったんですよ。「取材したくてもできない場所でもある。しかも松尾さんは相当入り込んでる。もう取材はできてるのかも」って。白石さんは作家に転身される前は文藝春秋の名編集者でしたから、今考えてみるとそうやって乗せるのが上手だったんでしょうね。「そうかぁ……」と完全にやり込められて。

とはいえ、その時45歳ぐらいでしたから「この歳でどうなんでしょう?」って言うと「松尾さん、小説っていうのはね、僕はメジャーリーグみたいなもんだと思うんだよね」と。みなさんありません?酒場で「〇〇は~~のようである」って言われて、その真意の最適解が一瞬出てこないみたいなとき(笑)。

権八:あります(笑)

松尾:「えっ、その心は?」って聞いた時点でもう負けてるんですけど。白石さん曰く、アメリカではベースボールは国技のようなもので、少年たちはメジャーリーガーに憧れて野球をやる。そうやって頑張ってレジェンドになったアメリカ人もいるけど、ただそれ以外にも、例えば日本の松井秀喜や、韓国の誰々とかメキシコの誰々とか、それぞれの国のひとかどの人物たちが集う場所でもあるんだと。そういった人々を貪欲に受け入れることで、メジャーリーグは場合によってはその定義さえ変えながらどんどん大きくなってきたんだと。小説ってそういうもんだと思うんですよって言われて。つまり、異業種で、しかもそこでいろんな経験をされた人が入って来るのを我々は両手を広げて歓迎します、みたいなこと言われて。そこで僕は「う~ん……」って。

澤本権八中村:(爆笑)

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