Q人的資本への投資が重視されるようになった背景は?
A アイデアを創出するのは人。投資対象として人材に重点を置くように。
人的資本が重視されている根底には、ビジネス構造の大きな変化があります。企業における価値の源泉が、工場などの物質的なものから、知的財産やブランドなど、非物質的なものへと移行しているのです。一部の製造業では、工場を持たず、製造を委託し、製品の企画やブランド管理などに特化しています。つまり、アイデアやクリエイティビティが、これからの企業の成長に欠かせないわけです。それをつくり出すのは人間の頭脳。AIにはできません。だからこそ投資対象として、アイデアを創出できる人材に重点を置くようになったのです。
日本は人的資本への投資が遅れていると言われます。世界経済フォーラムが発表している国際競争力ランキングを見ても、研究開発分野に比べ、従業員の教育・訓練分野が低いことが分かります。外国人投資家が多い日本企業は、教育・訓練費を増やしているものの、さらなる投資が求められています。
加えて日本は、超高齢社会です。自ずと、人生において仕事をしている時間が長くなります。入社したときに使えていたスキルが、何十年後かに使えなくなる、といったことが起きるわけです。別のスキルへと切り替えられるよう、従業員の教育を行い、長く働いてもらえるよう保障する。それが企業の役割になってきています。
また、年齢、性別、国籍、人種、障害の有無などにかかわらず、多様な背景を持つ従業員を受け入れていくことも、企業の社会的な責任に。多様な人材がいればイノベーションが生まれやすい環境になることから、人材の割合を数値化するなど、情報開示が求められています。
一方、若い人については、給料や昇進といった「外的報酬」だけでなく、仕事そのものにやりがいを感じたり、能力を身につけていく「内的報酬」もふまえて、働きがいと捉えられています。従業員が進みたい方向と企業の理念が一致していると、働きがいは高くなる傾向がありますから、その人の行動と企業の理念がリンクしているかもポイントです。ですから人材を重視するとなれば、理念に基づいた経営も、より力を入れていくことになるでしょう。