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コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

テレビは私たちの発明を待っている!―コネクテッドTVのお話

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©123RF

ネットもオールドメディアも勝者がいない!?メディアビジネス

もはやここに書くのも「年一」ペースになってしまい、それでも連載かよ、という感じになっています。すみません。でも、やっぱり私のホームグラウンドは広告業界で、「アドタイ」の原稿は続けねばとの思いです。今年は年一を脱却したいと思います。

さて広告業界は今、冬の時代を迎えています。何しろすべてのメディアが元気ない。2000年代からずっと、ネットがオールドメディアを侵蝕してきたわけですが、今はみんなしぼんでいる状態。IT巨人と言われたGoogleやFacebookの成長も止まったようですし、勝者がいない状況になってしまいました。

テレビは中でもはっきり「敗者」になっています。コロナ禍で視聴率は大幅に増え、一方で放送収入は大幅ダウン。そこから、放送収入を取り戻した時期もありましたが、視聴率がダダ下がり、放送収入も結局はダダ下がり。このまま下がり続ける気配が濃厚です。

来るべき時が来た!しかもコロナ禍で前倒しになった、と誰もが感じているようです。コロナ禍によりYouTubeやNetflixをテレビ受像機で見る人が増え、それが視聴率に影響を及ぼすようになってしまった。いずれそうなると言われていたのを、コロナが時計を早めてしまったのです。

そんな中、コネクテッドTVがバズワードになっています。ここに手を出しときゃ間違いない、というムード。テレビにHDMI経由で外部端末を繋いだり、最新のテレビ受像機だとアプリとして内蔵され、様々なサービスが楽しめるようになった。ネットに繋がったテレビは新しい広告メディアにもなる。放送収入が減ってもコネクテッドTVによる新たな広告市場が生まれるのだ。そんな空気が漂っています。

ただ、これはそう簡単ではない。というのは、コネクテッドTVの広告市場を担うサービスがまだ、TVerとABEMA、そしてYouTubeくらいしかないわけです。はっきり言ってテレビ広告市場の次を担うには物足りない。市場として育つにはプレイヤーがひしめき合う状態にならないと。

すでにレッドオーシャン 淘汰の段階に突入したSVOD市場

SVODはこの10年ほど、ひしめき合ってきました。2011年に日本にhuluが上陸し、3年後には日本テレビが買収。2015年には満を持してNetflixが、そしてAmazon プライムビデオが日本でサービスを開始。Gyaoから分離したU-NEXTもコツコツとテレビで伸びてきました。FOD、Paravi、TELASAと日本の他のテレビ局のサービスもテレビ画面に進出。さらにAppleTV+やDisney+など強力な外資勢が参入し、群雄割拠の状態になった。コロナ禍で「うちのテレビってネットに繋がるんだ」と知った家庭が続々それらに加入し、市場は一気にレッドオーシャン化したわけです。

正直、今は淘汰の段階に入ったと思います。実は私も、2回に渡る断捨離で日本のテレビ局のSVODは全部解約しました。2011年に、やっと来たと狂喜しながらhuluに加入したのが懐かしい。当時まだ幼かった娘の映画的教養を育ててくれたものでしたが、さよならしたのです。日本のテレビ局のサービスは早急に一つにまとまるべきですが、それはまた別の機会に語ります。

VODは、見たいコンテンツが見つからない!?

SVODはひしめき合って淘汰した末、定着したわけですが、広告付きのサービスはどうでしょう。もちろん2022年のサッカーW杯ではABEMAにみんな感謝し、スマホだけでなくテレビ受像機でも見たことでしょう。TVerもぐんぐん伸びてテレビ受像機での視聴も増えています。でもね、2つだと少ないんですよ。ひしめき合わないから。

それと、VODには広告の器として大きな欠点があります。コンテンツを選ばないとCMに接触しないのです。

VODは見たいコンテンツが決まっていればいいですが、決まってない場合、あるいは一つ見終わった後が問題です。うーん、もう少し何か見たいけど・・・。そう逡巡する時間がけっこう長い。私なんか、NetflixやAmazonプライム、U-NEXTと一通りチェックして回って何を見るか決められず、結局30分無駄に過ごすことが毎日のようにあります。Netflixなんかレコメンドエンジンについて威張ってますけど、私からするといつも同じコンテンツばかり勧めてくる、頼りにならない機能です。個々のコンテンツの情報も、ものすごく少ない。これで選べと言うのか、といつもテレビ画面に愚痴っています。

つまりVODは選ぶ時間が無駄になっている。そう考えると、テレビ放送がいかに優れた広告視聴システムかがわかります。番組を見終わってぼーっとしてると、すかさずCMが始まります。何を見ようか、とザッピングしてると、次々にCMに接触します。時に面白いCMに目が止まり見入ったり。次はこれを見ようと決めると、始まるまでの数分間にCMでお茶を濁されます。そして何よりすごいのは、CMにどれだけ接触しても、まあそういうものよね、と受け流してもらえます。広告を見せるメディアとしてサイコーかよ!と叫びたくなるほど。

YouTubeはそこがうまくいってませんね。誕生から10数年経っても、CMに苛立つ。面白そうだとリンクを踏んで期待を高めて見に来るので、高鳴る気持ちをCMに遮られ、CMの中身に注目する気になれない。早くCM終われ!としか考えないでしょう。だからテレビ放送で知ってるCMじゃないと、効果薄いんじゃないかなあと思うんですけど、どうでしょうね。

とにかく、「コンテンツを選ぶ」VODという形態はCMを見せるのにあんまり向いてないと思うのです。

アメリカのコネクテッドTV市場を牽引するFASTとは?

そこで、FASTです。アメリカでコネクテッドTV市場が伸びている、その牽引役がFASTなのです。FASTはリニア型の配信サービス、つまり放送のようなライブコンテンツではなく、既存のコンテンツをVODとは違って次々に配信するタイプ。放送じゃないけど、放送みたいな配信なのです。そうすると「選ぶ面倒」がないし、ダラダラ見てるとCMに接触しちゃう。ただ、そこに流れるのはあらかじめ用意された「チャンネル」のコンテンツ。ニュース、ドラマ、スポーツなどなど、これを見ようと選んだジャンルのコンテンツが続々流れる。つまり、放送と同じようにCMを見せやすく、VODのように自分の好みのコンテンツが見られる。なんとも都合のいいサービスです。

実はABEMAは、ほぼFASTです。VODサービスもついていますが、基本的には非常にFASTに近い。広告メディアに向いていると言えそうです。

アメリカにはtubiやPluto、Peacock、Roku ChannelなどFASTサービスがまさにひしめき合っています。これらは2010年代に登場しました。その受け皿がRokuです。FireTVのような外部機器でNetflixが2007年に配信サービス事業を立ち上げたのを受けて、その翌年に販売を開始しました。このRokuがNetflix以外のサービスもどんどん加えていった、その中にFASTもあったわけです。そんな言わばポッと出の若いサービス群が今、アメリカ広告市場の一翼を担うまでに成長しています。

さて、そんな話を聞いて皆さんどう思いますか?これからはコネクテッドTVだぜ!と盛り上がるのもいいけど、安易すぎませんか?

あちらのテレビ広告市場は今、新たな成長を迎えています。放送による広告市場は日本同様にダダ下がり、だけどFASTを中心にコネクテッドTVの広告市場はぐんぐん伸びている。それはアメリカでこの10年以上、様々な人たちが努力してきた結果です。そこにはいくつかの「発明」がありました。SVODという発明、それを載せるRokuという発明。そこに載せる前提でのFASTという発明。当初、2020年代にFASTが広告市場で伸びるんだよ、なんて誰も言ってなかったでしょう。ただ、きっとこれいいと思う!みんなにとって便利だと思う!その積み重ねだったのだと思います。

テレビは新たなパラダイムで、新しい成長を始めるべき時

ひるがえって私たちの業界はどうでしたか?はっきり言って「芽を潰す」ことばかりやってきてたんじゃないですか?日本にも多分いたんです。発明しかけた人たちは。ところがそれに「そんなことしたら放送がどうなるんだ!」「視聴率に響くんじゃないのか?」そんなことばかり言ってきた。
未来を思い描こうともせず、人々にとっての意義や価値を考えようともせず、ただ目先のネガティブな要素だけを見て、「業界秩序」だの「常識」だの「慣習」だのを振りかざし、有無を言わさず全否定してきた。発明の芽はことごとく潰されてしまった。同じようなことを今も言う人がいたりします。「そんなことうまくいくはずがない!」「それはあなたがたの範疇ではないはずだ!」そう言って否定ばかりする声が噂で今も聞こえてきます。

でもまだ間に合います。発明しましょう。発明してください。FASTはモデルにしやすいと思います。よその国の発明ですが、こんなFASTが作れるんじゃないか。そのためにあそことここと組めばいいんじゃないか。考えやすい題材ではないでしょうか。

テレビは今、「放送」というパラダイムでの成長を終えた段階です。紙媒体と違って「放送」はなくならないし、今後も意外に大きなポジションを確保するとも思いますが、縮小は避けられない。でも、テレビは新たなパラダイムで新しい成長を始めています。それがコネクテッドTVです。もう一つ、テレビがメディアである限り、広告モデルがベースになります。SVODはメディアの形態ではない。サービスのプラットフォームです。メディアの側面を支えるのは広告事業なのです。そのことを広告業界は忘れてはいけません。広告メディアとしてのテレビ受像機は、私たちの発明を待っています。

【参考】
日本のコネクテッドTVを広告市場に成長させるのは誰か(月刊『宣伝会議』2023年2月号)

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Borer」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書「拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―」  
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