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コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

詐欺広告より恐ろしいMFAサイトを深掘りすると、コタツ記事との違いがわからなくなる

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広告媒体の効果計測を逆手に取り、広告単価を吊り上げる悪質なMFA

年に1回ぐらいになっていたこの連載。先月の記事の反響が大きく、月刊「宣伝会議」2024年5月1日発売号での徳力基彦さんとの対談にもつながりました。またこの1カ月で急にテレビで「著名人なりすまし詐欺広告」が取り上げられ、前澤友作さんが自民党に対処をお願いしに行ったり、Meta社が声明文出して火に油を注いだり、自民党の中で「広告停止を検討すべし」との声も出たり、にわかに話題が拡大しています。

政治が動く前に、広告業界あるいは広告主が毅然とした態度を示すべきタイミングだと思います。たまたま先日、まったく別のことで取材したライフネット生命の方々も3月の私の記事を読んでいらして「ネット広告の荒れ方には頭を悩ませています」とおっしゃっていました。

そこであらためて、「SNSの詐欺広告に対処は検討していますか?」と質問を送ったら以下のようなオフィシャルな回答をいただきました。

「報道されている内容を参考にする限り、Meta社が詐欺広告に対して放置し続けるような対応を続けるのであれば、当社としては広告出稿の停止も辞さない判断に至る可能性はあります。詐欺広告が横行してしまっている媒体に当社ブランドの広告を出稿することで、この詐欺広告を媒体同様に許容しているかのように見えるのであれば、ブランド毀損にあたるのではないでしょうか。媒体の姿勢は広告効果以上に重要視されるべきと思います。」

非常に毅然とした姿勢を示されていて、素晴らしいと思います。ライフネット生命さんに限らず、きっと今あちこちの企業で、詐欺広告の蔓延にどう対処するか、広告出稿を控えるかを議論していることでしょう。広告主企業の皆さんがこうした発信をしたり、場合によっては、実際に広告出稿を停止することが、いちばん効果があるのではないでしょうか。皆さんの今後の動きに期待します。

ただ、詐欺広告はある意味、問題がわかりやすい。それに比べると、前回の記事で紹介したMFAサイトは大変わかりにくい問題です。詐欺は犯罪だから取り締まるべきと言えるけど、MFAはあやふやなので対処も曖昧。

そこで、MFAサイトに詳しいSpider Labs社の方に取材しました。聞けば聞くほど、底知れぬ得体の知れなさに恐れ慄いてしまう。そんな話が聞けました。

Spider Labs社はSpider AFという不正広告対策ツールを開発、提供しており、注目されている会社です。

Spider AFは不正な広告クリックを検知してブロックし、広告費の無駄を防ぎます。MFAサイトへの広告掲載を停止する機能もあり、だからこそMFAをすごく研究しているわけです。

ではMFAサイトはどんな形でネット広告のエコシステムに侵入してくるのでしょう。Spider LabsのVP of Service, Product Operations増田潤氏はこんな説明をしてくれました。

「アドネットワークではMFAサイトが配信先となっていることがあります。大手事業者のアドネットワークは審査もしっかりしていますが、低品質なサイトが実は紛れ込んでいます。」

さらに恐るべきことに、MFAサイトは広告主としても出没するそうです。

「彼らは広告主として広告枠へ出稿してクリックを集め、遷移先のMFAサイト内にたくさんの広告を貼り、その広告枠より収益を稼ぎます。この差分が彼らのビジネスモデルとなっています。」

広告単価を高めるために、巧妙な動きもしているそうです。

「多くのWEB広告主の目標はコンバージョン獲得ですが、MFAサイト上でクリックして申し込みや問い合わせがあると、成果が発生しやすい優良なサイトと判定されます。単価が高くても広告を出そうとするロジックが働き、MFAサイトにさらに広告収益をもたらすこともあります。ただしMFAサイト経由の申し込みや問い合わせの大半はいたずらなもので、その後の転換がされない無効なコンバージョンであるケースが複数確認されています。広告媒体の効果計測および機械学習を逆手に取り、単価を吊り上げており悪質です。」

ではMFAサイトはどう判別するのでしょう。

「判別の定義は難しいところがあります。興味を引くタイトルをつけクリックさせたいフォーマットを作って、続きは次のページに飛ばしてビューを稼ぐ構成。ページの中の広告がすごく多い。そんなサイトをMFAと弊社では捉えていますが、業界として基準があるわけではありません。一例としては、今までMFAサイトと判定したものとどれだけ近いのかを弊社では見ています。」

MFAサイトの例として見せてもらったのは図にするとこんな構造です。

図

一昔前に「まとめサイト」と言われる、主に2ちゃんねるから投稿を引っ張ってきて載せ、やはりペタペタ広告だらけのサイトが流行りましたが、その進化形にも見えます。

見た目がどうにも汚くて不快で、ひと目で「これ怪しいやつや!」と感じますが、スマホで暇つぶしにスクロールするのに適していて、ダラダラ見てしまう人も多いのかもしれません。

スポーツ紙や芸能誌のコタツ記事と生成AIによる適当な記事、何が違う?

あまりにも不正を働くサイトだと、アドネットワークから掲載停止されたりもするようですが、なかなか根絶は難しそうです。だからこそSpider AFのような第三者による計測ツールはこれから広告主にとって欠かせないかもしれません。

ただ、MFAサイトの例を見て思ったのですが、まっとうな出版社が運営しているメディアでも、似たような画面ってありますよね?前回の記事では新聞と雑誌のデジタル版の広告費が前年比で横ばいもしくは下がっていることを書きました。そしてそれらデジタル版のページ上の広告が過剰になってきたことも。

さっきのMFAサイトの構造のように、見出しと記事の間に広告が入り、記事の途中にもたくさん入り、「続き」と「次へ」が表示されて記事の続きはどっち押せばいいかわからない。そんな記事、珍しくないです。

そうするとね、スポーツ紙や芸能誌がよくコタツ記事出していて、やっぱり広告だらけのページになってますけど、テレビでタレントが適当なこと言ったのを放送中にもう記事にしてることと、生成AIによる適当な記事と、何が違うんでしょう?変わらないよ!

MFAサイトとコタツ記事が似ているとすると、広告主企業がMFAサイトと同じようにコタツ記事もブランドセーフティに問題があると判断する日が来るかもしれません。メディアの皆さんはこのタイミングで、自分たちの広告表示を見直すべきではないでしょうか。

あるいは逆に広告主企業の皆さんも、MFAサイトだけでなく、まっとうなメディアでさえも広告出稿先として適切かどうか、チェックしてみる必要がある気がします。

MFAサイトは悪意ある集団が運営しているわけですが、それが突きつけているのは何かをメディアの側も広告主の側も考えなければいけないでしょう。悪意ある集団がなぜ蔓延るのかは、メディアも広告主もそういうスキを作ってしまっているからです。どんなコンテンツでもインプレッションが稼げればいい。メディアも広告主もお互いそう考えているからこそ、MFAサイトにしてやられるのです。

メディアはちゃんとしたコンテンツを載せる、という当たり前のことに向き合うべきです。広告主はちゃんとしたコンテンツが載っているから広告を掲載するのだという、当たり前の姿勢を示すべきです。

詐欺広告についてはMeta社が世間の槍玉に上がっています。でもそのうち、ネット広告全体に厳しい目が向けられるかもしれませんよ。実際、すでにアドブロッカーを利用する人が増えています。不快な広告が増えるほど、ブロックする人が増えてはいたちごっこです。そうしたらまた来年、新聞・雑誌由来のデジタル広告費は下がってるかもしれませんよ。業界全体が変わるべき時です。皆さん真剣に考えてください。

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