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ジャニーズ問題、広告主はどう向き合うべきか タレント事務所の不祥事とジレンマ

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ジャニーズ事務所に所属していたタレントなどが故・ジャニー喜多川前社長から受けた性被害について告白し、広告界においても、対応に関する模索が続いています。戦略PR、広報、メディア戦略を専門とする片岡英彦氏が解説します。

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ジャニーズ事務所は、日本の芸能界で最も影響力のあるタレント事務所の一つです。所属タレントは、テレビドラマ、映画、CMなど、さまざまなメディアで活躍しています。そんな同事務所の不祥事は、日本の芸能界に大きな衝撃を与えました。

ジャニーズ事務所(写真=ロイター/アフロ)
ジャニーズ事務所(写真=ロイター/アフロ)

本件により、広告業界では、広告主がタレント事務所とどのように付き合うべきか、という議論が巻き起こっています。そこについては、いくつかの考え方があります。

一つの考え方は、契約を解除するというものです。この考え方は、本件が広告主のブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があるため、広告主の利益を守るためには必要な措置であると考えられます。

もう一つは、逆に契約を継続するというものですが、この場合、広告主はジャニーズ事務所に対して、不祥事再発防止のための対策を講じることを要求する必要があります。また、広告主は、自社のブランドイメージがジャニーズ事務所の不祥事によって損なわれるリスクを認識し、そのリスクを回避するための対策を講じる必要があります。

広告主がジャニーズ事務所の不祥事についてどのように向き合うべきかは、広告主のブランドイメージやリスクに対する考え方によって異なります。しかし、いずれにしても、広告主はジャニーズ事務所の不祥事について慎重に検討し、自社の利益を守るために最善の策を講じることが重要です。

広告主にとっての難しさ

改めて取り沙汰されているのは、ジャニーズ事務所の創設者である故・ジャニー喜多川氏の行為です。1988年にはアイドルグループ「フォーリーブス」の北公次氏による告発本が出版され、1999年には『週刊文春』がキャンペーン報道を実施しました。事務所は名誉毀損等で版元の文藝春秋を訴えましたが、高裁判決で敗訴しています。

直近では英公共放送のBBCが元所属タレントに取材した内容を放送しました。5月には現・経営陣の対応が注目を集め、一部の関係者やファンからは、事務所のイメージ修復とタレントの保護についての透明性の担保と誠実な対応を求める声が上がっています。

英BBC(写真=ロイター/アフロ)
英BBC(写真=ロイター/アフロ)

広告主にとって、タレントや芸能事務所との関係は複雑です。タレントは製品やサービスの広告キャンペーンを成功させるための重要な手段であり、その人気やイメージが広告の効果を大きく左右します。

タレント個人が不祥事を起こした場合は、広告主には迅速な対応が求められますし、いくつも前例があるように、実際に起用の停止などが行われます。

一方で本件は、事務所レベルの問題に広告主がどう対応するべきかに本質的な難しさがあります。ファンからも、「タレントはむしろ被害者だ」とする主張が出ているようです。同時に、「タレントを起用することで収益が入るのは事務所なのだから、起用すべきでない」という声も散見されます。

さらに事態を難しくしているのは、性加害の発覚(事実認定)は、少なくとも20年前にまで遡れるということです。最高裁は2004年、ジャニー喜多川氏の所属タレントへのセクハラに関して報じた『週刊文春』の記事の重要部分を真実として認め、前年の高裁判決が確定しました。

その時点、あるいはその後の事務所の姿勢などにも目を向けた上で起用していたのであればいざしらず、いまになって初めて問題視したようにファンないし生活者全体から誤解されてしまうと、そうした企業、ブランドの姿勢に対して、疑問を呈する声も出てくるのではないでしょうか。

「CMなどをいますぐ打ち切る」といった拙速な対応はリスクが高く、冷静に検討すべきです。それと同時に、今後の契約更新についての検討の余地も大きいと思われます。

長期視点とブランド価値の維持

タレントは企業のメッセージを具現化するパートナーです。企業にとってタレント(イメージキャラクター)の選定は、自社の価値観や方針に基づき、ブランド価値の維持と生活者との長期的な関係を視野に入れて行われるべきです。

そのため、広告主は短期的な生活者の反応だけではなく、中長期的な価値観をも重視し、慎重に考える必要があります。

タレント事務所自体に不祥事が起きることは、これまでも、これからもあることだと思われます。その後に事務所自体がどう対応したかということが、広告主にとって、ブランドイメージを左右しかねない。今回の件でそんなことが、より明確になったのではないでしょうか。

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題について、ジャニーズ事務所の見解と今後の対応について動画で発信した、藤島ジュリー景子・代表取締役社長(2023年5月14日)
故・ジャニー喜多川氏による性加害問題について、ジャニーズ事務所の見解と今後の対応について動画で発信した、藤島ジュリーK.代表取締役社長(2023年5月14日)

ジャニーズ事務所の問題は、第三者による調査を望む声が再三あがっているほか、国会でも取り上げられたり、所属タレントによる発言などもあったりして、いまなお視線が集まるところです。

言うまでもないことかもしれませんが、パートナー企業のひとつとして、当該タレント事務所が今後、企業としてどのような対応をしていくのかをむしろ注視すべきでしょうし、改善を求めていくことが、広告主としての姿勢を示す上でも重要になると思われます。

たとえばジャニーズ事務所は、不祥事再発防止のための体制を整備し、透明性の高い経営を行う必要があります。また、所属タレントの教育を徹底し、社会規範を遵守する意識を高める必要があります。さらに、広告主や生活者からの意見を真摯に受け止め、改善に努める姿勢を見せることが重要です。

すでに、所属経験者を対象にした外部機関としての相談窓口を5月31日に開設することを発表したり、外部専門家による再発防止特別チームを組成したり、といった手立てを講じているとの発表がありました。さらに、以下のような行動をとったり、打ち出したりすることで、ファンだけでなく、ひいては生活者全体とのコミュニケーションを図り、リレーションを築き、ブランドを構築していくことができると考えられます。

  • 不祥事再発防止のための体制を整備し、透明性の高い経営を行う。
  • 所属タレントの教育を徹底し、社会規範を遵守する意識を高める。
  • 広告主や生活者からの意見を真摯に受け止め、改善に努める。
  • 社会貢献活動やチャリティー活動を行う。
  • 環境問題や人権問題に取り組む。
  • 多様性やインクルージョンを推進する。

いずれにせよ、広告主には、瞬時の状況に動じることなく、企業の価値観を保ちつつも適切に対応することが求められます。これが広告主の役割であり、ブランド価値を高め、信頼につながります。広告主は短期的な視点での契約打ち切りよりも、長期的な視点に立った冷静な判断が重要となります。

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portrait_Hidehiko Kataoka / 顔写真 片岡英彦氏

東京片岡英彦事務所 代表
企画家・コラムニスト・戦略PR事業
片岡英彦(かたおか・ひでひこ)

日本テレビを経て、アップルコンピュータのコミュニケーションマネージャー、日本マクドナルド マーケティングPR部長などを歴任。企業のマーケティング支援活動のほか、WOMマーケティング協議会発足時のガイドライン検討委員、アップデートチームメンバーを務める。東北芸術工科大学 企画構想学科 学科長/教授。