広報の進化が企業にイノベーションをもたらす【前編】

「いいモノを速く大量につくる」だけでは立ち行かない中、ヒト、つまり従業員の変革が経営の鍵を握る時代となっている。その中で、広報パーソンはどのような役割を担うべきか。「従業員の誇り・やりがい」を引き上げる、これからの広報について書籍『ピープル・ファースト戦略 「企業」「商品」「従業員」三位一体ブランディング』 の著者である矢野健一氏に聞きました。

※本記事の内容は月刊『広報会議』7月号(6月1日発売)の掲載記事に加筆しています。

目次のご確認などはこちらから

矢野健一氏

『ピープル・ファースト戦略』著者
D&Fクリエイツ代表

 

日本に今必要なのはヒトの変革

人への投資や人的資本という言葉を目にすることが増えてきました。その一方で人手不足という声も聞こえてきています。経営資源であるヒト、モノ、カネのうち、昨今の経営の話題の中心にあるのは間違いなくヒトでしょう。これは実は日本が変革期を迎えていることと無関係ではありません。

経済が右肩上がりでモノを作れば売れていく時代は、ひたすらいいモノを速く大量に作る努力がなされました。そこから競争が激しくなり、競合との闘いを勝ち抜くためにモノを進化させ、その競争に勝つだけでは儲けが出ないことに気づくと今度は効率よく儲ける手法を進化させてきました。

現代は、競合よりもいいモノを作り、効率的に儲ける仕組みを持っているだけでは企業の存続が難しい時代です。なぜなら、競合も含めて全員が市場で成長していないからです。

市場は新しい需要、すなわちイノベーションを求めています。拙著『ピープル・ファースト戦略』の中でも述べましたが、私は日本が今再び創業期に入ったと考えています。イノベーションを起こし、新しい日本の競争力の種を作り、育てる必要があります。

そこで最も威力を発揮する経営資源は、モノでもカネでもなく、それらを生み出すヒトなのです。これまで日本はモノやカネを進化させて戦う術は磨いてきましたが、残念ながらヒトについては手つかずであったと言わざるを得ないでしょう。だからこそ、今の時代になって、学校教育の在り方から、働き方、学び直しやリスキリングなどの生涯教育、すなわち子どもから大人まであらゆる世代のヒトに関する改革が声高に叫ばれているのです。いよいよ最後の経営資源であるヒトが戦略上の大きなカギを握る「ピープル・ファーストの時代」になってきました。

 

持続的成長とはイノベーションを繰り返すこと

昔は、企業の寿命は30年と言われていました。それはひとつの成功モデルが生まれてから衰退して撤退するまでの期間を表しています。

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