営業が必ず押さえるべき「BANTCH」とは?
前回の「営業編」前編では、競合プレゼンの勝敗の鍵を握るのは営業であること、また営業に求められる情報収集やスタッフィングについて解説しました。後編ではどんな情報が有用であるかをさらに掘り下げます。
さて、「BANTCH(バンチ)」という言葉を聞いたことはありますか?
「BANTCH」とは、
✔ Budget(予算)
✔ Authority(決裁者)
✔ Needs(ニーズ)
✔ Timing(スケジュール)
✔ Competitor(競合他社)
✔ Human resources(人員体制)
の頭文字を並べたもの。競合プレゼンか否かにかかわらず、営業が得意先に商談・提案する上で、絶対に確認すべき事項を漏れなくするための略語です。
競合プレゼンのオリエンシートには、
✔ Budget(予算)
✔ Needs(プレゼンのテーマや目的)
✔ Timing(採用/検討/実施スケジュール)
は書かれています。しかし、
✔ Authority(意思決定者/意思決定方法)
✔ Competitor(競合他社、および、自社も含めた各社への期待値)
✔ Human resources(クライアントの人員体制)
に関しては、なぜだか書かれません。つまり、オリエンシートだけでは、情報として明らかに不足があるのです。これが通常業務であれば、みんな当たり前のようにBANTCHを確認するのですが、こと「競合プレゼンモード」になると、これらの不足を確認せずに突っ走る営業パーソンが続出します。
BANTCHの『解像度』を上げて勝利を引き寄せる
なぜ情報としてBANTCHが必要なのか?それは自社の勝ち筋を見出すためです。この情報のひとつひとつが、プレゼン戦略構築の重要な判断材料になります。
とはいえ「私はちゃんと確認しているよ」と思っている営業パーソンも多いでしょう。意思決定者は◯◯部長、競合他社は◯◯、クライアントの人員体制は◯◯人、といった感じです。しかしこれでは項目を埋めているだけで、情報としての解像度が低いと言わざるを得ません。もっと突っ込んで、もっと解像度の高い情報を掴まないと、勝ち筋を見出すためのBANTCHにはならないのです。
解像度の高い『Authority』の例
例として、解像度高くAuthority(意思決定者/意思決定方法)の情報を得るための視点と、なぜその情報を掴むべきかの理由をまとめます。スペースの都合上、詳しく解説はできませんが、もっと深い情報を知りたい方は、ぜひ書籍でご確認ください。
✔ 『意思決定方法』を知る→意思決定方法には必ずバイアスが潜んでおり、クライアントがどんな意思決定方法を採用するかによって、とるべき対策が変わるから
✔ 『意思決定者』を知る→必ずしも一枚岩ではないクライアントの誰に向き合うかで、プレゼンの力点が変わるから
✔ 意思決定者の『ハンマー』を知る→相手の思考回路(ハンマー)に合わせた説明の話法を採用することで、提案の理解度が格段に変わるから
✔ 意思決定者の『裁量範囲』を知る→クライアントが受け止められる提案の大きさが変わるから(受け止めきれない提案というものも存在する)
『プレゼンオーナー』の決定と宣言
クライアントの「意思決定者」を知ることと同じくらい、「社内の意思決定者」を決めることも重要です。プレゼンオーナーとは、競合プレゼン仕事における社内の番頭であり、すべての最終決定者。つまり、全情報を把握し、提案内容と勝敗に責任を負う人物のことです。
もちろんチームで侃々諤々の議論はしますが、最終的にはプレゼンオーナーの意思決定に全員が従います。決して、プレゼンの前日に出てきて引っ掻き回す、営業の偉い人ではありません。能力と人望さえあればスタッフ職でも担えるとは思いますが、現実的には中堅からベテランの営業パーソンが務めることが多くなると思います。
「ピッチリーダー」でも「プロジェクトオーナー」でも、意味するところは同じです。大事なことは、権限と責任を持つ人物をはっきりさせ、それをチームに宣言・周知することです。この役割を力強く実践できる営業パーソンの存在は、勝つためになくてはならない重要なピースです。
営業とは『目的のために手段を選ばない人』
ちょっと物騒に聞こえたでしょうか。もちろん法に触れない範囲での話ですが、私は営業の仕事をそう定義しています。別の言い方をすると「営業とは、課題解決のためにあらゆる手段を実行する人」です。
例えば戦略プランナーなら、基本的に「戦略思考」という手段を武器に課題解決にあたります。クリエイターなら「クリエイティブ」が課題解決のための手段です。このように、スタッフ職にはそれぞれの専門領域があるので、基本的にはその専門性という手段を武器に課題解決にあたります。
一方、特定の専門性を(あえて)持たない営業職は、あらゆる手段を用いて課題解決にあたります。スタッフを使うのはその一部の行為でしかないですし、スタッフの専門性でカバーできない範囲のものは全て、営業パーソン自らが実行せねばなりません。営業とは、超スペシャルなゼネラリストです。それはある意味では、事業会社の経営層と同じなのではないでしょうか。だからこそ、やりがいのある仕事なのだと思います。
いかがでしたでしょうか?
まだまだ他にもメソッドはたくさんあるのですが、今日のところはここまでです。
✔ 徹底的なクライアントの「不」の解消
✔ 提案の大枠を決定づけるスタッフィング
✔ 勝ち筋を見出すための解像度の高いBANTCH情報収集
✔ プレゼンオーナーとしてのリーダーシップ
本日ご紹介したこれら4つの視点は全て、営業こそがリードすべきものです。そして、どれも勝敗に直結する重要なものばかりです。これらを力強く実践できる営業パーソンとなら、社内スタッフだけでなく、クライアントも一緒に仕事をしたいと思ってくれるはずです。というか、私も一緒に仕事したいです!
次回予告
次回と次々回のテーマは、勝てる「クリエイター」になる。クリエイティブが中心の競合プレゼンはもちろん、フルファネルの総合提案でも、やはりクリエイターが生み出すアイデアは、広告会社の提案の中心になることは間違いありません。
では、通常業務以上に時間も情報もない競合プレゼン業務の中で、どうすれば勝率の高いアイデアを安定的に生み出せるのか? そのために必要なメソッドを厳選してお伝えします。チームを率いるクリエイティブ・ディレクターはもちろん、そこを目指す若手のクリエイティブ職の皆さんも必見です。どうぞお楽しみに!
(次回は7月13日掲載)
競合プレゼンを勝利へ導く営業になるために
広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。
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