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コラム

心に届く「ことば」を探す

文章の師匠は、アイドルです(書評家・三宅香帆)

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9月1日から、第61回「宣伝会議賞」の募集が開始になりました。本コラムでは、第61 回の開催を記念した特別コラムとして、「ことば」の力にフォーカスを当てていきます。コピーライティングの枠組みにとどまらず、「ことば」というものに多角的な側面からアプローチ。各業界のプロフェッショナルに、「ことば」との向き合い方について伺います。第3回は、書評家の三宅香帆さんです。

写真 人物 個人 三宅香帆氏

書評家・作家
三宅香帆

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院卒。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『名場面でわかる 刺さる小説の技術』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』他多数。編著に『私たちの金曜日』がある。

ささやかな気遣いが、相手に届く言葉をつくる

「影響を受けた書き手はいますか?」

たまに、こういう質問をされる。私は普段、本を書いたり、書評を書いたりして生きている。毎日本を読んで暮らしている。そういう人間だからみんな「本から影響を受けているのだろう」と思うらしい。

質問には答えつつも、こういう時いつも、内心思っている。

「私の文章表現の師匠は、作家じゃなくて、アイドルなんだよなあ」

私は女子アイドルが好きだ。AKB48やNMB48、乃木坂46を経て日向坂46など、日本の大人数アイドルグループをまるっと愛して生きている。

日々切磋琢磨して生きる彼女たちの発信術に、私はたくさんのことを教えてもらった。

たとえばある日、いつものようにラジオを聴いていたときのこと。たしか彼女たちのプロデューサーをしている秋元康さんの誕生日のことだった。その番組は秋元さんがメインパーソナリティーでありつつ、ゲストとしていろんなアイドルが入れ代わり立ち代わり登場する、ラジオ特番だった。

ある時、元HKT48の指原莉乃さんがやってきた。

指原さんは秋元さんをイジりつつ、軽口を叩きつつ、短い時間で面白い話題を振りまく。その話術はプロとしか言いようがなく「すごいなー」と感心しつつ聴いていた。

指原さんの終わりの時間がやってきた時、秋元さんが曲振りを頼んだ。ちなみに曲振りとは、ラジオで曲を流す前に、曲のタイトルを言うタイミングのことである。

すると指原さんは言った。

「私の所属するHKT48が出した、とっても夏らしい最高の楽曲です! ●●という曲です、どうぞ!」

――私はこの発言に衝撃を受けた。

曲タイトルを言うだけでいいのだ、本来は。というか他のやってきたアイドルはみんなそうだった。

でも指原さんはちゃんと、曲の説明と、グループの説明を挿入する。

おそらくこのラジオを聴いている人は、HKTのファンだけではなく、乃木坂や欅坂のファンもいる。そういう人たちにもちゃんと分かるように、ほんのひとことで、曲の説明を入れ、そして曲を褒める。

こういうささやかな気遣いが、相手に届く言葉を作るのだ。

私はこの指原さんの発言にいたく感動した。

いまだに本の紹介を書く時、この時のことを思い出す。固有名詞には少しだけ説明を付け足す。年配の方に分からなそうな単語がある時は、ひとこと解説を入れる。分かりづらい言葉をできるだけ使わずに、たくさんの人に届く言葉遣いで、書く。

ほんの少しの、気づかれないほどの、ささやかな気遣い。誰かに届く発信とは、そういうものの集積ではないだろうかと私は思っている。

そしてそのことを誰よりも教えてくれたのは、私の好きな女子アイドルたちだった。

たくさん愛されているアイドルには、たくさんの人に届くための発信術がある。そう思ってアイドルのことを見ると、こんなに文章表現を教えてくれる存在も他にいない。私の文章表現の師匠は、たくさんのアイドルたちだった。

「推し」のアイドルたちが教えてくれた文章表現を使って、私は今日も、本という名の「推し」について思いを綴っている。

そう、「推し」がアイドルじゃなくなった時も、私の文章表現のなかで、アイドルは生き続けているのだ。ひっそりと、でも、たしかに。

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「宣伝会議賞」は、広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。1962年の創設以来、「コピーライターの登竜門」として長年にわたり、若手のクリエイターやクリエイターを目指す方々にチャンスの場を提供してきました。60万点近くの作品が集まる、“日本最大規模の公募型広告賞”として進化を続けています。

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実データ 第61回宣伝会議賞