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コラム

心に届く「ことば」を探す

『言葉にできない、そんな夜。』が生まれた理由(テレビディレクター・大木萌)

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9月1日から、第61回「宣伝会議賞」の募集が開始になりました。本コラムでは、第61 回の開催を記念した特別コラムとして、「ことば」の力にフォーカスを当てていきます。コピーライティングの枠組みにとどまらず、「ことば」というものに多角的な側面からアプローチ。各業界のプロフェッショナルに、「ことば」との向き合い方について伺います。第4回は、テレビ番組「言葉にできない、そんな夜。」でディレクターを務めた、大木萌さんです。

大木 萌氏

NHKエデュケーショナル
テレビディレクター
大木 萌氏

1991年神奈川県生まれ。上智大学文学部卒業。2015年にNHKエデュケーショナル入社。2021年制作の「言葉にできない、そんな夜。」で「ヤング映像クリエーターを励ます賞」優秀賞。同番組は2022年からレギュラー化し、第2シーズンまでを放送。番組から生まれた名表現をまとめた書籍『その気持ち、なんて言う?ーープロに学ぶ感情の伝え方』(祥伝社)『「言葉にできない気持ち」の言語化ノート』(小学館)が発売中。番組公式アカウント(@nhk_kotoyoru)では、今まで紹介した表現や番組の最新情報を発信。

 

気持ちを表す表現に正解はありません。

私はEテレで2021年から放送している「言葉にできない、そんな夜。」という番組の企画・制作を行っています。昔さんざん聴き込んだ曲を、時が経って久しぶりに再生したときに、なんとも言えず胸がキュンとなるあの感じ。日曜の夕方、明日から始まる一週間を思って憂鬱になってしまうあの感じ、など。日常の中で感じる “一言では表せない気持ち”を、しっくり表現してくれる言葉を探すトークバラエティです。

お恥ずかしい話ですが、この番組を思いついたきっかけは、まさに私自身が、言葉にできない思いを日々くすぶらせていたからにほかなりません。会社に行っては帰ってくる、そんなシンプルな毎日ですが、上司に怒られたり褒められたり、努力が報われたり報われなかったり、さっきまで舞い上がっていたと思ったら、途端に追い詰められたり。なんだかんだで心の動きは忙しく、日々いろいろな感情が生み出されていきます。

学生時代は、毎日顔を合わせる友だちにべらべらと話せば、なんとなくノリと勢いで、その感情を言葉にできたような気になっていましたが、卒業してからコミュニケーションの主な場はLINE。文字にすると、複雑な気持ちは「モヤっとした」「すごかった」「なんとも言えない気持ちになった」など、なんとなくの表現にしかならず、気持ちの消化不良感が日に日に募っていきました。

だからこそ、気持ちに対する言葉を見つけられたときの喜びは、なにものにも代えがたいものがあります。

特に覚えているのが、小説家の三浦しをんさんが、推しのライブに初めて行ったエッセイを読んだときのこと。DVDやYouTube越しからだけでは得られない、現場だからこそのあの高揚感。私も経験はありましたが、「臨場感がすごい!」程度にとどまっていたその感情を、三浦さんは「きらめき貯蔵袋が破裂した」と表現されていたのです。

「『きらめき貯蔵袋』って何…!?」という衝撃と、「でもなんかわかる…!」という、すっきり感。そして何より、その表現に出会ってからというもの、自分の中に「きらめき貯蔵袋」の存在を感じずにはいられない、新たな概念を手にした感じ。言葉にできないもどかしさと、だからこそ生まれる言葉にできたときの爽快感を、みんなで一緒に分かち合えたら、と番組の企画書を書き上げました。

番組では毎回、小説家・ミュージシャン・俳優・芸人・アイドルなど、さまざまな分野で言葉と向き合う方々が登場し、一緒に言葉を探していきます。

例えば先ほどの「昔よく聴いていた音楽を久しぶりに聞いたときの気持ち」を、小説家の金原ひとみさんは「真空パックになってたみたいに溢れ出す」と表現。女優の橋本愛さんは「心臓にレモンをしぼった感じ」と表現されました。言葉が発された瞬間、スタジオ全体がどよめいたのをよく覚えています。

さらに、文豪が書いた小説からも気持ちを表した表現を探して、紹介しています。太宰治は「日曜の夕方、憂鬱になってしまう気持ち」を小説『正義と微笑』で「日曜の蔭にかくれている月曜の、意地わるい表情におびえるのだ。」と表現していました。

初回放送後、視聴者の方々から想像以上の反響をいただき、今改めて私たちがLINEやX(旧Twitter)、noteなど、文字を介したコミュニケーションの渦の中にいること、その中で、気持ちを言葉にすることへの関心が高まっているのを実感しています。

気持ちを表す表現に正解はありません。同じ気持ちを見つめていても、その方の経験や性格によって、出てくる言葉はさまざま。ぜひ皆さんも、自分の感覚と似ている表現、まったく新しい見解から、いろいろな言葉との出会いを楽しんでいただき、自分の気持ちを言葉にするヒントを見つけていただけたらと思います。

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  • 「その言葉が、未来を変える。」
  • 第61回「宣伝会議賞」応募のご案内

「宣伝会議賞」は、広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。1962年の創設以来、「コピーライターの登竜門」として長年にわたり、若手のクリエイターやクリエイターを目指す方々にチャンスの場を提供してきました。60万点近くの作品が集まる、“日本最大規模の公募型広告賞”として進化を続けています。

協賛企業からのオリエンテーションを掲載した月刊『宣伝会議』11月号は、9月29日より全国の書店、Amazonで発売中です!

実データ グラフィック 第61回宣伝会議賞