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コラム

名作ラジオCMの時間

聞く人の孤独に迫る150秒のラジオCM エフエム東京「ラジオの夜」篇

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画像 コラムタイトル

第2回 サントリー 角瓶「父が飲まなかったウイスキー」篇(1985年)から、広告の「主人公」を考えるはこちら

ラジオCMがテーマのコラムなので、音読バージョンもご用意してみております。

第3回 エフエム東京「ラジオの夜」篇

わたし、ラジオ好きコピーライターの正樂地咲がお届けします「名作ラジオCMの時間」。

第3回は、エフエム東京の「ラジオの夜」篇をご紹介いたします。第2回でご紹介した、サントリー 角瓶「父が飲まなかったウイスキー」篇(1985年)と同じく、中山佐知子さんによるコピーです。2023年のACC TOKYO CREATIVITY AWARDSの「ラジオ&オーディオ広告部門 Aカテゴリー」で、ACCゴールドを受賞されています。※文末にスクリプトを記載しています。

このラジオCMは、一定のリズムを刻むピアノの単音だけで始まり、音に少し厚みがでたのち、開始から10秒ほども経った頃に、女性の声がそっと混じり物語が始まります。

NA:ひとり暮らしを始めた最初の夜、ラジオを聴きながら眠った。

150秒間もの長尺ラジオCMが静かに幕を開けました。

NA:知り合いが誰もいない東京で、ラジオさえ知らない番組を流していた。
タイムスケジュールもわからず、チャンネルはずっと同じままだった。
その年の春が終わろうとする頃、私はラジオでボイジャーのニュースを知った。

ボイジャーとは惑星探査機の「ボイジャー」のこと。太陽系の果てにいて孤独な宇宙へ向かっているらしい。

NA:ラジオは私にとってひとりの夜と同じ意味だった。

会話する家族も知り合いもいない東京の町で、寂しさが体に染み通り、
隙間ができて、その隙間はラジオの音楽が埋めてくれるという。

そう。そうなのだ。私だってそうだ。
寂しくない人はわざわざ夜にラジオなんて聴かない。
ラジオの夜は、孤独な夜だ。
抜け出したいような、ここに留まりたいような、ただひとりで宇宙を漂うそんな夜なのだ。

そして話はいよいよ終盤へ。

NA:結婚して歳を取ってもあの寂しさは私の中に凍りついて溶けることはない。

これは広告としては意外な展開だと、何度か聴いているうちにふと思った。

だってそうでしょう。寂しさが溶けることはないなんて、そんな現実を、わざわざ突きつける必要が広告にはない。ないことが多い。

そうかこのラジオCMは、聴いている人の心の深いところにまで150秒かけて辿り着こうとしている。そしてこうも言うのだ。

NA:けれどもそれは一人の人間としてこの地上に立つために必要な寂しさだと今は思う。

そう。人生には寂しさが必要で、それが強さになり、生きる力となる。

私は13歳の頃、思春期を拗らせ、話すという行為が急にこわくなった。

本音が言えないのはもちろん、友人におはようと声をかけるのさえ、その瞬間の自分の表情や声色をどうするのが正解わからず、意識し過ぎるあまりに、不自然になり、挨拶さえまともにできない自分をどうしていいか分からなかった。

そんな中学生の頃に出会ったのが深夜ラジオだ。
深夜ラジオは私の隙間を埋めてくれた。

NA:今夜もボイジャーはひとり宇宙を飛び続けている。私のそばにはまだラジオがある。ラジオの夜。TOKYO FM

この先の人生もラジオがそばにいてほしい。私を地上に立たせてくれ。

  • エフエム東京
  • 「ラジオの夜」篇(150秒)
  • 〇C/中山佐知子

NA:ひとりぐらしを始めた最初の夜、ラジオを聴きながら眠った。
知り合いが誰もいない東京で、ラジオさえ知らない番組を流していた。
タイムスケジュールも分からず、チャンネルはずっと同じままだった。

その年の春が終わろうとする頃、私はラジオでボイジャーのニュースを知った。
惑星探査機ボイジャーはその時、太陽系の果てにいて、孤独な宇宙へ向かっていた。

ラジオは私にとって一人の夜と同じ意味だった。

家族から離れて寒いねという相手もいない夜。ラジオの夜。
ラジオだけしかない夜は寂しさが体に染み通ってできた隙間を
ラジオから流れる音楽がそっと埋めた。

結婚して歳を取ってもあの寂しさは私の中に凍りついて溶けることはない。

けれどもそれは一人の人間としてこの地上に立つために必要な寂しさだと今は思う。

今夜もボイジャーはひとり宇宙を飛び続けている。私のそばにはまだラジオがある。

ラジオの夜。TOKYO FM

本コラムは隔週でお届けしていきます。次回は2週間後の12月8日(金)。また皆さまとお会いできますように。

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