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コラム

名作ラジオCMの時間

アイデアが苦し紛れにくっつく瞬間がある――「KINCHO」ラジオCM制作の裏側

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前回のコラム「漫才には勝てない…挫折から生まれたラジオCM『G作家の小部屋』」はこちら

ラジオ好きコピーライターの正樂地咲さんによるコラム、「名作ラジオCMの時間」。前回に続き、スペシャルゲストとして、大日本除虫菊(金鳥)などのラジオCMで約25年タッグを組んでいる、電通 Creative KANSAIのグループ・クリエーティブ・ディレクター 古川雅之さんと、多くのラジオCMを制作しているヒッツコーポレーションのプロデューサー 谷道忠さんが登場です。

今回は2023年のACC賞において、ラジオ&オーディオ広告部門でACCグランプリを受賞した大日本除虫菊のラジオCMシリーズ「KINCHO Kingdom」の制作の裏側に迫ります。
こちらから音声もお聞きいただけます。

「思いついた!」を何度も重ねないと良いものにはならない

正樂地:こんにちは、ラジオCMが好きなコピーライターの正樂地咲です。今回もゲストで引き続き、古川雅之さんと谷道忠さんをお招きしています。

続いて、最近つくられた「KINCHO Kingdom」の話を伺えたらと思います。これはもう、どんなオリエンを受けて、どんな思考に至りこうなったのか、わけがわからなすぎまして(笑)。そして気になるのが、チーム内でどうやって見定めて、皆で一つの方向性でクオリティを突き詰めていけるのか、ということです。まずどんなオリエンから始まったんでしょうか。

  • 大日本除虫菊「KINCHO Kingdom Episode0 伝説の始まり」篇(80秒)
  • 〇C/古川雅之

NA:KINCHO Kingdom Episode0伝説の始まり

SE:ダーン

♪(ボリウッド音楽の妙なる調べ)

NA:時は1890年。除虫菊の粉を練りこんだ、世界初の蚊取り線香は棒状のものであった。金鳥創業者・上山英一郎28歳のこと。

客たち:上山さん、こらええわ
ほんま蚊がよう落ちるわ

上山:はい。でも、まだ改良の余地が・・

NA:棒状の蚊取り線香は細いため、40分で燃え尽きてしまう。
さらに運送中には折れやすい、など、課題は山積みであった。

上山:どうしたものか・・

上山の妻:それならあなた、線香をぐるぐるっと巻いて、渦巻きにしたらいいのではないですか。

NA:それはつい今しがた、倉の中でヘビを見た、妻ゆきの発案であった。

上山:そうか…思いついたぞ!
線香をぐるぐるっと巻いて、渦巻きにしたらいいんじゃないだろうか!

上山の妻:あなた・・・それ・・・

♪(インドのプレイバックシンガーによる艶やかな歌):
ソレ ワタシガ ユータンヤーデー
ソレ ワタシガ イマ ユータンヤーデー

NA:蚊取り線香 金鳥の渦巻き
それは、「金鳥の夏」の夜明けであった。

SE:ダダーン(花火)

古川:オリエンはいつも通りで、「夏に流れるので、蚊対策商品を」と。さまざまなタイプの商品があるので、ブランド広告として出したいということでした。それともうひとつは、金鳥ブランドが出すコンテンツとして、今年も面白いなと話題になるようなことをやりたいという。例年通りのものでしたね。

ただ、これが結構難しくて。何か話題になることを考えてもつくれなくて、自分がどういうものをつくりたいかと自分の中ばかり見ていても空っぽなんで(笑)。なにか外を向かないと、新しいことは思いつくことができません。

その中で、とある映画を見たんです。すごい密度の、もう吐きそうなくらいのエンターテインメントで。ブルース・リーの映画を見たあとに「アチョー!」ってマネしているようなものですが、(ラジオCMでもできないか?)と漠然と思いました。でも、密度の高いラジオCMがどういうものかはわからない。そんな状態で、一旦そのまま置いとくわけです。

もうひとつ、他で考えていたのが「大日本除虫菊社史物語」のような物語です。「KINCHO Kingdom」に出てくる、創始者の人の奥さんが「渦巻き」という形状を閃いて、元々棒状だった蚊取り線香が渦巻きになったという話は実話なんです。

そんなストーリーとか、他にも「広告宣伝物語」みたいな感じのアイデアもありました。「マーケティング調査ではなく自分の感覚で物事を決めよう」とか、「世の中に届いてなんぼ」みたいな、金鳥さんの広告奥義をつくろうかなとか。それをまた、途中で置いておいて。

正樂地:すごい。どんどん、突き詰められている感じで。

古川:よく「何かと何かをくっつけるのがアイデア」って言うじゃないですか。でもアイデアって、何かと何かを無理やりにくっつけてもうまくいかないんですよ。苦し紛れに、何か勝手にくっつく瞬間があるんです。アイデアの中にもアイデアがいるというか。

さらにテレビCMをつくる時も、「これとこれがくっついた!」と思いついて企画をし始めても、そこからあと何回か「思いついた!」がないと、良いものにならない。

若い人たちを見ていると「思いついた!」という一番初めのアイデアだけで完成させていくので、それもわかるけど、やっぱり惜しいなと思うことがあって。「思いついた!」の後に、「思いついた!これに音楽をあてたらどうだろう?」とか、「思いついた!ナレーション無しにしよう」とか、そうして思いつきを重ねていく。

それは1人じゃなくてもよくて、僕にとっての谷さんみたいな人だったり、監督だったりが思いついてくれることもある。思いつくことがいっぱい必要なんですよね。「思いついた!」「思いついた!」「思いついた!」っていうものが重なって、何かこれ引っ付くな?ってというものが出てきたり。ようは偶然なんですよね。

正樂地:だから電車の中で書くことになっちゃうこともあると(笑)。

 

本格派を追求 ボリウッド映画風の音楽はどう生まれた?

正樂地:それにしても「KINCHO Kingdom」は拝聴した時、「これ本物の話? ボリウッドやからヘビってことでもないやろうな?」と、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかがわからない不思議さが、面白いなと(笑)。

でもこうした物語の中でも、お店に行ったら買えるものの話をしているのがすごいなと、ずっと思っています。あと、音楽とかはどうやって研究してああいうことになったんですか?

:これもデモづくりから始まりましたね。歌手がやはりインドの方じゃないとあの本格的な声は出ないので探していたら、teaさんというアーティストを見つけました。インド生まれで、アメリカの大学で音楽を学ばれて、日本でソニーからデビューした方です。

teaさんの事務所に連絡をしたら、日本人のミュージシャンの旦那さんと共に、ボリウッド映画の仕事で、インドに1カ月ほど行くことになるんですと。だから今、日本でレコーディングは難しいんです、と返事が来まして。そこでしめしめと思って、リモートで繋いでインドで音楽をつくったら本格的になるし面白いんちゃうかなって思ったんです。

そう伝えてみたら、この前リモートで日本と繋げて音楽制作をしたことがある、と言うんです。「やったー!」と思って(笑)。そこで追加で、映画音楽をやっているインド人の作家を絶対混ぜてほしいとリクエストをしたら、友達関係を探してくれて、本当にインドの音楽をつくっている人が参加してくれることになりました。本格的なものを目指して、徐々に近づいていったということです。

古川:奇跡的でしたね。インドの女性で、日本語でも歌を歌える方で、しかも旦那さんが日本人と。これがまず奇跡ですよね。

:旦那さんがパイプ役になってくれましたね

古川:そうですね。やっぱり、笑いのツボをわかってくれるんですよね。リモートで打ち合わせをして、向こうはスナック菓子を真ん中に置いて食べながら、これが日本からのオーダーやけどどうすればよくなるのかな?とか話して、つくってくれましたね。

:意外と関西弁の発声が(インドの言語の発声と)近いんじゃないか?とか、発見して。

古川:「ゆうたん~や~で~」とかね(笑)。

ちなみに、元はこういうプレゼン資料でした。(日本の企業の物語とインドの音楽の融合という観点から)カレーライスのような、「スパイシーな人間賛歌シリーズなのだ」って。AIでビジュアルをつくって提案しましたね。

スライド KICHO Kingdom
スライド KICHO Kingdom
実際に古川さんが作成したプレゼン資料。

正樂地:……怖い(笑)。なんだか断れない何かを感じます。

古川:(笑)。でもその圧は、すごい大事なことだと思っています。

:でも、こうして企画で毎回チャレンジすべきところが必ずあるのがありがたいですね。挑戦してみると、最終的にいいものになったり何か評価されたりと、循環している気がします。

正樂地:最後に、これは純粋な興味から聞きたいのですが。古川さんたちは毎年ラジオCMをつくるなかで、こんなにやり切ってしまったあと、また来年のものが始まる時、スタート時の気持ちは「よし今年もやるぞ!」なのか、「しんどい、楽しいけどもう1回あの去年のやつ来るんか」っていう感じなのか、どんな具合でしょうか?

古川:こういう言い方したらアレかもしれないけど、そんなに毎回毎回ヒットしなくても仕方がないかなと思っていて。

その年、その時のベストは尽くすのですが、それがすごく良いものになるかどうかというのは巡り合わせもあるし、考えてもそこまで思いつかない年もあるだろうし。思いついたけれどやってみたらそこまで、という可能性もある。でもそれは仕方がないなと思っていないと、絶対思いつけなくなってしまう。そこまでプレッシャーを感じていたら、ちょっとしんどいかなと。だからちょっと他人事のように、「また時期がきたら考えましょうか」って感じかな。

だから1年間ずっと考えているわけじゃないですね。こういうのどうかな?と思ったりする瞬間もありますが、それが別に使えるわけじゃなくて。1年近く忘れて、もうそんな時期かという感じでやっています。

正樂地:なるほど、ありがとうございます。それでは突然の終わりですが(笑)、ラジオCM好きコピーライターの正樂地と古川さんとヒッツコーポレーションの谷さんでした。

古川:ありがとうございました。またどこかで!

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古川雅之(ふるかわ・まさゆき)

電通(Creative KANSAI)グループ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター。「無視されない広告を」「できればユーモアで解決したい」がモットー。大日本除虫菊(キンチョウ)、赤城乳業、日清紡などのクリエーティブを担当。TCCグランプリ(2017/2020)、ACCテレビグランプリ(2010)、ACCラジオグランプリ(2019/2021/2023)、クリエーター・オブ・ザ・イヤー特別賞(2017)、佐治敬三賞など受賞。OCC(大阪コピーライターズクラブ)会長。

谷道忠(たに・みちただ)

プロデューサー。ラジオCM、テレビCM音楽などの制作、メジャーアーティストの広告マネージメント、関西最大級音楽コンテストeo Music Tryを企画運営して来たヒッツコーポレーションに所属。キンチョウ、Pocky、日産、上田安子服飾専門学校などのラジオCMでプロデューサーを担当。総務大臣賞ACCグランプリ、TCC賞グランプリ、OCC賞グランプリ、広告電通賞オーディオ広告部門最高賞、HaHaHa Osaka Creativity Awardsグランプリほか。