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コラム

名作ラジオCMの時間

漫才には勝てない…挫折から生まれたラジオCM「G作家の小部屋」

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前回のコラム「関西で面白ラジオCMを生み出し続けて25年…「奇跡が起きた!」と思った瞬間」はこちら

ラジオ好きコピーライターの正樂地咲さんによるコラム、「名作ラジオCMの時間」。前回に続き、スペシャルゲストとして、大日本除虫菊(金鳥)などのラジオCMで約25年タッグを組んでいる、電通 Creative KANSAIのグループ・クリエーティブ・ディレクター 古川雅之さんと、多くのラジオCMを制作しているヒッツコーポレーションのプロデューサー 谷道忠さんが登場です。

今回は2020年のTCCグランプリも受賞した大日本除虫菊のラジオCMシリーズ「G作家の小部屋」の制作秘話に迫ります。

いろんな漫才の書き起こしを読んだ

正樂地:こんにちは、ラジオCMが好きなコピーライターの正樂地咲です。今回もゲストで引き続き、古川雅之さんと谷道忠さんをお招きしています。

今回は金鳥のラジオCMの数々が、どうやって生まれてきたのかをうかがえたらと思います。まずなぜKINCHOさんはこんなにラジオCMに力を入れるようになったんでしょうか?

古川:KINCHOさんは元々広告の力を信じているクライアントで、テレビCMは効くと実感されていていますし、広告での成功体験も多いと思います。

その中で特にラジオに力を入れ始めたのは、僕と同じ電通 Creative KANSAIの直川隆久くんが担当したラジオCMシリーズ「金鳥少年」がブレイクしたことがきっかけでした(ACC賞ラジオCM部門で、2016年、17年と連続してACCグランプリを受賞)。

そこから長尺のラジオCMシリーズに注力していこうという流れがあり、僕も直川くんと一緒になって2人で一生懸命つくっています。するとリスナーの方からもファンの声のようなものが届き始めまして、それに応えるべく、商品広告というよりはブランドのコンテンツみたいなものとして力を入れてきました。

正樂地:それでは、おそらくその流れでつくられた「G作家の小部屋」(全6編、各60秒。2019年のACC賞ラジオCM部門でグランプリを受賞)のお話を聞いてみたいです。

  • 「G作家の小部屋 独創性について」篇(60秒)
  • 〇C/古川雅之

聞き手・女性:先生は、ゴキブリでありながら
日本を代表する作家でもあるという・・
まぁ何でしょうか、その、極めて異端な存在なわけですが

G作家:異端ね(笑)
異端というのはまぁそうだけど、真ん中があって端があるわけですね。
卵焼きなんかでも、何切れに切ろうが端っこというのは、
たった二切れしかない訳です。

聞き手・女性:えぇ。

G作家:僕はこれを、多くの平凡と少数の非凡と思ってる。
だからこの6本足にインクをつけて原稿用紙の上を這いずり回る執筆法もね

聞き手・女性:はい。

G作家:まずもって先駆者たれというのが

作家として、またゴキブリとしての僕の矜持だね。

♪~

聞き手・女性:ごちゃごちゃうるさいゴキブリに一撃。
キンチョウ ゴキブリがうごかなくなるスプレー

G作家:使用上の注意をよく読んで正しくお使いください

正樂地:まずこの発想はどこから生まれたんでしょうか。ラジオCMでも、「ゴキブリが主役」という設定はおそらく初めてで衝撃的でした。

古川:KINCHOのラジオCMは、毎回思いつき方が違うんです。「G作家」のときは、「話題になるようなラジオCM」というオーダーをいただいて。当初は長尺でそこそこ面白いものがつくれるんじゃないかといううぬぼれみたいなものもありました。

ただ、お笑い芸人の漫才を書き起こしたものを読んで、全然叶わないなと思ってしまって。2016年に発売された『BRUTUS』(マガジンハウス)の「漫才ブルータス」という号で、サンドウィッチマンとか、いろんなお笑い芸人の漫才が文字で書き起こしてあるんですよ。

写真 『BRUTUS』(マガジンハウス)の2016年11月15日号「漫才ブルータス」特集。
『BRUTUS』(マガジンハウス)の2016年11月15日号「漫才ブルータス」特集。

それを読んだとき、面白いものという感覚でラジオCMをつくれていると思っていたけれども、漫才には全然かなわないし、世の中のお笑いから比べたら点数の低いものだなと……。自分が得意としている会話劇みたいなものでさえ、そんなに大したものをつくれていなかったと実感して。今自分が持っている感覚だけでつくっても、年齢なりの劣化もあるだろうし、そんなに良くないだろうな、やばいな、という感じがして、そこからのスタートでした。

『円楽のプレイボーイ講座』が糸口に

古川:企画を考えるときは闇雲なんですけど、「G作家の小部屋」の時はもう全然思いつかなくてね。

そんな中、目に付いたのが、家にあった三遊亭円楽さんの『円楽のプレイボーイ講座12章』(Solid Records)っていうCDです。酒とかファッションといったことをテーマに「プレイボーイになるための心構え」を円楽さんが語るというすごいマニアックなCDなんですけど(笑)。男前の声で、何十秒か喋った後に、すごくかっこいい音楽が流れるんですよ。それがひとつヒントになりました。

企画を考える時は大体、こうして色んな要素をたくさんためておいた中から出来上がっていきます。

「プレイボーイ講座」の一方で、どこかで考えていたのが、「ゴキブリの擬人化」の企画。

「6本足にインクをつけて、原稿用紙の上を走り回って書く執筆スタイルなんです」っていうのを自分でノートに書いたときに、あっこれは書けるかもと思って。そこから「作家の先生」の言葉を書き始めました。

例えば村上龍さんの『Ryu’s Bar 気ままにいい夜』(TBS系列、1991年放送終了)みたいに、ちょっと文化的なインタビュー番組のような内容が良いかなと思ったり、作家のインタビューの映像を見てみたり。語りがあってかっこいい音楽が流れる、ウイスキーのコマーシャルのような、上質な時間をイメージして原稿を書きました。そしてその僕がイメージした世界観を、円楽さんのCDと一緒に谷さんに伝えたんです。

:それと僕が持っていた、三島由紀夫さんが学生にインタビューされて「なぜ私が太宰治が嫌いか」について話していた音声と、『円楽のプレイボーイ講座』の音楽の部分を当てはめて、60秒の尺で提案前にデモをつくりました。そしたらええやんってなって。

正樂地:それはKINCHOさんが?

古川:いや、僕ら自身がええやんって(笑)。その点、クライアントさんはやっぱり、つくり手の「面白いものになる」っていう確信、本気度を見ているところがあると思います。クリエイターに任せることで本気を出させるのがすごい上手で、割と預けてくれていますね。

正樂地:なるほど。そしてこうしたシリーズものを書き上げるのに、どのくらい時間がかかるものですか?

古川:最初の「6本足にインクをつけて書く」という話を思いついた後に、その場でいくつかテーマを書きました。でもそこから言葉の入れ替えとか、言葉数を減らしたりとか、ちまちま原稿を直しました。

あと全6編あるうちの最後の「G作家の小部屋 死について」篇は、収録日に行きの電車で書いているような状態で(笑)。このシリーズにエンディングが欲しいと思い、ギリギリで書いてもう一案プラスで録音して。あれは奇跡的にいろんなことがうまくいきましたね。

町田康のキャスティングの裏側

古川:なにより、町田康さんにナレーションをしてもらえたのは大きかった。

正樂地:そうですよね。町田さんのキャスティングはどう実現したんですか?

古川:先ほどの三島由紀夫さんのインタビューとかは、声や語りに説得力があって。自分の言葉で喋っている感じは、やっぱり本物の作家だからこそ出るのだろうなと、そういう音声をいっぱい聞いて集めていたんです。その中で町田康さんが自分の作品を朗読してるものがあって。町田さん、いいなと谷さんに伝えたら、「ちょっとパイプがあるんで聞いてみます」って返ってきたんです。

谷さんは音楽関係に強いので、町田さんも音楽をやられていているからその関連で知っているのかな?と思ってて。少しして「町田さんOK取れました。」って来たので、どういうパイプだったんですか?って聞いたら、「Facebookで直接聞いてみた」と(笑)。

:なので、当日まで自分からは、パイプの種類は言わないでおこうと(笑)。

古川:それパイプじゃないですよね(笑)

:不安がらせてもよくないかなと思いまして(笑)。当日に古川さんが気になったらしく、収録が始まる前に、どんなパイプだったのかって聞かれて、まあもう正直に言うしかないんで「Facebookで友達になっています」と。

古川:町田さんのアカウントに見えても、実際に本物かどうか、わからないわけですよ(笑)。

:事前に時間があれば、実際に菓子折りを持って会いにいって話したいと考えていたんですけど、結構バタバタしていて、気付いたらもう本番になってました。

正樂地:なるほど(笑)。一般の方に向けて、「実は声は町田さんでした」という種明かしはどのタイミングでされたのですか。

古川:PRは全くしていません。スタッフリストはKINCHOさんのサイトで出していましたが、気付いた方から広まっていきましたね。

:KINCHOさんは、公式サイトでちゃんとCMを紹介していただけるので、そこでラジオ好きの方が「町田康が出ているぞ!」と見つけてくれて。

正樂地:私もラジオCMの名作「ソニーテープ千一夜 寺山修司 色と音」篇(1984年)とかが大好きなのですが、ご本人の背景が想像できる人がナレーションをすると、それ込みで伝わりますね。

古川:そうですね。やはり町田さんだったからこそヒットしたのかなと。それから町田さんは本物の作家でありながら役者やミュージシャンでもあるので、「演技しないという演技」ができる。本物の作家でも音楽や役者をしていない人だと、作家らしくつくってしまうと思います。その中で今回は作家然として普通に喋った方がいいよねっていうところを自然と判断されたのかなと。実際にブースの中に入ると、町田さんがやっぱりそのままで演技をされて。「ちょっと長かったので削ってください」とお願いした際も、ピタッと尺に入る感じがありました。

正樂地:前回の、「いい話は最後にちゃぶ台返しをして潰したくなってしまう」というのと近いものを感じました(笑)。台本は小説のように美しい文法・文体なのに、内容は嘘くさくて、さらにそれをまたもう1回本物の小説家が喋って、しかも話者がゴキブリということで。もうミルフィーユのような状態ですね(笑)。

古川:はい、違和感のミルフィーユでできていますね(笑)。

〈次回に続く。〉

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古川雅之(ふるかわ・まさゆき)

電通(Creative KANSAI)
グループ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター。「無視されない広告を」「できればユーモアで解決したい」がモットー。大日本除虫菊(キンチョウ)、赤城乳業、日清紡などのクリエーティブを担当。TCCグランプリ(2017/2020)、ACCテレビグランプリ(2010)、ACCラジオグランプリ(2019/2021/2023)、クリエーター・オブ・ザ・イヤー特別賞(2017)、佐治敬三賞など受賞。OCC(大阪コピーライターズクラブ)会長。

谷道忠(たに・みちただ)

プロデューサー。ラジオCM、テレビCM音楽などの制作、メジャーアーティストの広告マネージメント、関西最大級音楽コンテストeo Music
Tryを企画運営して来たヒッツコーポレーションに所属。キンチョウ、Pocky、日産、上田安子服飾専門学校などのラジオCMでプロデューサーを担当。総務大臣賞ACCグランプリ、TCC賞グランプリ、OCC賞グランプリ、広告電通賞オーディオ広告部門最高賞、HaHaHa
Osaka Creativity Awardsグランプリほか。