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コラム

リテールインサイト徹底解剖~小売を知ればメーカーは変わる~

メーカー企業の皆さんは、小売業との「視座」の違いを理解していますか?

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小売業とメーカーの「視座」の違いについて

私が小売業に取り組むメーカーの営業の課題を題材にして本コラムを書こうと思ったきっかけに、小売業とメーカーの営業との商談や打ち合わせに参画する中で、それぞれの「視座」の違いが、両者の意思疎通を妨げているという気づきがありました。

似たような言葉で「視点」や「視野」がありますが、「視点」はものを見るために向けられた視線がそそがれる点を指し、「視野」は一目で見られる範囲や視力が届く範囲を表すようです。

一方で「視座」とは、相手の立場になってものごとを眺めて、それを把握することです。メーカー企業の皆さんは、小売業へ商談や提案活動をするとき、相手の立場になって話ができていますか? 今回は、まさに小売業とメーカーの「視座」の違いについてのお話です。メーカーの皆さんと小売業が考えていることは、何が、どう異なっているのか。小売業のバイヤーほかから実際に聞いた声をもとに、解説します。

©123RF

 

今、小売業が抱える多くの課題

まず、注目したいのは都市部と地域密着型のローカルスーパーマーケットが抱える経営や店舗展開における課題の違いです。人口が密集する都市部では、近年、大手企業同士による経営統合や、ローカルへの新規出店も相次ぐなど寡占化が進んでいます。

一方で、地域に密着して営業を続けてきた地場のスーパーマーケットでは、大型店のようなスケールメリットによる低価格で割安なPB商品の充実や買い物客へのサービスなどでは対抗ができず、単なる割引により低価格訴求と言う「小売業にとって最もリスクの高い展開」に追い込まれている状況です。

メーカーの営業マンが小売業と商談を行う際に、こうした背景があることを知っていることと知らないことでは提案の内容や伝え方にも大きな違いがあると思います。

以前、小売業のバイヤーとメーカーの営業マンの商談の様子を見ていた際に、次のような内容がありました。あれは営業が新商品の発売に合わせて商品の紹介と売り場における販売支援の話をしたときのこと。

「買い物に来られたお客さまにアピールするために売り場のサイネージを使って商品の特徴やキャンペーンの紹介を大々的に行います。動画にはテレビCMのメイキングや懸賞企画など興味深い内容も多数含めています」――メーカーの営業担当者

自社の商品や販売支援に自信を持つ営業が熱く語り終えると、バイヤーはすぐに席を立ってしまい、商談はそのまま終わりました。あとでバイヤーと話をすると、次のような想いや考えがあったようです。

「今、店の電気料金は月額で数十万掛かっている。売り場のカテゴリーを示すコーナー表示や天井に付けた照明の一部でさえも消灯している中、電気を使用するサイネージでCMやキャンペーンの告知をすることは考えられない」――小売業バイヤー

言葉の語尾の印象はもう少し厳しいものでしたが、こうした意味の内容でした。昨今、店頭サイネージ(今後のリテールメディアの効果にも期待をして)を用いての販促活動は増えてきています。メーカーにとっては新たなプロモーション手段として活路を見い出していきたいところだと思いますが、こと小売業にとっては、この数年の電気代や光熱費の高騰がネックになっている状況があるようです。

サイネージは一例にすぎませんが、このようなことを踏まえて、メーカーから提案を行う場合、あらためて小売業の立場や視座で考えて次の点に注意が必要です。

  • ① メーカーの都合から「プッシュ型」(押し売り)の提案になっていないか。
  • ② 小売業や店舗の現状や本質的な課題(利益の頭打ち・労働力不足など)を捉えているか。
  • ③ 店舗の商圏を捉えているか。店舗に来店されるお客さんはどのような層か。
  • ④ 小売業のバイヤーにとって話を聴きたいと思える「プル型」の提案になっているか。

メーカーの営業の立場であれば、まず自社の商品の特徴や客層などを捉えることから始めて、次に競合する商品との差別化や位置づけ(ポジショニング)を伝えがちだと思います。ですがこれは、上記①の「メーカーの都合から小売への押し売り型の提案」になってしまいます。また、②の「小売業や店舗の本質的な課題を捉えること」や、③「店舗の商圏を捉えること」については社会や世の中の動きや地域と小売業の関係を考えることが重要です。

今後、メーカーの営業が小売業との関係性を強化していくために押さえておくべきは、この①から④を加味しながら工夫をすること。なかでも最も重要なのは、④の小売業のバイヤーへの「プル型」提案。相手を惹きつけて、時間を掛けてでも構わないのであなたの話を聴きたいと感じてもらうことです。では、「プル型」の提案を実現するためには何が必要なのでしょうか。

 

「プル型」提案を行うにはどのようなことが必要か?

メーカーの営業が小売業のバイヤーへ「プル型」の提案を行うためには、以下の5つを商談内で押さえておくべきことが大切になります。

  • ●バイヤーが担当する部門・カテゴリーの市場の変化や気づきを伝える。
  • ●バイヤーが売りたい商品を「後押しする商品」(リフト値や併売値の高い商品)を考える。
  • ●店全体で捉えて魅力のある売場、情報発信できる売場や売り方の展開を考える。
  • ●売上数値から矛盾・ズレや課題を見つけて具体的な改善策について話す。
  • ●メーカーの商品を軸にして新しい買い物行動、習慣につながるテーマを考える。これはショッパーのインサイトの掘り下げ方とリテールインサイトがポイントになります。

メーカーの営業の目的は、自社商品の取り扱いや売上を高めることにあるのは当然ですが、バイヤーの立場で考える「視座」を意識しながら行動すると、今までの商談とは全く違う話し方や仕事の進め方になります。「小売業にある厄介な課題を、当社の商品がこのように解決します」商談や提案を行う時に、この文脈に当てはめて考えてみてください。

例えば、前回の記事に記載した「小売業の厄介な課題」の上位にあがっていたのは客単価アップや、買い回り点数や利益率の高いPBの売上を高めることでしたよね。メーカーの皆さんは、自社の商品がこれらの小売の課題にどのように役立ち、貢献できるかを考えてみてください。そうすると相手の「視座」に立った、「プル型」の提案や話し方が、自ずとできるようになるはずです。

また、本コラムは小売業に向き合うメーカーの営業やマーケター、関連した業務に携わる方々に紹介しているものですが、この「プル型」提案は広告・SNSや販売促進などを扱う広告代理店や制作会社の方々にも同じ意味や効果を持ちます。この場合、バイヤーをメーカーの(宣伝やマーケティングや営業の)担当者に置き換えると、そこにどんな課題が浮かんで自分たちの活動で何が解決できるでしょうか? と言う文脈になります。ここまで話してきたことは、メーカーの営業と小売業の間だけで起こるものではなく、広くビジネスに携わる皆さんにも応用いただける内容なのです。

ですが、いくら相手の視座に立って、プル型の提案を行えたとしても、そこから+αの「バイヤーの心を動かす提案」ができなければ意味がありません。次回は、小売業という相手の気持ちを理解して初めて実施できる、もう一歩踏み込んだ話をできればと思います。来週は「小売業のバイヤーを動かした〈事例〉」についてです。

 

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写真 人物 リテイルインサイト 倉林武也氏

リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。