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コラム

リテールインサイト徹底解剖~小売を知ればメーカーは変わる~

メーカー企業の皆さんは、「小売業(リテール)を一括り」に して捉えていませんか?

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知っていますか? 日本国内の小売業の市場占有率

皆さんは、日本の小売業(GMSやSM)の市場の占有率がどのくらいかご存知でしょうか?「イオンやイトーヨーカドーなどの大手小売業に集中している」「GMSに比べてSMの数の方が多そうだ」そうした声が聴こえてきそうです。

実際は日本のGMS(総合スーパー)の占有率は上位4社で約63%、SM(食品スーパー)は上位7社で約21%と、アメリカのハイパーマーケット(ウォルマートのような大型スーパー)の上位4社が占める約99%と比べて、その差は歴然です。つまり、日本の小売業界はアメリカほど寡占状態ではなく、地方(ローカル)などに行けば中小のスーパーマーケット(売上規模1,000~500億円以下)がエリアごとに点在していることがおわかりいただけると思います。

また、日本の小売業は昔から「地域密着」や「地元で一番に愛される店舗」を合言葉に、独自性を持って地元のお客さまから親しまれる店づくりを目指して運営しています。メーカーの営業の皆さんは大手の小売業をはじめ、首都圏のスーパー、ローカルスーパーに日々自社の商品が並ぶ売り場や売り方について提案を行うわけですが、小売業それぞれの戦略やMD(マーチャンダイジング)に関する情報をどのように集めて商談に活かしているでしょうか?

私が普段メーカーの方々と話をする際に思っているのは、小売業を「一括り」に捉えてしまっているのではないか、ということです。そのせいで、各業態の本質的な課題や同時に商機(提案のチャンス)を見逃しているように感じます。営業活動を行うときに、自社の商品(ブランド)を中心に置いて提案することは多いでしょう。しかし、そうしてしまうと、本来小売業の中にある取り組むべきテーマを把握しきれず、せっかくのチャンスを損ねてしまいかねないことは、理解しておかなければなりません。


写真 風景 マーケットの様子

小売業それぞれの戦略や特徴・個性を捉えて商談を変える

メーカーの営業活動の基本は、商圏データを駆使しての棚割りやナショナルキャンペーン、そして媒体の投下による販売活動の支援を行うものになりますが、取り組み先である小売業の戦略や特徴・個性が理解できれば、メーカーの営業活動も変わります。また、メーカー自身が望む「脱キャンペーン(景品を用意した懸賞企画に頼らない)」や「脱値引」のきっかけが、そこに見つかります。

次に挙げたのはGMSと首都圏で展開をするスーパー(SM)が今後力を入れて行くと株主総会や事業報告会などで宣言をしている内容です。昨年から今年に掛けて広報やメディアなどで発表されているものをまとめてみました。各小売業の個性や狙いや同時に課題を知ることで、商談の中身も変わるはずです。

GMS-A社:各地の「食」に着目したフェアを開催。地域との関係を一層深める一方、各地の魅力を買い物客に再認識を図る。今後はアプリを使った取り組みを強化する。

GMS-B社:「SPA(製造小売り)化」で脱・販売業を図る。生鮮品から惣菜までPB商品の販促をバイヤーや開発者の声を活かしながら強化する。

GMS-C社:小売・生活用品メーカーによる同一商品のパッケージデザインの販売(AB)テストを実施。お客さまの反応を見て、店舗で扱う商品のパッケージデザインを決める。

SM-D社:生鮮品など単品訴求や地元の商材(地モノ)を使った惣菜の開発に力を入れる。

SM-E社:MDの強化と店舗のチーフに権限を集中させ、カテゴリーごとに管理。今後販売力の推進や「ワクワク感」のある商品・陳列・演出を強化する。

ドラッグストア-F社:PayPayなどの電子クーポン使用がキャンペーンの前提条件となる。

ドラッグストア-G社:アプリや販促などの展開も「健康管理・体力づくり」をテーマに展開する。「ウェルビーイング」や「フレイル」に関連する商品・サービスも強化。

リテール各社の取り組みを、提案に活かすには何をすればよい?

ではこうした取り組みから、メーカーの営業をはじめマーケティングや広告宣伝に携わる人たちは、どのように提案のヒントを見つけることができるでしょうか。いくつか情報の集め方について具体的な方法を紹介します。

  • ■ネットを使ってできること
  • ①業態の市場規模、変化(アップトレンドかダウントレンドか)、課題を知る
  • ②その企業の方針やパーパスMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を理解する
  • ③現在強化している商品や今後強化したいサービスを知る
  • ■折り込みチラシ(Web版でも可能)で分かること
  • ④販売テーマの移り変わりや、強化している商品やサービスや販促の手法
  • ⑤商品の販売価格(競合他社との違い)
  • ⑥アプリやサービスの展開内容(近年はアプリの利用により支払金額に数百円の差)
  • ■店舗の売り場から分かること
  • ⑦重点商品と販売価格(店舗が力を入れている商品が魅了しているか)
  • ⑧インプロのテーマと売り場の魅力度(売り場における体験価値とは何かを考える)
  • ⑨店舗スタッフの対応・接客力(言葉にできない感動やワクワクを含めて)
  • ⑩店舗におけるデジタルツールの利用度(買い物客を動かすツール、デジタルに限らず)

この中で、小売業が競合店舗の情報として最も関心を寄せるのは⑦⑧⑨です。これらを理解するには店舗の見方を理解することと同時に、頻繁に自らが足を運んで買い物やサービスを利用することが必要になります。また、こうした作業や行動には決して近道はありません。


写真 風景 マーケットの様子

皆さんは売り場を見るとき、何をチェックしていますか?

最後に店舗を見る際に私が意識してルーティンで行っているポイントをチェックリストにして紹介します。読者の皆さんもぜひ一度試してみてください。

【店舗や売り場を見る際のチェックリスト】

□売り場に付けられたPOPやそこに書かれているテーマやタイトルを見る

→「商品の前にPOPを見る」とは意外なことかもしれませんが、POPを付けることには  小売の狙い(戦略)やメーカー企業の工夫があります。

□メーカーが企画・提供したツールの有無を見る

→「普通は付かない」と言われるメーカーのPOPが付いている理由を掘り下げる。近年ではタイパ・コスパ・節電・新しい習慣づくりを切り口にしたものが多いです。

□買い物客の購買行動のスイッチを押すモノ・仕組みがあるかを見る

→商品や陳列の仕方を見て「思わず見入った」「手に取った」そうした行動につながるものはインサイトを見つけるヒントになります。

□小売店のPB商品をはじめ、独自の商品やサービスの有無を見る

□「一丁目一番地」と呼ばれる売り場の優位置に並ぶ商品を知る

□デジタルを使用している展開からその効果を予測する

□スタッフ・店員の買い物客への対応や動きを見る

→近年では店舗間や売り場(異なる部門の)スタッフで売上を競争する仕組みなど、働き手を活性化する取り組みなども見られます。

ここで挙げた内容からの「気づき」を、メーカーの営業の皆さんが取り組みをする小売業や店舗のスタッフやバイヤーと共有することで、次の活動のヒントやきっかけが生まれればと思います。小売業は自分たちの店舗以外の情報を漏らしているケースが多いです。

最後に、「Retail is Detail」という言葉は小売やそこに携わる人たちがこうした細かな作業や工夫の積み上げでできていると言う意味の言葉です。 それを理解したメーカーの営業活動は、小売業を動かすことにも繋がります。

次回は当コラムの「最終回」になります。メーカー企業の営業マンがアフターコロナや物価高騰・消費の二極化と呼ばれる時代に、小売業と向き合う上で優先するポイントを紹介したいと思います。

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リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。