海外広告に学ぶ、ステマにならない効果的なクチコミマーケティングの例


実データ 「ステマ規制」と実務対策の基本 海外優由修事例にヒントを探す篇

ADK、博報堂DYメディアパートナーズでコピーライターからクリエイティブ・ディレクターを長年務め、2011年4月から現職の佐藤達郎といいます。

ADK時代の2004年に世界最大の広告関連アワード「カンヌライオンズ」の審査員を務める機会を得てから、2023年までのべ18回カンヌ現地を訪れ、取材・研究・執筆を続けています。その経験から今回の記事では、ステマ規制における実務対策へのヒントを「カンヌライオンズ」を受賞した海外優秀事例の中に探してみたいと思います。

 

優れたアイデアに必須「クチコミ」喚起の要素

カンヌライオンズはD&AD、OneShow、クリオ、ロンドン国際広告賞などの主要国際広告賞の中でも、圧倒的に強い影響力を持つ世界最高峰のフェスティバルです。

2004年に私が審査員を務めた時には7つに過ぎなかった部門数は、2023年には30部門にものぼりました。いわゆる「広告」にとどまらない幅広いマーケティング・コミュニケーションの応募と審査と贈賞を行い、いわばこの分野の“世界の見本市”となっています。そしてまた、現在においては、クチコミマーケティング的な要素を色濃く持った受賞作が大半です。


写真 風景 筆者が参加した過去の「カンヌライオンズ」の様子
筆者が参加した過去のカンヌライオンズ会場から

私自身は、カンヌライオンズのウォッチング・紹介・分析を通じて、ここ20年ほどの海外事例に精通しています。ただ、あらかじめ申し上げておきますが、海外のステマ規制にとりわけ詳しいわけではありません。

ですので、今回のコラムでは、ステマ規制との関連をつど述べるのではなく、海外トレンドを大きく捉えて、ステマ規制から遠くにポジショニングすることが可能であろう、ある方法論を中心に、ご紹介していきたいと思います。

 

日本では主流ではない、「起点創造クリエイティブ」という方法

カンヌライオンズ受賞作の中でも、クチコミマーケティング的手法を中心に据えているとみられるものがいくつもあります。それらの中で筆者の目につく事例は、消費者/生活者に「伝えてもらい拡散してもらおう」とするのではなく、消費者/生活者自らに「アクションを起こしてもらい参画してもらおう」とするものです。

もちろん、そうしたアクションや参画によって、結果としての拡散は狙うのですが、最初の目論見として、「アクション/参画」を意図し、そのための“起点”や“仕組み”をつくるというクリエイティブあるいはプランニングです。

こうした手法であれば、ステマに近づくことは原理的に難しく、結果としてステマ規制に効果的に対応するヒントになるのではないでしょうか。

同様の方法はカンヌライオンズの受賞作では数多く見られ、私自身は、「アクションメイク・クリエイティブ」とか、人々が参画する起点をつくる「起点創造クリエイティブ」と呼んでいます。

 

「チートス」が50万円で取引される事態が発生!


写真 スクリーンショット チートス

こうした方法の最たるものが、2017年に入賞した「チートス・ミュージアム(Cheetos Museum)」(PRゴールド他受賞)です。

チートスは、チーズ味が基本のコーンスナック。製法の関係で、ひとつとして同じ形がないといいます。そこでフリトレー社が創造した“起点”は、リンカーンに似ているチートスとか、タツノオトシゴに似ているチートスなどを、消費者が投稿して展示するオンライン上の美術館「チートス・ミュージアム」です。

自分で見つけた“何かに似ているチートス”の写真を投稿してサイトに掲載され、週間ベストに選ばれると5000ドル(50万円強)がもらえるというもの(10週間実施)。人々はこの“何かに似ているチートス探し”に熱狂し、12万7717件もの投稿がされました。

他にもギターに似たチートスやキリンみたいなチートス、自由の女神にそっくりなチートス、ナイキのマーク“スウォッシュ”に見えなくもないチートスなど。

さらにフリトレー社は、NYのグランドセントラル駅でリアルなミュージアムをつくり展示も行います。そうしているうちに、人々はオークション・サイトのeBayでこれら“何かに似たチートス”の売り買いまで始めます。

例えば、“空を飛んでいるスーパーマン”に似たチートスが約50万円で売りに出されました。この間、チートスの売り上げも週間ベースで過去最高を記録したといいます。

 

美顔フィルターに「No」を突きつけたアイデア

もうひとつご紹介したいのは、直近2023年のカンヌライオンズ メディア部門グランプリなどを受賞した、Dove(ダヴ)の「#TurnYourBack」です。


写真 実データ Dove(ダヴ)の「#TurnYourBack」

ボディウォッシュやスキンケアのブランドであるダヴは、もう20年近く「REAL BEAUTY——ステレオタイプな美に惑わされず、一人ひとりが持つ固有の美しさを大事にしよう」と訴え続けてきました。

そのダヴが目を付けたのは、SNSにおける“盛りフィルター”です。特にTikTokのBold Glamourという、誰もをステレオタイプの美人に変えてしまうフィルターに対抗して、屋外広告などを通じて「#TurnYourBack(後ろ姿で写ろう)」と呼びかけました。後ろ姿であれば、フィルターも反応できない、というわけです。この姿勢に賛同した有名女優も自身の後ろ姿をSNSに投稿するなど、大きな反響を呼ぶキャンペーンとなりました。

この事例でダヴが創造したのは、#TurnYourBackという“起点”です。その起点を知らしめるために屋外広告などを使用しましたが、あくまでも中心となったのは、この主張に賛同しこの起点に乗っかってアクションを起こした、消費者/生活者なのです。

 

起点創造クリエイティブの3つのポイント

では、「起点創造クリエイティブ」を企画する際に、気をつけるべきこととは何でしょうか? 3つのポイントを挙げて述べてみたいと思います。

(1)“発信”するのではなく、人々の行動の“きっかけ”=“起点”を創造する

ここで送り手がすべきことは、“発信”ではありません。それに対して、今ではすっかり一般的になったWeb動画は、人々の間で拡がっていくことでパワーを持つという点では新しいけれども、「発信者→受信者」という構造については伝統的広告と変わっていません。

しかし、「起点創造クリエイティブ」は、“多くの人への直接的な発信”という発想とは別ものです。あくまでも行うべきことは“起点”を創造すること、人々が動くための“ネタ”を提供することです。

(2)メディアの主体はピープル、「人々の行動」をメディア化する

昨今の広告コミュニケーションにはPR的要素が欠かせず、いかにしてマスメディアに取り上げられるかが大きな課題です。

「チートス・ミュージアム」や「#TurnYourBack」はマスメディアにも取り上げられていますが、メッセージを拡散させた中心は、そのプロジェクトに参画しSNSに投稿した「人々の行動」です。「人々の行動」自体をメディア化したとも言えるでしょう。

(3)Story TellingからStory Evokingへ

欧米を中心に世界では長らく、ブランドによるStory Tellingの重要性が唱えられてきました。しかし、「チートス・ミュージアム」や「#TurnYourBack」においては、チートスやダヴが訴えるStoryを語るのは、ブランド自身ではなく、消費者/生活者でありピープル(人々)です。

人々はブランドが語るストーリーなど聞きたくはなく、人々自身がストーリーを語りたがっているとも言えます。ブランドは、人々がストーリーを語るきっかけ(起点)を創り出せばいい。ここでは、いわばStory Evoking(ストーリー・イヴォーキング=ストーリー喚起)とでも呼ぶべき施策が、行われています。

今回の記事では、海外優秀事例をヒントとして、クリエイティビティの力で、ステマにならずにクチコミマーケティングの成果を上げようとする、そんなヒントを探ってみました。

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写真 人物 佐藤達郎

佐藤達郎
多摩美術大学教授(リベラルアーツセンター長)
コミュニケーション・ラボ代表

ADK、博報堂DYメディアパートナーズを経て、2011年より現職。専門は、広告コミュニケーションのトレンド。『これからの広告の教科書』など著書は8冊を数え、海外の動向も見据えながら、広告コミュニケーションのトレンドをウォッチングし、紹介・分析・研究を続けている。




クチコミマーケティング協会(WOMJ)
クチコミマーケティング協会(WOMJ)

当協会は2009年7月、日本におけるクチコミマーケティング業界の健全なる育成と啓発に貢献するために「WOMマーケティング協議会」として発足しました。2023年9月1日から法人化し、一般社団法人「クチコミマーケティング協会(WOMJ)」になりました。会員社・会員は、クチコミマーケティングに関わる様々な法人と個人です。各種の調査や研究、議論を行い、「WOMJガイドライン」の策定などに取り組んでいます。なお、WOMJ運営委員会副委員長の山本京輔氏は、2022年の消費者庁・ステルスマーケティング検討会に検討委員として参加。景品表示法での「ステマ規制」の作成に協力しました。

クチコミマーケティング協会(WOMJ)

当協会は2009年7月、日本におけるクチコミマーケティング業界の健全なる育成と啓発に貢献するために「WOMマーケティング協議会」として発足しました。2023年9月1日から法人化し、一般社団法人「クチコミマーケティング協会(WOMJ)」になりました。会員社・会員は、クチコミマーケティングに関わる様々な法人と個人です。各種の調査や研究、議論を行い、「WOMJガイドライン」の策定などに取り組んでいます。なお、WOMJ運営委員会副委員長の山本京輔氏は、2022年の消費者庁・ステルスマーケティング検討会に検討委員として参加。景品表示法での「ステマ規制」の作成に協力しました。

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