一般社団法人クチコミマーケティング協会(WOMJ)、運営委員会委員長の藤崎実です。
2023年10月1日に、景品表示法による「ステマ規制」が施行されました。米国やヨーロッパではすでにステマに対する法整備が行われており、この分野で諸外国に比べて遅れていた日本でも、ようやく法規制が整ったというわけです。
この連載では、その法整備に合わせてWOMJの運営委員がそれぞれテーマを立てて担当してきました。
これまでの記事はこちらから
「WOMJガイドライン」の重みと責任
2009年にWOMマーケティング協議会が発足した目的のひとつが、ステマ防止の運用基準を示す「WOMJガイドライン」の策定でした。そして2023年、会員社で組織されている「ガイドライン部会」は、2023年10月1日から施行される消費者庁の「ステマ規制」の内容を反映させるために、約半年間、毎週のように議論を重ねました。
会員社には様々な事業者が集まっていますが、どのような基準を設ければステマを防ぐことができるのか、それぞれの立場から検証を行なってきました。私もできる限りその議論に立ち会っています。そして2023年10月1日から、3度目の改訂となる新たな「WOMJガイドライン」の運用を開始しました。
こうして運用されている現在の「WOMJガイドライン」は、従来通り業界団体による自主規制のガイドラインであり、法的な効力はありません。
また、法律に準拠した解説は消費者庁が発表している「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」であり、「WOMJガイドライン」は法律の解釈や解説をしているものでもありません。
しかし、景表法の法規制の内容を踏まえて策定されたガイドラインです。今までのガイドラインとは、その重みが異なります。なお、新ガイドライン策定の議論では、“このガイドラインを守れば、ステマにならない”というわかりやすい基準を示すことが重視されました。従って、景表法の指定告示や運用基準より厳しい内容になっている点に特徴があります。
こうしたガイドラインを示す団体の社会性を意識した結果、当団体は一般社団法人になる選択をしたというわけです。
さて、クチコミマーケティング協会(WOMJ)が掲げている“クチコミ”マーケティングに関連が深い分野に、インフルエンサーマーケティングが挙げられます。以下、インフルエンサーマーケティングの現状に着目してみましょう。
インフルエンサーマーケティングの市場規模はさらなる拡大へ
かつて企業から生活者への情報伝達は、主にマスメディアを使った広告でした。しかし、今や誰でもSNSを通じて情報発信できる時代です。こうした環境変化の結果、現在では様々な分野のエキスパートが、多様なSNSで情報を発信するようになりました。いわゆるインフルエンサーによる情報発信です。
そしてSNSでのインフルエンサーの活動はすっかり定着し、人々の消費行動に与える影響力はますます高まっています。
人気のYouTuberやインスタグラマーには一定のファンが存在し、そうしたインフルエンサーの影響力は計り知れないものがあります。一般の生活者が、芸能人や著名人に比べて等身大のインフルエンサーの情報を参考にするのは大変納得できる話です。セレブリティやスーパースターの意見も影響力がありますが、自分と同じような生活をしている人の意見はより身近で参考になるためです。
従って、企業は生活者により身近に感じてもらえるように、インフルエンサーによる投稿企画やコラボ企画、投稿動画を自社のマーケティング手段として活用する事例が増えているのです。
写真は筆者が2023年12月に学会発表の際に取材で訪れた「福岡パルコ」の特設会場POP UP SPACEでの1コマです。当日は人気YouTuber「なこなこカップル」のなごみさんがプロデュースするビューティブランド「GENTY(ジェンティー)」のイベントが開催されており大変な盛況で、なごみさんとのツーショット撮影会は驚くほどの長蛇の列でした。福岡パルコのターゲットは若者です。若者から圧倒的な人気を誇るなごみさんのリアルイベントは大成功とのことでした。
なお、サイバー・バスの調査によれば、インフルエンサーマーケティングの市場規模は、2027年には2023年比で約1.8倍の1302億円になると予想されています。
企業がインフルエンサーの情報発信力を借りるインフルエンサーマーケティングは、今後もますます成長していくことが示されているのです。こうした潮流は、様々なSNSプラットフォームの誕生と発展も相まって、今後もさらに発展していくでしょう。
そこで重要になるのが、消費者を欺くステルスマーケティングにならない運用です。企業の担当者は、企業のマーケティング活動の一環としてインフルエンサーにクチコミ投稿や動画投稿を依頼する場合は、必ず「事業者の表示」であることを消費者に対して明瞭に示すことをインフルエンサーに課さなければいけません。これは企業担当者が注意するだけでなく、インフルエンサーの方々も必ず遵守する必要があります。
なお、ステマ規制は、クチコミマーケティングやインフルエンサーマーケティングにNOを示しているわけではありません。ルールを守ることによって消費者を保護することが目的なのです。
ステマ撲滅の取り組みが評価され「Web人」に選出
WOMJの会員は2024年1月1日現在、法人会員約70社、学識・個人会員11名です。一般社団法人になったWOMJですが、私たちのミッションは従来から変わっていません。すなわち、「クチコミマーケティング業界の健全なる育成と啓発」です。
会員には、実際の事業ではライバル関係にある企業に方も多く含まれますが、各社の様々な取り組みが消費者から信頼され、クチコミマーケティング業界そのものが発展していくべきであるという想いは共通です。消費者を騙すようなステマを業界全体の取り組みとして撲滅すると同時に、より今の時代にあったマーケティング活動を模索して、業界そのものを前進・発展させていくことが目的です。
WOMJはこれからも、クチコミマーケティングに関わる様々な法人と個人が集まり、クチコミマーケティングについて調査、研究、協議を積み重ねることで、市場の健全な発展を目指してまいります。こうした理念に共感される法人・個人の方々は、この機会に是非とも、入会をご検討ください。
最後に、ちょっとしたお知らせを。2023年11月に開催された日本アドバタイザーズ協会「デジタルマーケティング研究機構」による第11回Webグランプリ「Web人部門」に当WOMJ 運営委員会副委員長の山本京輔と、運営委員の森永真弓の2名が受賞しました。
「Web人部門」は6名の受賞ですが、そのうちの2名がWOMJの運営委員です。受賞の理由は、山本氏がステルスマーケティング撲滅へ向けての功績であり、森永氏がデジタルマーケティングやネットカルチャー分野における功績です。
本連載でへの寄稿記事も、まさに両名の活動をよく表す内容となっていますので、今一度、お読みいただけるとありがたいです。
- ・山本京輔(WOMJ 運営委員会副委員長)による記事
- SNS投稿例で理解するステマ規制(1)景品表示法の場合
- SNS投稿例で理解するステマ規制(2)WOMJガイドラインの場合
- ・森永真弓(WOMJ運営委員)による記事
- 「純粋なクチコミなんてない」8割超が警戒、変わる消費者とステマの関係
当連載は、今回で一旦区切りをつけます。しかし、今後、ステマ規制に関する続報や、クチコミマーケティングに関する情報など、何らかのトピックスができた時に、WOMJのメンバーや会員社から記事を提供していこうと考えています。
しばらくお付き合いいただき、ありがとうございました。そして、今後とも、よろしくお願いいたします!
「【徹底解説】「ステマ規制」と実務対策の基本」バックナンバー
- 海外広告に学ぶ、ステマにならない効果的なクチコミマーケティングの例(2023/12/18)
- 消費者庁に聞く、10月の「ステマ規制」導入後の変化は?(2023/12/04)
- インフルエンサーを多数輩出してきた出版社「ステマ規制」にどう対応する?(2023/11/20)
- ステマ規制を機に再考を、2024年「クチコミマーケティング」の課題(2023/11/06)
- 「純粋なクチコミなんてない」8割超が警戒、変わる消費者とステマの関係(2023/10/23)
- ステマ発覚で「信用できない怪しい企業」になる前に、危機管理・対策のススメ(2023/10/10)
- SNS投稿例で理解するステマ規制(2)WOMJガイドラインの場合(2023/9/25)
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