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コラム

成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方

「できる広報」は、経営トップとどんな会話をしているのか

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こんにちは、株式会社はねの矢嶋です。連載第一回となる前回のコラムではLINE、メルカリでの経験を元に、私が広報という仕事の醍醐味を実感した「広報起点で会社の成長ステージが変わる瞬間」についてお話させていただきました。

第二回となる今回は、「『できる広報』は経営とどんな会話をしているのか~トップマネジメント層との共通言語を持つ~」というテーマで、広報担当者はいかに経営陣と連携・アラインメントすべきか、というお話をしたいと思います。

 

「広報担当者に経営マインドが無い」問題

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おかげさまで昨年6月に独立して以降、様々な経営者の方から広報についてご相談をいただくことが多いのですが、皆さん一様におっしゃるのが「広報担当者に経営マインドが無い」というお悩みです。

もちろん広報担当者がサボタージュしているわけではなく、日々プレスリリースの発信や取材、プレスイベントなど頑張っているのだけれども、経営陣が求める目線感と嚙み合わなくて困っている、というお話です。

とはいえ、経営者も広報の専門家ではありませんし、テクニカルなHOW・手法についてはわからないので、現状の広報活動に対して「何となく不満はあるけれども、どうしたら良いかわからない」。

一方の広報担当者は広報担当者で、「こんなに頑張っているのにわかってくれない」「経営陣の広報に対する理解が浅い」というジレンマが生じるケース、本当によくあります。

私がこれまで在籍していたLINEやメルカリでは、幸いにも経営陣の広報マインドが高く、経営・事業を成長させるための手段として、いかに社会の「風」(世間的な時流やトレンド)を取り込んでいくか、という意識が強く、広報活動の目的や役割、期待する成果など細かく説明しなくても阿吽の呼吸で理解してくれていたので特段困ることはありませんでした。

とはいえ、全ての役員が広報に深い理解があるわけではありませんし、解像度も千差万別なので、メルカリ時代は四半期に一回、経営陣や各事業担当役員と定期的にMTGを行い、目線合わせする機会を持つようにしていました。

MTGの場では、前期の振り返りと共に、現在会社が置かれている状況を踏まえたうえで、以下について報告し、それに対するフィードバックをもらうようにしていました。

  • (1)外部コミュニケーション観点で見た経営/事業の課題
  • (2)課題解決手段としての広報戦略(中長期/短期)
  • (3)最終的に得たい成果・アウトカム
  • (4)今期の具体的な戦術・アクションプラン・KPI

中でも私が経営陣と会話する際に一番意識していたのは、(1)~(3)の見立てが経営陣のそれと合っているか、ということでした。

課題として抜け落ちているポイントは無いか、想定している広報戦略において考慮すべきイシューや機会・脅威は無いか、得たい成果の目線感はズレていないか、等々。

逆に、(4)にあるような、具体的にどの媒体でどういう取材記事や露出を獲得するか、といった広報のテクニカルな戦術やアクションプランについてはメインの議題には挙げませんでしたし、逆に経営陣からも細かい指摘を受けることはありませんでした。

 

トップマネジメント層との共通言語とは何か

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今回のテーマ「できる広報は経営とどんな会話をしているのか~トップマネジメント層との共通言語を持つ~」に照らし合わせると、トップマネジメント層との共通言語は何か?と問われたら、ズバリ「経営の言語」で会話する、ということだと私は考えます。

結局、経営陣は一つひとつの案件の発信方法や露出云々に関心があるわけではなく、広報を「経営機能のひとつ」と捉えたときに、広報がどういう形で経営/事業に貢献するのかという「経営機能としての広報の在り方(=経営の言語)」に一番関心があるのではないかなと思います。

他方、広報の現場サイドは、経営陣が聞きたい「経営の言語」ではなく、足元のテクニカルな戦術・アクションプランといった「PRの言語」で会話しようとするから、つまるところ噛み合わないし、すれ違ってしまう。

以前、Xでこのようなことを投稿したのですが、広報担当者向けセミナーなどで私が講演すると必ず聞かれる「KPI問題」も、「経営の言語」で会話していないことに起因する問題ではないかと思います。

スクリーンショット X

要するに、マーケティングや事業部門では当たり前としてある「経営/事業課題の特定→広報、コミュニケーション目的の明確化→目標・KPIの明確化→アクションプランの策定」までが一気通貫になっておらず、課題や目的が曖昧なまま、例えば「認知を上げるために発信を増やしていきましょう」といった戦術・アクションプラン(足元の露出計画やPRカレンダー議論)の話が先行することが多いので、経営陣としては気持ち悪く感じるのではないかと思います。

それが、彼らの言う「広報担当者に経営マインドが無い」問題の根幹にあるのではないでしょうか。

 

NAVER(LINE)時代の苦い経験

写真 人物 個人 NAVER時代、舛田淳氏との会議風景
NAVER時代、舛田淳氏との会議風景。

じゃあお前(=矢嶋)はそんなに「経営の言語」が完璧にわかっているのか?と問われると、胸を張って言えるほどのものではありませんが、私個人に関して言えば、PR代理店を退職し、2008年に事業会社広報として初めてネイバージャパン株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に入社したときの苦い経験が大きいです。

入社当時、私が配属された部署は「事業戦略室」という、BizDev・アライアンス、PR・マーケ、他、事業成長のために「プロダクト開発以外できることは何でもやる」部門で、私に課せられたミッションは、韓国の大手検索ポータル「NAVER」の日本進出にあたってのコミュニケーション戦略の立案がテーマでした。

事業会社広報として駆け出しだった私は、当初広報としてお決まりのローンチ発表記者会見とプレスリリース、トップインタビューアレンジ、と通り一遍の中身の無いアクションプランの羅列みたいな提案しかできず、当時の上長であった舛田淳さん(現LINEヤフー株式会社 上級執行役員 エンターテインメントカンパニーCEO)からは、私の提案資料を一瞥するなり、ひと言「違う」と言われて却下されることが続きました。

いま思えば、私は戦術の話だけをしていて、舛田さんが求めていたのは上位の戦略の話だったのだな、と思います。

当時(2008年)の日本の検索サービス市場はグーグルとヤフーが95%以上のシェアを持っている超寡占市場。後発かつ、(欧米発のサービスと比べてブランド力に劣る)アジア発のサービスで、他社がやっていることと同じことをやっても勝ち目は無い。

資本力・開発リソースも限られているなかで、どういう角度で市場に参入し、どんなポジションを獲得するか、その見立てやロジックこそが重要であり、広報はあくまでもその目的達成のための手段のひとつでしかなかったのです。

そんな私に対して、舛田さんからのアドバイスは「戦略論の本を読みなさい」というものでした。それこそ、『孫子の兵法』や『ランチェスター戦略』『ブルー・オーシャン戦略』等々の名著から、「事業戦略のつくり方」的な基本的な本まで、弱者が競争に勝つためのフレームワークをとにかくインプットしました。

写真 当時読んでいた本の一部
当時読んでいた本の一部。

ともあれ、果たして最終的にどんな戦略に至ったかについては長くなるので割愛させていただきますが、舛田さんからはその後も「機能スペック勝負ではなく、後発弱者がどのように成長させていくかを考え抜いた際に、企業や事業、サービスの価値をどのように定義し、言語化し、市場性や社会性をどうその中に組み込んでいくかが何よりも大事であり、そのために広報は重要なんだ」という話を再三にわたり繰り返し聞かされました。

※過去のインタビュー記事でその戦略の一端については触れておりますので、お時間のある方はこちらをご覧ください。

 

広報担当者は「経営の言語」を学ぼう

過去の思い出語りが長くなってきたので、そろそろ締めます。

プロフェッショナルのPRパーソンとして、自社に関連する報道状況だけでなく、広報関連の書籍や記事などを読んで最新動向をキャッチアップしたり、他社の広報担当者と情報交換したりして広報スキルを研鑽することはとても大事です。

ただ、私個人の意見としては、それと同等、もしくはそれ以上に、業界にまつわる政策動向や市場・競合動向をウォッチしたり、経営やファイナンス、マーケティング関連の書籍を読むなど、経営視点を身につけることにより、「経営の言語」を理解できるようになることのほうが大切ではないかなと思っています。

連載二回目にして既に息切れ気味ですが、また次回お会いしましょう。

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