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コラム

51歳CD、お寺のブランディング・ディレクターになる

僧侶34人とのワークショップ あふれだしたアイデアと思い

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現場の僧侶が集い、話し合い、アイデアを考えた2日間

写真 人物 複数スナップ
写真 人物 複数スナップ
昨年7月、西本願寺近くの聞法会館(もんぼうかいかん)で、34人の僧侶の方々とこれからの西本願寺について一緒に考えた。服装はあえて自由にして、普段とは違う自由な議論やアイデア交換をめざした。左は、朝の合掌・礼拝の風景。

「人々の悩みや苦しみに寄り添うために、私は僧侶の仕事を選んだ。そのことを、今日思い出し、あらためて噛み締めました」。同じテーブルの僧侶の方の言葉に、私は心を深く動かされていた。

2023年7月。西本願寺の僧侶34人の方々による、これからの西本願寺を一緒に考えつくっていくワークショップが開催された。西本願寺変革プロジェクトの一環として「トップだけが変革をリードするのではなく、西本願寺の僧侶一人ひとりが変革を担うようにしたい」という、安永雄玄執行長の意志をもとに開催したものだ。私もファシリテーターの一人として参加した。内容や各グループのファシリテーションについては、私の前々職の博報堂のビジネスプロデューサーとストラテジックプラナーの皆さんに大きな力を注いでいただき、この場を借りて改めて感謝したい。

西本願寺のワークショップは、朝、阿弥陀如来への合掌(がっしょう)・礼拝(らいはい)からはじまった。2日間、7つのグループに分かれて、調査結果や識者の講演からのインプットをもとに各々が感じたことを語り合い、前回のコラムでご紹介した変革コンセプト「Lifetime Temple」をもとに、より多くの生活者と/より深くつながっていくにはどうしたらよいかという事業アイデア、コミュニケーションアイデアを出し合った。

参加した僧侶の方々の心に火をつけたのは、一日目の冒頭に共有された一般生活者の西本願寺のイメージに関する調査資料で、“寺が、お葬式とお墓の管理でしか思い出されない存在になっている”という事実だった。お寺本来の姿が伝わっていないという危機感が高まった。

一日目が終わった後、家で奥様と相談してノートがびっしり文字で埋まるほどのアイデアを二日目に持ってきた方がいたり、「実は、世の中の方にもっと西本願寺を知ってもらうためのアイデアを今までずっと考えていたが、発表する機会がなかった」という方がいたり。ワークショップは最後の発表まで非常に盛り上がった。さまざまな部署を超えてカジュアルに話し合えて、とても有意義で楽しかったという声が集まった。

僧侶はなんのために存在するのか

ワークショップで語られていた内容は、全体的には、西本願寺の間口を広げ、所蔵の文化財や美術品を活用して、より多くの人々とカジュアルにつながる方向に進んでいた。そこで私はあえて自分のテーブルで、“ディープで重いニーズがある生活者に対応したエピソード”を聞いてみた。すると、一つひとつはここでは書けないが、それぞれの方が忘れられない、深い苦しみや悲しみを持った方との交流エピソードを打ち明けてくれて、このコラムの最初に書いた言葉も聞けた。

間口を広げる発想はもちろん大事だが、「お寺は悩みや苦しみに寄り添うのが、親鸞さん以来の根本の存在理由だ」という、いわゆる“Why”の素や、「私たちはどうしても法話や説法でこちらから説くという態度になりがちだが、時間をかけてそばに寄り添って、苦しい思いが全部吐き出せるまでそばで聞く、“聞く”ということが非常に大事だ」という“How”の方向性までが、僧侶の方々自身から提案され、さらに「寄り添うことで拠り所になれる」というスローガンまで書いた方もいて、私が書く仕事がなくなりそうなほどだった。

私は、勤めているお坊さんたち自体が主役となり、話を聞くことで輝くような仕事として内外に認識されれば、一人ひとりのポテンシャルがもっともっと引き出されることを確信した。つまり、西本願寺のポテンシャルとは、お坊さんたち一人一人のポテンシャルなのだ。もちろん、世の中からお寺が忘れられかけていることにも危機感があったが、それは悩みや苦しみのある人が、救いを求めてやってくる場所として思い出されていない(想起されていない)ことが問題だ、という結論になった。

ワークショップから見えた、タグラインへの道筋

ワークショップを経て、昨年の夏から秋口にかけ、ブランド変革プロジェクトはこれからの西本願寺のあり方を内外に示す、タグライン(ブランドメッセージ)を考えるフェイズに入っていた。人の一生すべてに寄り添っていくお寺のあり方を表した「Lifetime Temple」のコンセプトのもと、自分でも新しいサービスやコミュニケーションのアイデアについて考えてはいたが、僧侶の方々が生み出した多くのアイデアと生の声を聞いたことで、自分の中でそのイメージが段々と具体化していった。

私の頭から離れなかったのは、ワークショップで聞いた「生きる上での悩みや苦しみに寄り添う」という言葉だった。それは、政府も本腰を入れる、日本社会の孤独・孤立問題の状況があるからだ。

孤独・孤立対策推進法という法律が令和5年に成立していた。政府の孤独・孤立に関する実態調査では、孤独を感じる人が4割を超えたという。10年ほど前からメディアで使われるようになった「無縁社会」という言葉が、まさに現実のものとなっているように見える。

そこに、いま西本願寺というお寺が発信するべきメッセージ、タグラインにつながる道筋が見えてきたのだった。

次回(2月21日)は、タグラインのプレゼンの場でどのような対話がなされたのか、お伝えしようと思います。

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写真 朝の西本願寺
2月の朝の西本願寺には、寒くて静かで荘厳な、独特の魅力があります。