アメリカ初のPRエージェンシーのクライアントに
アメリカ大手通信会社AT&T社の初代社長を1885年から務めたセオドア・ベイルは、19世紀末から20世紀初めに世論や顧客に対して自社の存続価値と事業の正当性を発信し続けた、企業広報・広告のパイオニアです。
AT&Tは1890年ごろに現在の広報部門(当時は文書局といった)を開設し、アメリカ最初のPRエージェンシーであるパブリシティ・ビューロー社の最初のクライアントの一社となり、企業広報(パブリシティ)活動を強化しました。
ベイルが同社に1902年に役員として復帰すると、広報(パブリック・リレーションズ)の方針が社内で明確に認識されるようになり、彼が1907年に社長に復帰したことで、企業広報が同社の経営戦略のひとつとして強化されました。
独占企業のイメージを払拭した広報キャンペーン
ベイルが2度目のAT&T社長に就任した時、同社最大の問題は国有化への対応でした。
19世紀末から20世紀初めのアメリカは、J.D.ロックフェラーのスタンダード石油やアンドリュー・カーネギーの鉄鋼会社USスチール、J.P.モルガン配下の鉄道会社といった個別の民間企業が、それらの市場をほぼ独占していました。
アメリカ連邦政府は、セオドア・ルーズベルト大統領のリーダーシップの下で、世論を背景に自由経済を保護するべく、シャーマン反トラスト法などの法整備を進めていました。
また、マックレーカー(不正の追及に特化して取材する記者のこと)の暴露記事や政府の発表だけを見聞きしてきた一般市民は、「AT&Tなどの独占企業=悪い会社」という、負のイメージを抱いていました。多くの独占企業が、新聞や世論の批判に無視や沈黙を続けていましたが、AT&Tは早くから企業広報を始めています。
ベイルは、AT&Tを民間企業として存続させるために広報キャンペーンに打って出ます。彼は、「顧客や地域社会の理解と支援を取りつける」ことが最重要だと考えました。そこで以下のようなメッセージを発信し続けたのです。
- AT&Tは米国内のすべての顧客に同じサービスを等しく提供する企業
- ●電信電話のような私的独占は、一定の品質とサービスを提供するために必要であり、政府規制の対象にはならない
- ●AT&Tには顧客満足度向上に献身する多くの従業員が働いている
彼は、このキャンペーンのために広報専任者と広告会社を採用し、広告には「One Policy」「One System」「Universal Service」という企業メッセージを必ず記載しました。
AT&Tは、他の公益企業とは異なり、政府の公的規制に表立って抵抗しない代わりに、「独占企業に対する対価」としての規制を受け入れる姿勢を明確にしたことから、AT&Tのキャンペーンは一般大衆から受け入れられました。
現代では、多くの企業が企業広告を幅広く活用していますが、当時は企業がその社会的責任や使命を明確に示すことがほとんどなかったため、AT&Tのキャンペーンは一般大衆から支持されました。AT&Tの成功を受けて、その後多くの企業が同様の広告を展開していきました。
AT&Tが広報部門を設立したきっかけ、というかその主な目的は、電話会社とステークホルダー(パブリック)との関係に関するすべての情報を一元管理し、効果的に利用することができれば、社内の各部門間のコミュニケーションが改善され、より優れた仕事ができるようになる、というものでした。
市場分析、競合分析、顧客のクレームや要望など、様々な情報を収集分析し、その情報を一か所に集め、社内で共有する部門として、100年以上前に広報部門(パブリシティ・ビューロー)が開設・機能していたというのは、ベイルの先見性の賜物だと言えるでしょう。
ピーター・ドラッカーは著書『経営者の条件』の第6章で、「ベイルはアメリカの企業史上、意思決定において最も成果をあげた人物」と評価しています。ベイルはアメリカの企業史上、トップ広報でも最も成果をあげた経営者の一人でもありました。
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リーク(Leak)
リーク(Leak)とは、一般的に情報やデータが意図せずに漏れる、もしくは不正に外部に流出することだが、広報ではニュースとなりえる情報を、意図的に特定のメディアに提供することをいう。記事掲載されることで、対象者や社会の反応を確かめたい場合や、特定のメディア1社だけに情報を独占させて、何かの利益を得たいために行われることがある。
広報の大前提として、情報公開はオープンに、公平に、正しく行われるものである。「リーク」することで、何かしらの短期的な目的は達成できるかもしれないが、頻繁に行うと、メディア全体からの信用を失うばかりか、提供元の情報自体の信頼性が損なわれるので、絶対にやってはいけない、と申し上げたい。
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