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コラム

マーケティング×デジタル人材になる! 私の「自育論」

広告代理店出身の私がゴールドウインでOMOプロジェクトをリードするに至るまで―仕事環境で変わるデジタル人材の育成スキル

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「日本にはデジタル人材が足りない、急いで育成を!」と叫ばれて久しい昨今ですが、それでは現在、巷にそうした人材が溢れる状況になっているかというと、そうでもないように感じます。

デジタル人材の必要性は高まるばかりですが、決して人材が増えているわけではない。その要因のひとつは、育成や成長の難しさにあるでしょうか。デジタル人材になるにしても、どう取り組めばいいのかイマイチ正解が分からない。ネットの情報や参考書を片手に教科書通りのことをやってみても、成長している実感が得にくい…。そんな方が多いように感じます。

あ、申し遅れました。ゴールドウインの冨田と申します。簡単に自己紹介をさせていただくと、私はゴールドウインに2019年1月にキャリア入社、直後からOMO強化の全社横断プロジェクトをプロジェクトマネージャー(PM)として担当して、2020年7月にOMOに関する一連のサービスや環境をローンチしました。

前職は、外資系総合広告代理店やアパレルメーカー、消費財メーカーに在籍。メーカーではEC事業責任者の傍ら、新規事業開発やCRM強化、CX向上などの取り組み、デジタル組織の構築・育成など、デジタル畑でキャリアを積んできました。メーカー、代理店、大手企業、スタートアップまで複数の企業で様々な仕事を経験しましたが、経験値という点では各社に特徴や強み、弱みがあり(それがまたおもしろいところ)、私はそれを有効活用する方法を考えながら、人材育成におけるヒントを蓄積してきました。

今回のコラムでは、マーケティング×デジタル×プロジェクトマネジメントの掛け合わせスキルの人材育成という切り口をベースに、各回でテーマを設定し、育成のポイントをご紹介します。人材育成に正解はありませんので、今回は私の実体験から成功したこと、悩んだこと、工夫したことなど、現場で得た気づきをお話ししたいと思います。特に、上記の掛け合わせのスキルセットを備えた人材を目指す方に読んでいただくことを想定しています。

そんな私のコラムの第一回目のテーマは、「仕事環境」についてです。私が経験した複数の企業でのエピソードから、メーカー、広告代理店、大手企業、スタートアップなど視点を変えながら、スキルセットを紐解いていきたいと思います。(ちなみに「プロジェクトマネジメント」について「アドタイ」で連載した私の別コラムがありますので、興味がある方はぜひご覧ください)。

スキルセットが急激に伸びた総合広告代理店時代

私が在籍した代理店では、クライアントの新製品発売に応じて、マーケティングコミュニケーションの戦略立案およびクリエイティブの開発、ウェブ制作・システム開発のディレクションを行っていました(特にクリエイティブはカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでの受賞歴もあり、強みにしていました)。媒体は、ATL(マス広告)、BTL(マス広告以外の販促活動)、デジタル(ウェブ制作やシステム開発)まで包括的に扱い、社内には営業、クリエイティブ、ストラテジックプランナーなどが揃っていました。

私はデジタルの営業チームでPMをしていましたが、特に良い経験だったのは、社内外の優秀なスタッフとともに、最新技術を駆使した企画案に関われたことです。デジタルの提案では、いかにユーザーを楽しませ、バズらせるかという点が重要でした。

マーケティング戦略をベースに、クリエイティブのアイデアをデジタルの最新技術でどう実現するか。簡単に方策が決まることはレアで、ギリギリまで詰めます。CM放送日は決定しているので、リリース期限は絶対に厳守。胃痛にも慣れた日々を送りながら、具体的なアイデアを連発する強力なチームメンバーと進める仕事は、ついていく難しさはありつつも収穫の多い時間でした。

私は周りに助けられてばかりでしたが、この繰り返しが、私にとってデジタル全般における高品質な経験になり、ユーザーの暮らしに商品を浸透させるマーケティングの面で学びになりました。そして何より、人を動かすことの難しさと、集まった力の強さを知れました。

代理店での日常は、クライアントの高い要求や社内の論戦、成果物品質の徹底やタイトなスケジュールなど、苦しむ場面は日々ありましたが、マーケティング、デジタル、プロジェクトマネジメントのいずれも自分が高まっていることが実感できる有益な時間だったと、今でもふと思い返すことがあります。

新規事業開発は、網羅的に経験値が上がる

一方で、アパレルメーカーや消費財メーカーという事業会社では、役割はガラリと変わります。どの事業でどのような取り組みをするのか、を考えて提示する役割が主となります。WhatとHowの関係でいうと事業会社がWhat(何を)、ベンダーがHow(どのように)を担うイメージです。事業の上流で全体の設計図を描く形ですが、マーケティング、デジタル、プロジェクトマネジメントのスキルを急速に磨きたいなら、新規事業開発にトライするのがおすすめです。

新規事業開発は、準備段階では人も予算も充てられないので、ビジネスモデル立案から仕組み化、市場分析、マーケティング戦略、サービス・システム設計、収益計画など、新規事業に必要なタスクはすべて自分と選抜メンバーだけで対応します。このとき、マーケティングではフレームワークを使いますし、デジタルでは基本的な技術から新しい試みまで検討します。プロジェクトマネジメントでは、大型プロジェクトを丸ごとマネジメントするので、腕が磨かれないはずがありません。

その他にも、資料作りやプレゼン、数字の考え方、意思決定、ピープルマネジメントなど、多くの重要なスキルが一気に伸びます。機会があれば立候補してでもチャレンジしていただきたい。それほど成長が約束できる機会だと思います。もちろん経験者は有利ですが、未経験でも考え抜く思考力や行動力があればやり切れます。知らないことはその場で、その日のうちに知れば良いのですから。情熱があれば大抵のことは達成できます。

また、事業会社ではベンダーの立場よりも顧客への執着心が強くなります。自社の製品やサービスに対して顧客満足度が直接的に実感できるからです。そのため、新しい取り組みやCRM施策・分析にこだわるようになりますが、特に分析は楽しみながらスキルを磨ける好例と思います。

顧客分析はRFM分析をはじめ代表的な分析手法がいくつかありますが、分析の切り口は考え出すと無数に存在します。様々な切り口で分析するほど顧客が立体的になるので、やりだすと夜中まで没頭することも…。しかしアプローチの確度は確実に上がりますし、その結果はすぐに売上なり、顧客の反応で確認できるのでPDCAもやりがいがあります(事業会社の良いところは考えたことをすぐに実行できる裁量とスピード感ですね)。

大手企業とスタートアップでは、伸びるスキルが違う

私はこれまで大手企業とスタートアップのいずれも経験してきましたが、双方を経験できて良かったと心から思います。1社の経験値だけでは、今のスキルセットは装備できなかったと思います。それほど、各社で経験したものはまったく異なるものでした。伸びるスキルがぜんぜん違います。もし、今あなたが働く環境を大手とスタートアップで選択できる状況にあるなら、自分の目指す姿に沿って戦略的に選ぶことをおすすめします。

大手企業とスタートアップの特徴を書き出してみましょう(ほんの一部。冨田の所感です)。まず、大手企業は基礎教育の環境が整っています。基本的な業務を真面目に教えてくれるといいますか、様々な種類のマニュアルが存在し、とにかくフォローアップ体制が敷かれています。予算次第で教育講座も受講できます。組織は良くも悪くもサイロ化されていることが多く、役割分担が明確です。決められた業務領域を集中して担当するので、知見は専門的になります。

また、PMのスキルとしては高額な予算を投下する大規模プロジェクトもあるので、難しい反面、誰もが経験できない規模の案件の中心で仕事ができる楽しみと成長機会がありますね(向き不向きはあるかもしれませんが)。

そして特に伸びるのは、調整能力です。大手企業は社内関係者が多く(会議も多い)、経営会議などの社内手続き、上場企業としてのガバナンスを意識した意思決定など合議的な作業も多いので、誰かと一緒に仕事を前に進めるスキルは伸びます。また、マーケティングツールの導入に積極的なので使用経験を積むこともできます。

一方、スタートアップはその対極にあります。まず、フォローアップ体制が無いとはいいませんが、教えられることを期待している人はそもそもあまりいません。むしろ、自分で調べたり考えたことを社内にシェアしてナレッジを全社で蓄積しようとする人が多いので、それでフォローアップは成立します。

そして、いちばんの特徴はやはり業務量だと思います。大手は分業化が敷かれていることに対し、スタートアップではひとりの担当領域がとても広く、深いので、短期間で多くのことを体験できます。成長スピードは抜群に早いです(重量級の負荷は当然ありますが…)。

例えば、データマネジメント環境を導入して分析を強化する案件の場合、大手だと仕様検討・環境選定・環境構築は〇〇部、データ抽出・分析作業は△△部、施策実行・改善は□□部など、タスク別に役割分担がありますが、スタートアップはひとりで、このすべてを担当します。自分は担当じゃないとか、詳しく知らないので…という意見を聞いてくれる人はおらず、自分なりに必死に調べて、考えて、案件を前に進めるのが通常運転となります。業務量は多いので日々の余裕はなくなりますが、将来的な余裕は得られます(スキルの貯金のようなもの)。最速でスキルセットを備えたい方にはおすすめです(2回目ですが重量級の負荷はあります)。

そして、私が特に有益な経験だなと思ったのが、経営陣との距離が近いことです。優れたCEOやCxOと一緒に仕事をすることで、急激に自分が伸びている実感を得られます。無駄がなく、本質的な会話や作業の連続なので、濃密な時間をつくるクセが身につきました。

大手とスタートアップでは、少し触れただけでも、このように明確な違いがあります。伸びるスキルや成長スピードは異なりますが、どちらが優れているという話ではなく、自分が目指す姿にはどちらが適しているかという点で考えると良いと思います。最近では、大手企業とスタートアップの間で人材の流動化も活発に行われているようで、それぞれの環境で育成したスキルをお互いの環境で生かすというケースが生まれています。

お手本となる人間がいれば、その環境は価値がある。

人材育成や成長に役立つのは、セミナーやビジネス本より、お手本となる身近な人間の存在です。それだけで成長スピードは圧倒的に速くなります。特にデジタルの仕事では、いかに現実的な具体策を瞬間的に発想できるかが大事であり、その能力が最も鍛えられるのが実務なのです。

お手本というと、すべてを高次元で実現してしまうスーパーな人をイメージしがちですが、必ずしもそうである必要はありません。高い思考力、膨大な知見、最新技術の理解、鋭い分析視点、説明が上手、資料品質が高い、作業スピード、広大な守備範囲、知恵の捻出、論戦が最強、人の懐にシレっと入る…。すべてを備えてなくとも、なにかひとつお手本になる人をたくさん見つける形でも良いのです。

そうしたお手本がいるなら、その環境には価値があります。実務のなかで、考え方や技術、知見や姿勢を盗むチャンスがあるなら、それは最高の成長環境になります(それに仕事であれば必ず実行しなければならないので、自己学習で怠けがちな方にはちょうどいい強制力になるかもしれません)。

ただ、残念ながらお手本になる方がいない環境もありますよね…。その場合は(無責任なことは言えませんが)、私見では転職も一案かなと思います。私は何度か転職をしましたが、世の中にはこんなすごい人がいるのか…と感心することが多いです。1社で体験できることには限りが(1社のやり方や考え方しか知らないリスクも)あるので、人生の体験の場を増やすという考え方もありかなと思います(推奨ではありません。ひとり言です)。一日は24時間で一年は365日と決まってしまっているので、いかに効率よく成長できるか、それを考えること自体が成長のきっかけになると思います。

環境が、人の器をつくる。

20代の頃に「環境が人の器をつくる。」という言葉を知ってから、仕事環境を意識するようになりました。誰と働くか、どういう仕事を扱うか、どんな経験ができるのか。仕事は人生の大半の時間を費やすものである以上、それは人生経験そのものと言えます。であれば、こだわるべきだと思いました。そこにこだわらずに、人生を充実させるのは難しいと。

特にデジタルの仕事は、過ごす環境は大事です。日々の変化が激しい分、取り残されない為に情報のインプット→咀嚼・定着→アウトプットを高速で限りなく繰り返さないといけません。インプットはどういう環境が良いのか?咀嚼・定着はひとりが良いのか、誰かと会話しながらする方が効率が良いのか?クラウドサービスや最新技術、セキュリティ、法令やガイドラインなど挙げたらキリがない無数の領域の最新情報を効率よくキャッチアップするのに最適な環境は?自分が目指す目標像に沿ってベストな環境を求めます。

全員に共通したベストな環境というものはありません。環境による自分の高め方は人それぞれです。ただ、ひとつだけ実感したことをお伝えすると、なにかひとつの領域だけできる人材よりも、幅広く対応できる人材を目指した方が中期的にみて良いような気はします。

理由は、一連の流れを把握してこそ業務品質は高まる点がひとつ。もうひとつは、デジタルの世界は、これから加速度的に変化していきます(生成AIは良い例ですね)。今まで大変だった仕事がクリックひとつで解決する。そんな劇的変化がある日突然、当たり前に起こる時代になりました。そのとき、特定のスキルだけではその価値を奪われてしまうリスクがあるからです。

自分が目指す姿に向けて効率よく成長できる環境を意識的に選択する目利きと行動力、変化やチャレンジを望む姿勢こそが、デジタル人材における成長の鍵なんだろうと思います。

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