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コラム

すきま時間でちょこっと演習『プロジェクトドリル』

多様なステークホルダーの利害を把握するには?プロジェクトドリル09「過剰包装にならないお菓子の新パッケージを開発せよ」

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本コラムでは、プロジェクトマネジメント力を高めるために必要な思考の型・原則・技法を身につけるドリル(練習問題)を、「プ譜」という共通フォーマットを使用して提供します。出題のネタは、古今東西のビジネス事例、歴史上の出来事、SNSで話題になった事例、マンガなどから幅広くピックアップ。すきま時間で楽しく取り組みながら、プロジェクトの計画立案や意思決定の力を高めることを意図しています。今回はお菓子のプラスチック過剰包装をめぐって、実際にあった事例を元に考えます。

今回のドリルで鍛える力(ドリルの狙い)

  • ・多様なステークホルダーの存在を想起する力
  • ・相反する要求や利害を擦り合わせる力

 

こんな問題に心当たりがある人にお薦め

  • ・問題を指摘されると、目の前の解決策にすぐ飛びついてしまう
  • ・それぞれの視点や立場に配慮することができない
  • ・俯瞰的な視点で問題を捉えることができない

 

プロジェクトドリル9問目「過剰包装にならないお菓子の新パッケージを開発せよ」難易度★★★

ドリルのシチュエーション

みなさんはお菓子メーカーの広報担当者です。あるとき、消費者団体から環境保護のためにプラスチックなどのパッケージの過剰包装をやめてほしいという署名活動を受け、それを契機に、プラスチック使用量を削減したパッケージ開発のプロジェクトマネージャーを任されました。

プラスチック使用量を削減したパッケージを開発するためには、パッケージの開発担当者や製造を依頼しているメーカーに話をすればいいことはすぐに思いつきます。しかし、このプロジェクトで声をかけるべき人々はそれだけでしょうか?

プラスチック使用量を削減したパッケージを開発するには、これまで築き上げてきたルーティーンの変更を必要とします。材料や製法といった製造や品質管理担当に止まらず、マーケティングや営業といった様々な部門の担当者への確認・調整も必要になるでしょう。

担当者にはそれぞれの視点・立場があります。営業担当者からすればパッケージを変更することで、お菓子を仕入れ、販売してくれる業者への影響、ひいては売上への影響を考えないわけにはいきません。プラスチックを減らすと一口に言っても、どの程度減らせるのか?どこなら減らしても問題ないのか?減らすことによるリスクにはどんなことがあるのか?それ対してどんな手を打てるのか?といったことを検討しなければなりません。そこで、みなさんにはプロジェクトマネージャーとして、パッケージ開発の前に、複数の異なる関与者の視点に立って、新パッケージ開発に必要な中間目的を洗い出していただきます。

問題

新しいパッケージを開発するにあたり、パッケージ製造担当者以外に巻き込まなければいけない部署名や企業名の候補を、下記の水色の欄に入れてあります。みなさんは、巻き込んだ部署がどのようなことを気にしているか、どんな状態を望ましいと思っているか、左の候補から選んで入れてみてください。


イメージ スライド1枚目

解答と解説

今回のドリルの元となった新聞記事やプレスリリース、関係省庁が発表している環境に配慮したパッケージ開発の事例報告書を参考に、下図のように解答例を作成しました。


イメージ スライド2枚目

営業部門はたくさん小売店に仕入れて売ってもらなければならない立場なので、その視点から見れば、トレーを抜いてコンパクトな見た目になることで、中身が少なく見えて売れなくなることを心配するでしょう。トレーがあることで、お店の棚に並べやすかったのが、それがなくなることでうまく陳列できなくなってしまっては、小売店に好んで製品を仕入れたいと思われなくなるかもしれません。

品質管理部門の視点からすると、パッケージの中のトレーをなくすことでお菓子の形が崩れてしまわないかが気になります。中身が損傷していれば売れず、廃棄処分となれば食品ロスになってしまいます。これでは環境に配慮したパッケージ開発プロジェクトが本末転倒になってしまいます。

コンパクトになることで、食品を販売する上で表記しなければいけないアレルギー情報を記載するスペースをどうするか、全体的な外装デザインから考えなおさなければいけないかもしれません。もし、個別包装をやめるとなると、お土産や人の集まる場に持参した際に取り分けしにくくなり、それによって購入を敬遠されてしまう可能性もあります。

このように、プラスチックの使用量を減らして環境に配慮したパッケージを開発するというプロジェクトは、多くのステークホルダーの視点や立場を考慮して進めなければならないのです。

ドリルの教訓

多様なステークホルダーの心配事や望みを知ることができれば、自ずと勝利条件(プロジェクトの成功の定義)の表現も変わります。上図では勝利条件を「使用プラスチック量を減らしたパッケージを開発できている」という狭い視点でしか表現していませんでしたが、ステークホルダーの考えをくみ取ることで、「使用プラスチック量を減らしても、売りやすく買いたくなるパッケージを開発できている」といった、より広い視点に立った勝利条件を設定できるかもしれません。

そうなると各担当者との調整や擦り合わせは、単一の部門とプロジェクトを進めるよりも手間も時間もかかります。しかしそれを行わないことで、見栄えが悪く形が崩れやすいパッケージをつくってしまい、結果的に製品が売れなくなり、再度パッケージを企画・製造するコストからすると、調整・擦り合わせを行うコストはそれに比べればずっと安く済みます。

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このドリルで参照した書籍・Webコンテンツ

・(耕論)抗議、拡散、そのとき 田中通泰さん、佐久間裕美子さん、西田亮介さん(朝日新聞記事)

・高校生「プラ過剰包装やめて」広がる署名 “個包装”にも利点、多様な視点生かすには(Yahoo!ニュース)

・「亀田製菓さんへのお願い」で炎上 それでも女子高生が訴えたかったこと(東京新聞)

・プラスチック包装削減のご意見と署名の受領について(ブルボン社リリース)

・おせんべいでECOに挑戦!? 小さなパッケージの「大きなチャレンジ」(読売新聞)

・食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集(農林水産省)

・環境に配慮した食品容器包装設計の取り組み(農林水産省)

・容器包装のプラスチック資源循環等に資する取組事例集(環境省、農林水産省)

・日本は過剰包装?海外と比べてプラスチック包装が多い理由とは(衣食環境ブログ)

擦り合わせ・合意形成の参考書籍

・『合意形成学』(勁草書房)

・『ファシリテーター完全教本: 最強のプロが教える理論・技術・実践のすべて』(日経BPマーケティング)

・『コンセンサス・ビルディング入門』(有斐閣)

『プ譜』についての詳細はこちら

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)

ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。

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