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コラム

SNS時代のマーケティングを問い直す(新刊発売記念コラム)

「視聴質」を検証する

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新刊『SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』の発売を記念して、著者の一人である横山隆治氏の期間限定コラムを掲載します。本書の中で取り扱うマーケティングの概念を紹介していきます。4回目のテーマは「視聴質」の再検証です。

書影

「視聴率」ではもう実態が把握できない

宣伝会議刊『CMを科学する』の中で提唱した概念として「視聴質」があります。それ以前もセミナーではこれを提唱していました。単に視聴率だけでCM枠を評価してはいけないということですが、改めてこの機会に「視聴質」とは何かを挙げ、売る側、買う側がこれを意識しているのか検証しましょう。

まず「視聴質」を語る前に、もう一度「視聴率」とは何かを復習しておきましょう。

世帯視聴率と個人視聴率については既に言わずもがなとは思いますが、同一世帯にいくつものスクリーン(画面)がある以上、世帯視聴率というのははるか以前からマーケティング指標ではありません。売り買いの単位です。

さらに「率」という概念は人口が減っている中では、実態を把握しにくいのはお分かりでしょう。米国での最大のスポーツイベント、スーパーボウルではもう十数年前から、視聴率ではなく、視聴者数で発表しています。第58回スーパーボウルでは2億1000万人が視聴したとされています。米国では人口が増えているので人数で発表した方が放送局側としてはいいのです。ちなみに局側はニールセンに対してスポーツバーなどでのパブリックビューイングが含まれていないじゃないか!と文句を言っています。

「人口が増えているので絶対数で」というのと同じように、人口が減っているので絶対数で指標化しないと間違いを犯します。

テレビとデジタルを同じ土俵で評価するには

筆者が今から10年以上前に提唱した、個人GRPをインプレッション数に変換する考え方は、ネット広告がやってきた「到達人数と表示回数」という絶対値での把握を、テレビCMに応用したものです。これでテレビとデジタルはほとんど同じ土俵で評価できるようになります。また視聴率だと、地域ごとの母数が違うので、関東500GRPと関西500GRPは足して1000GRPとはなりませんが、インプ数であれば関東2億インプと関西1億インプは足して3億インプです。インプ単価は1000インプ当たりにしてCPMです。

これもエリアごとにパーコストで管理していると、ひとり当たりのコストがエリアによって全く違うことに気づかないままエリアアロケーションをすることになります。例えばあるビールメーカーのスポット出稿では、九州のひとり当たりの到達コストは関東の1/3です。東京の人が九州の3倍ビールを飲むとは思いませんので、この辺りの評価の見直しが必要かと思います。筆者はデジタルとテレビのアロケーションコンサルを要請されることが多いのですが、デジタルは全国同じCPMなのにテレビはバラバラなので、テレビ×デジタルの前に、先にテレビスポットのエリアアロケーションを行ってからになります。

画面注視率や画面視聴秒数から把握する「視聴質」

さて本題の「視聴質」です。視聴の「量」に対して視聴の「質」ですが、従来の測定法でも因数分解できるので、同じ視聴率でも中身が違うという話と、新しい測定法で画面注視の度合いなどが測れることで分かってきた視聴質の話があります。

視聴率では、100人が3600秒観ているのと、1000人が360秒観ているのは同じ視聴率になります。しかし実態は違います。そこで因数分解して到達実態を明確にします。

例えば番組Aはドラマなので、ほとんどの人が最初から最後まで観ているが、番組Bは音楽番組で観たいところだけ観て出ていく人がほとんどという具合に、同じ視聴率でも中身が違います。また視聴者の番組定着率と筆者は呼んでいるのですが、週一回の箱番組で毎回のように観ている人がどの程度いるかです。これも番組によってかなり違いが出ます。番組によって1クールごとのリーチとフリークエンシーがかなり違うはずです。このように従来の視聴率でも分析しだいで出せる「視聴質」があります。

また、新たな測定方法で本格的な「視聴質」を把握できるようになりました。特にボストン発祥のTVisionインサイト社の視聴質測定は画期的なものでした。調査世帯の家族の構成員の顔写真を事前に提出してもらい、テレビに設置したカメラと小型コンピュータが、テレビが点いている間にテレビ視聴可能範囲に誰がいるか、誰が画面を注視しているかを秒単位でデータ化します。

そこで筆者が提唱したのがGRPではく、GAP(グロス・アテンション・ポイント)です。CMが100本入っていたとして、測定されたそのCMへの総注視秒数を拡大推量したものです。これはアクチュアル視聴率(メディア施策の成果)とクリエイティブの成果を掛け算した結果で得られるポイントです。

パッシブな視聴環境であるテレビでは画面注視まではしなくても音声を聴取するだけでも効果はあるはずなので、すべてを把握できているとまではいかないかもしれませんが、画面注視の度合いがクリエイティブへの反応であることは間違いのないものです。

テレビCMの短期効果(もちろん長期にコミュニケーション資産を維持拡大する効果もある)を測るとしたら、このGAPと購買データの相関を見てみるといいでしょう。

クリエイティブのパワーをどう評価するかについては、特定の場所に被験者に来てもらってCMを観てもらう手法は従来ありました。しかしこれは自然な視聴環境とは言えません。実際の家庭で視聴を測定しているという点で、この測定法は画期的です。音声の力で画面注視を促すともいえるので、CMクリエイティブを実際の放送現場で測定しているのです。

画面注視率や画面視聴秒数は、まさに「視聴質」と言えるデータです。

次にコ・ビューイング率という指標もあります。番組によって同じ画面を何人で観ているかです。実は1人で観ているより、2人で観ている方が、2人で観ているより、3人で観ている方が画面注視度は上がります。

また誰と誰とで観ているかもポイントです。小学生とその母親で観ていれば、学習塾などもCMは効果的ですよね。

これも「視聴質」です。

データは買い手主導で編集できるものであるべき

これらのデータはずいぶん浸透しつつあります。SAS(スマート・アド・セールス)でのテレビCMのプランニング&バイイングシステムでもデータ供給元のひとつになっています。

買い付け単位がビデオリサーチのデータだから、なんでもビデオリサーチのデータでなければならないとの思い込みが広告主にあったと思います。

しかし、巨額を投じるテレビCMであれば、それを最適化するための換金レートとしてのビデオリサーチデータ以外にもマーケティング指標としての、結線データや視聴質データを買うのは当然だと思います。日本ではこの手のデータ購入額が欧米に比べて極端に低いのです。このような新たなデータを駆使すると5%~10%の改善は出来ると思います。100億投じていたら5億~10億改善できると思えば、データが数百万から一千万程度なら十分ペイします。

筆者は、「結線データ」は東芝レグザデータをお勧めします。メーカーごとにデータの採り方がバラバラなので、複数のメーカーのデータを統合することはナンセンスです。「混ぜるな危険」ということです。レグザのデータは廉価機種から高級機種まで揃っていること、録画再生データも統合されていることなどからきれいなデータです。

結線データは100万台以上のテレビ端末です。これはどこに置いてあるテレビ端末なのかで区分できるデータです。例えば北関東3県だけ簡単に抽出できます。北関東3県販社がある会社があれば、そのエリアで自社のCMがどれだけ投じられ、競合のCMがどれだけ投じられたかが把握できます。そのエリアの販社ですから販売データと突き合わせてCMの効果を評価できます。

そもそもずっとテレビは売り手市場でした。ですからデータも局の放送エリア範囲でしか供給されません。それを当たり前と思わないことです。これからは買い手のためのデータ編集をしましょう。東北6県がエリアなら6県分合算した到達量を把握しましょう。

東京都だけ見たければ東京都だけの視聴データを見ましょう。データは買い手のものであり、買い手主導でデータ編集できるものでなければならないと考えましょう。

またレグザデータはCCCマーケティングのTポイント会員との紐づけも50万人以上になっています。

「視聴質」データは、TVisionインサイト(日本ではREVISIO)のデータ活用を薦めたいと思います。こちらは日本ではユニークなものですので、クリエイティブ評価に特化してもいいでしょう(筆者の提唱するGAPももちろんですが)。

データでクリエイティブを最適化するには、まずはクリエイティブごとにそのパワーを数値で評価しておくことです。クリエイティブAは1000で、クリエイティブBは1200と評価しておくことで、なぜそこに200の差が出たかを分析していきます。その知見を積み上げていくことで初めて、データによってクリエイティブを最適化するための地盤ができます。今後はこういうデータをAIに喰わせることになるでしょう。

「調査データは高い」という思い込みを問い直す

筆者が提唱した「視聴質」はまだまだ活用されているところまで行きません。

広告主が「データが高い」と思っているからです。それはメディア出稿をコストと考えているからに相違ありません。投資だと考えれば、その効果を最大化することで得られるリターンのためにデータを買うことは積極的に行われなければなりません。

前述しましたが、日本の調査データ市場は小さいのです。広告市場全体における比率は欧米に比べてあまりに小さいです。広告を投資と考えていないからです。これは宣伝部長の役割です。社長に広告の効果の最大化、最適化をデータを使って行うこと、もうすぐ来るAI時代に対応するためにもデータ活用の知見を習得しましょう。

こうした知見を持った上で、AI時代に突入するのと、全く分からないままAI時代に突入するのとでは状況は全く変わります。

未だに「視聴質」データに触れたことがないという広告主はかなり遅れていることを自覚した方がいいでしょう。これからはインプレッションの質が問われるのです。テレビだとかデジタル化だとか話す以前に、効果的な広告または広告枠を追求しないとマーケティング投資としての広告に望むべきリターンを得ることはできないでしょう。

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写真 人物 横山隆治氏

横山隆治(よこやま・りゅうじ)
横山隆治事務所(シックス・サイト)代表
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ 取締役
トレンダーズ株式会社 社外取締役

青山学院大学文学部英米文学科卒、ADK(旧旭通信社)入社。1996年DAコンソーシアム起案設立、代表取締役副社長就任。黎明期のネット広告の理論化、体系化を推進。2008年、ADKインタラクティブ代表取締役社長就任。2011年デジタルインテリジェンス代表取締役社長、現横山隆治事務所(シックス・サイト)代表。企業のマーケティングメディアをP・O・Eに整理する概念を紹介。主な著書に『トリプルメディアマーケティング』(インプレス)、『広告ビジネス次の10年』(共著、翔泳社)、『CMを科学する』(宣伝会議)ほか多数。

書影 SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』

『SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』(横山隆治、トレンダーズ株式会社著)定価:1,760円(本体1,600円+税)

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