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コラム

好奇心とクリエイティビティを引き出す「伝説の授業」採集

21時間目:書籍『伝説の授業採集』を読んだ先生方と、伝説の授業採集ワークショップをやってみた。

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写真 書影 伝説の授業

2022年9月に発売し、好評につき重版3刷が決定した『好奇心とクリエイティビティを引き出す伝説の授業採集』。著者の倉成英俊さんの元には、いまも様々な反響や本をきっかけにした依頼が届いている。今回は、特別コラムとして「伝説の授業採集」続編を掲載。書籍を読んだ学校の先生との出会いから生まれた、2つのワークショップについてレポートしてもらった。

アドバタイムズでのこのコラムをまとめた書籍『伝説の授業採集』が発売されて以降、たくさんの方に読んでいただき、また最近でも、学校の先生方の間での口コミがジワリと広がっているようで、月並みですが、とても嬉しいです。ありがとうございます。

で、読んだ方からよく言われるのがこのセリフ。

「続編は書かないんですか?」

大好きな人々の、大好きな授業について書いてきたので、毎回かなりエネルギーを注がねばならず、もう1冊は無理だな…と思っていたのですが。気が向いた時に、ネットの記事としてならと、再びパソコンに向かい始めた次第です。気分任せのあくまで不定期ということで、ご了承を。

では、続編第一弾、始めます。

「伝説の授業採集 市川市妙典中学校先生ver.」

本というものはまさに扉で。新しい知識への扉ということもあるけれども、読者と著者が出会う扉でもあります。

2023年5月。我々の「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」のメールフォームから、1通のメールが届きました。

主なご相談内容:講演を依頼したい。

本文:先日『伝説の授業採集』の本を見つけ、購入しました。「生徒の興味や関心を引き出す・学力向上につながる」ことをテーマにして、本校の夏休み中に行う職員研修の講演を依頼できればと思い、ご連絡いたしました。(後略)

送り主は、千葉の中学校の先生。本を読んでいただいた方の依頼は無碍に断れません。返事を書き、zoomでまずはお話ししました。

仰るところによると、この学校では「自主性」を重んじているので、先生向けの研修も「先生方の内発的動機付け」をテーマに行いたいとのこと。

要するに、自分がやりたいことを大事にする、ということですね。はい。そのタイプ。得意です。

また、この先生が担当になって初回の研修でありつつ、外部に講演を依頼するのも人生初ということで、かなり恐縮されていて。誠実な感じがzoom越しでも伝わってきて、ますます応援したい、この先生がプロデュースされる研修を成功させたい気持ちが、湧いてきました。フツフツと。まさに自主的に。

僕「じゃあご要望を叶える研修内容は、例えばこういうのはどうですか?(ゴニョゴニョゴニョ)」

先生「あ、いいですね。それやりたいです」と研修の内容はその場で即決。

そして、2023年8月30日。先生がお勤めの学校、千葉県市川市立妙典中学校に伺いました。

まだギリギリ夏休み。校庭では部活をやっていて、生徒の皆さんに大きな声で挨拶されながら、校舎の中へ。


写真 人物 松井先生
こちらの写真の方がメールの送り主、松井先生。ハードルが飛べる国語の先生です。緊張気味なのでちょっと表情が硬いですが、柔らかい方です。

先生からのご紹介を受けながら、まずは、いつものスライドを投影して始めました。大きく、こう書いた1枚。

「今日は、『自習』です」

もちろんコンテンツは準備していますが、座って聞いていても、全員参考になる部分って違う。だから、自分で学ぶ、という意味で「自習」です。それぞれ勝手に学んでくださいね、と。

続いて、これまたいつもながらですが「10文字自己紹介」で、ウォーミングアップ。皆さんに10文字以内での自己紹介を考えていただいて、スマホやタブレットから、バーっとオンライン上にアップしてもらいます。面白い自己紹介が多数ありましたが、ここでは割愛(この「10文字自己紹介」のやり方は書籍のまえがきにあります。こちらのコラムにも)。

そして、本題へ。何をするかは、この日まで参加する先生方には秘密にしてもらっていました。

ここで発表。これです!と。

「伝説の授業採集 妙典中学校版」

「自分が知っている、または受けた授業の中で、これはすごかった、これは伝説だ、と思う授業を、一人につき1つずつ、教えてください」というワーク。

一応、こういう要素を、書いてもらえたらやりやすいかもとフォーマットを提供。20分で、一人につき1枚のスライドにして、teamsにアップしてもらいました。


写真 パース・イメージ フォーマット

いきなりの出題に、先生たち、うーんと唸ったり、天井を見つめたり。そうしながらも、徐々に、続々といろんな授業がアップされていきます。

制限時間いっぱいで締め切った後、提出されたスライドをバーっと見て、これは全員に説明してほしいな、と思った授業をこちらでピックアップ。口頭で共有してもらいました。ま、いわば、伝説の授業発表会ですね。

この日の参加者は約40名。なので40個の授業が共有されたわけですが、いやあ…、これが面白い。

例えば。

  • 薬師寺のご住職の講話がすごい、という話
  • 修学旅行の引率で2回、奈良の薬師寺に行ったが、2回とも同じご住職だった。しかし、その話が、本当に面白い。まず冒頭で「奈良で一番有名なお寺は?」と生徒に聞く。生徒たちみんなが大声で「東大寺〜!」と答えると「ここがどこだと思ってんじゃー!」と怒る、というところから始まって、ツカまれる。そして、感謝や思いやりについての話に入る、という流れ。これを発表した先生自身は自分自身話すのが上手くないと思っていて、このご住職の伝え方が参考になった、とのこと。
  • 体育館で、200人で国語の授業
  • とある先生が、学年最初の国語の授業を、体育館に1学年全員集めてやっていた。通読、語句の確認、新出漢字の確認など、最初の導入部分の基礎的なことを各クラスバラバラにやるのが非効率なので、どうせやらなくてはいけないところを、全員で一気に実施していたとのこと。国語の授業は各クラスごとに、40人でやらなくてはいけない、という常識を壊されて、いろいろなやりようがある、ということに気付かされた。

どうです?面白いでしょう?次のこれも好きだな。

  • 教科書の表紙絵を考える
  • 先生自身が中学校に入学した時の話。配られた国語の教科書は、表紙にリンゴ描いてあるものだった。最初の授業で「なぜ国語の教科書の表紙絵がリンゴなのか?」を1時間考える授業があり、中学校の洗礼を感じた。

ちなみに、松井先生がアップされた授業はこちら。

  • 博物館ウォークラリー
  • 行ったことのない博物館に行き、学校で配られた冊子を使って博物館を回る授業。冊子に書いてある矢印などの指示通りに回ると、実際に展示に遭遇できる驚きと、それぞれの場所で出される問いが面白かったのを覚えています。これは、全部についてよく知らないとできない授業。先生の知識はすごいなと思いました。

などなどをお互いに発表してもらい、最後に、先生たちのスライドを1つのパワーポイントのファイルにまとめ、僕がこの表紙をつけてプレゼント。


写真 実データ 伝説の授業採集のロゴ

世界でここだけのオリジナル、先生たちの伝説の授業リサーチファイルの出来上がり。つまり、これは超短時間で行える協働リサーチ、な訳です。

僕はスライド配って、お互いに発表してもらうだけなので、何にもしていない。まさに、先生方がお互いで行った「自習」。

こうやって、1つ1つ「これは伝説だ」と思うものを共有してもらったのは、教育のものさし、言い換えれば、理想や教育観がわかるから。

それをお互いに知ることも大事だし、また、お一人お一人にとっても、自分自身の興味関心や教育哲学の原点に戻れる。もちろん日々、認識して授業をされている先生もいらっしゃるはずだけど、どんな職業も日々忙しくしてると、つい忘れていたりするはずなので、このタイミングで再認識できる。そういう意味でも「自習」。

誰かが言っていたから良いとかではなく。自分がいいと思うから良い。みなさんがイイ!と心の底から思っている、その原点から、熱くて、濃くて、面白くて、伝わる、忘れられない教育が生まれる。それぞれのものさしを伸ばした延長線上に、その人なりのアレンジの理想の教育を作れば良い。教育だけでなく、どんなジャンルの何事も同じですけれどね。

研修の裏に潜ませていた、そんな意図を最後にお話しして、伝説の授業採集 妙典中学校ver.の研修を終わりました。

先生方もお互いの発表が面白かったみたいだし、僕を呼んでくれた松井先生の面目も保てたし、僕も知らない授業が知れたし、めでたしめでたし…。

と思ったのも束の間。メールがもう1通。

お次は…「柏市の美術の先生 ver.」を開催

今度は柏市から来ました。

「私、千葉県柏市で美術教諭をしております、三浦と申します。『伝説の授業採集』を拝読しました。「伝説の授業」の実現を目指し、試行錯誤を積み重ね、実践してはエラーばかりの私にとって、この本はまさに「宝物」です。実際に実践させていただいた伝説の授業もあります。(中略)私たち柏市の美術教員が一同会して研修を行う『千葉県教育研究会柏支会・造形部会』というものがあります。研修会に来ていただき、ご講演いただけないでしょうか?」

本を読んでいただいた方の依頼は無碍に断れません(再び)。しかも、宝物とまで書いてあっては。返事を書き、zoomでお話ししました。

千葉県では、年に1回、午後学校を休みにして、先生方の研修会が行われるとのこと。その柏市の美術の先生方の会にて、何かやってほしいと。なるほどなるほど。本を読んでのオファーということであれば、しかも、本の中の伝説の授業を実際に学校で実践されるほどお気に召していただけたのであれば。それはもう、再び、伝説の授業採集の、柏市バージョンをやった方がいいのではないか。そうお話しすると「いいんですか?そんなこと?!」との反応。はい。もちろん。いいに決まってます。

2024年1月19日。先生がお勤めの千葉県柏市立松葉中学校へ。前回の夏休みと打って変わって、寒い冬の真っ只中。「下駄箱に入る前に、マフラーを取りましょう」なんて張り紙が書いてある校門を潜って、校舎に入っていきました。


写真 人物 三浦進吾先生
こちらがご依頼いただいた三浦進吾先生。遊び心満載の楽しい方。ちなみに、手に持ってらっしゃるのは生徒の作品。「心を包むもの」を考え、制作する授業の時のものだそう。面白い!

さて。この日も、先生方へ、「今日は自習です」とお伝えし、市川市の時の同じように10文字自己紹介をみんなで行った後で、お題を発表しました。はい、もちろんこれです。


写真 風景 今日のテーマ、伝説の授業採集

「伝説の授業採集 柏市の美術の先生 ver.」

先生方。自分が知っている、または受けた授業の中で、これはすごかった、これは伝説だ、と思う授業を、一人につき1つずつ、教えてください!とスタート。


写真 風景 授業の様子

前回と違うのは、今回ほとんどが美術の先生ということ。なので、発表される伝説の授業が、ちょっと、感性寄り。もちろん、それぞれ、めちゃくちゃ面白いです。

例えば…

  • 和訳が出てない洋書を翻訳する授業
  • 2007年に発売された「ハリーポッターと死の秘宝」原作を生徒全員が購入しまだ日本語訳も出ていない中、ひたすら翻訳して発表していく授業。高校3年生の、選択の外国語の授業だった(自分の担当箇所もあったが、他も読まないと意味がわからない)。
  • 魔女の宅急便を鑑賞し、ジジが言葉を話さなくなってしまったのはなぜか、を考える課題
  • 高校の時の家庭科の先生は、ダンスをやっている若い男性だった。いい意味で“今までに出会ったことのない”タイプ。その先生の自習課題がこれ。はじめて大人から“答えのない”質問を投げかけられた経験だったと思う。そもそも、なぜ家庭科で魔女宅?なぜこれを考える?と疑問いっぱいで印象的。結局、翌週の授業で解説もなく、謎は謎のまま終了。(※その後もずっとその答えは教えてくれなかったとのこと)
  • 集団行動
  • 私は日本体育大学出身なのですが、高校時代に日体大の集団行動のドキュメンタリー番組を見ていました。総勢100人ほどの集団が、一斉に同じ行動をとる姿は圧巻でした。こんなエキスパートな方々がいるなんてすごいと思って入学しました。そしたらなんとその集団行動は授業として、しかも必修科目として存在していたのです。あんなの絶対できるわけがない。まさにインポッシブルだと思っていましたが、教授の指導の下、単位取得のため必死に授業を受けた結果、あのテレビで見た集団行動ができるようになったのです。どう教わったのかは当時必死すぎたのと10年以上前のことで覚えていませんがまさに伝説だと思いました。

そして今回も、すべてのスライドを1つのファイルにまとめて、この表紙をつけて、お渡し。世界に1つだけの、この日、この学校に集まった、柏市の美術の先生方オリジナルの、伝説の授業採集リサーチファイルが完成しました。


写真 実データ 伝説の授業採集のロゴ

そんな感じで、柏でも熱気に包まれて終了。オファーいただいた先生の顔に、泥を塗らずに済みました。めでたしめでたし。帰り際も教育談義が止まらなくて。ホント楽しかったなあ。

以上、本という扉の先で出会った、二人の先生方と、たくさんの伝説の授業について、お届けしました。

先生方に「自習」です、とお伝えして行った研修ですが、僕の方でも自習した学びがあって。

授業は、受けた生徒たちだけが知っている、密室のドラマ。だから、すごく面白い、クリエイティブな授業がやはりたくさん、知られないまま存在しているってこと。すごくいい授業をしたからって、その日にSNSでバズったりするわけじゃないですからね。

でも一方で。今回先生たちが共有してくれた伝説の授業の多くが、ご自身が実際に学生時代に受けたものだったことからもわかるように、先生が愛を込めて考えた面白い授業は、ずっと生徒の中で、何年、何十年も生き続けている。世の中にバズるわけではないけれど、生徒の心の中で、ある意味、ずっとバズり続ける。

そんな授業ができるようにと、本を読み、見ず知らずの僕みたいな人に、勇気を出してメールをして研修を依頼したりされる。お役に立てたかどうかわからないけれど、今回ご一緒した、お二人みたいな、こういう先生方に、日本は支えられている。そういうことも改めて、肌で感じました。

これからも頑張って欲しいな。応援してます。

伝説の授業採集の参加型版ワークショップ。どうでした?面白いでしょう?僕なしでも、ぜひご自由にお試しください。もちろん僕ありでも。

もっといろんな人たちとやってみたいですね。海外の人とか。あと、文科省の人たちとも。さて。現場の先生たちより、面白いの、出るかな?

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倉成英俊(くらなり・ひでとし)

1975年佐賀県生まれ。小学校の時の将来の夢は「発明家」。東京大学機械工学科卒、同大学院中退。2000年電通入社。クリエーティブ局に配属。2007年バルセロナのプロダクトデザイナーMarti Guxieのスタジオに勤務。2014年より、電通社員でありながら個人活動(B面)を持つ社員56人と「電通Bチーム」を組織、社会を変えるこれまでと違うオルタナティブな方法やプロジェクトを社会に提供。2015年には、答えのないクリエーティブな教育プログラムを提供する「電通アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」をスタート。2020年Creative Project Baseを起業。著書に『伝説の授業採集』(宣伝会議)、『出島組織というやり方』(共著、翔泳社)など。

書籍 『地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術』

カテゴリーと歴史を超えて採集した「人生を変える学び」20選『好奇心とクリエイティビティを引き出す 伝説の授業採集』
倉成英俊 著/定価2,090円(本体価格1900円+税)

海外の有名大学でも学ぶことができない、面白くて、為になり、一生忘れない「授業」の数々。自称「伝説の授業ハンター」の著者の約10年近いリサーチの中から、時代・国・カテゴリーを超えて採集した20の授業を厳選、収録。頭の中で凝り固まった「思考バイアス」がほぐされ、誰でも好奇心をくすぐられること間違いなし。