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キャリア形成で意識したのは、自分の「好き」と「得意」を活かして、相手の「嫌い」や「苦手」を助けること( 辻 貴之)

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広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えてきたのでしょうか。横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。学校法人近畿大学・経営戦略本部広報室の土山真佑実さんからの紹介で今回、登場するのはフジ・メディア・ホールディングスの辻 貴之さんです。
写真 人物 プロフィール 辻 貴之氏

フジ・メディア・ホールディングス(FMH)広報IR部長
兼フジテレビジョン(フジテレビ)経営企画局広報IR統括担当部長
辻 貴之氏

1996年4月に東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。青山支社でベンチャー創業支援、国際協力銀行でプロジェクトファイナンスの組成、本部で大型融資等の審査を経て、2006年1月にフジテレビへ。人事、経営企画、営業推進、持株会社の財務企画、ロンドンで欧州拠点の経営管理・事業運営等、持株会社とフジテレビの経営企画を経て、2022年7月より現職。
1996年3月上智大学経済学部経営学科卒業。2013年3月早稲田大学ビジネススクール(MBA)修了。2024年8月慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科後期博士課程修了(博士(メディアデザイン学))。2020年4月より経営情報イノベーション専門職大学(iU)の特任教員に就任。3年生向けに「コーポレートファイナンス」、4年生向けに「税務会計」を教える。

Q1:現在の仕事の内容とは?

主に持株会社であるFMHのIR(Investors Relations)と企業広報を担当しています。

FMHとは、フジテレビやポニーキャニオンなどのメディア・コンテンツ事業と、サンケイビルやグランビスタ ホテル&リゾートなどの都市開発・観光事業を二本柱とするグループです。

IRとして、株主・投資家・アナリスト等の方々へ幅広い事業の概要や方向性、会社の今後の在り方等を伝え、議論するともに、その内容を経営等と共有し、日々の企業活動を通じて実現すべく動いています。また、企業広報としてグループ各社の動向のリリースや、危機管理対応等もなっています。

着任後、この1年半で注力してきたのが、コミュニケーションの方法の進化です。ユーザーの皆さんは、当社グループの事業を、テレビ、ラジオ、配信やオフィスビルからホテルや水族館まで、さまざまな機会に体感していただいていると思います。しかし、経営環境の変化、そして株式市場の改革等を踏まえ、事業領域はさらに拡大し、それに伴い企業の在り方は、日々変化しています。

このように変化しながら多岐にわたる活動を「一つのグループ」としてご理解いただくために、ホームページや決算説明資料等を、グループ各社の経営企画や広報の方々と連携してリニューアルしました。また、統合報告書、TCFD関連のサステナビリティ資料なども、初めて作成しました。その後も、個別の取材や面談でフラットに意見をお伺いし、当方の思いや考え方を伝えながら、アップデートしています。

また、リリースも増やしました。グループ各社がそれぞれに出すリリースを、持株会社として業績への寄与度等に鑑みて改めてリリースしたり、持株会社として各社の個別事業を、年度単位で整理してリリースするなどもしています。

Q2:これまでの職歴は?

東京三菱銀行で1996年4月から約10年にわたり、企業向け融資、ベンチャー支援、政府系金融機関(国際協力銀行)での大型融資組成、本部での審査業務等に従事しました。そこで「キャッシュフローベースでモノを考える方法」を体得しました。

2006年1月にフジテレビへ転職しました。前年に起きたコーポレートアクションを受け、「お金の動きがわかれば、経営に関するさまざまなことに関わるチャンスがある」とお声掛けいただきました。

フジテレビは経営企画・IR職での採用でしたが、最初の配属は人事部。「この会社は人脈が命だ」とのことで、新卒採用や研修企画等からスタート。その後、経営企画を経て、「この会社は現場が命だ」ということで、その経験を得るべく営業へ。スポンサーとの番組・イベントの等企画調整担当し、ドラマの立ち上げや深夜のバラエティ番組の生コーナーの調整などを担当。その後財務での資金調達やM&A、ロンドン駐在での欧州拠点の経営管理や新規事業、FMHとフジの経営企画等を経て、2022年6月より現職です。

企業は一般的に「ヒト・モノ・カネ・情報」という4つのリソースで構成されている、と言われています。その視点でキャリアを振り返れば、銀行員時代に、主に「カネ」の動きを学んだ上で、フジテレビでは人事でヒト、営業でモノ売りとモノ作り、財務でカネのそれぞれの動きを見た上で、ロンドンで小さいながらそれらを動かし、FMHとフジの経営企画でその動かし方を決める動きに携わり、今は広報IRとして、その動かし方の情報を多くのステークホルダーの方々に共有する、という流れで歩んでいます。転職時に言われた「経営に関するさまざまなことに関わるチャンス」はいただけていると思います。

Q3:転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?

相手にとっては「やるべき」ながら「やれないこと」だけど、自分にとっては「やりたく」て「やれること」を見つけること。要は、自分の「好き」と「得意」を活かして、相手の「嫌い」や「苦手」を助け、双方にとってハッピーな状況を作ること。

ヒトは「やりたいこと」「やれること」「(使命や義務に基づき)やるべきこと」の3つの円の重なりに身を置くと、パフォーマンス高く働ける、と考えています。中でも「やりたく」て「やれること」をやっている時は、呼吸するように仕事ができる、と思います。

それが、お客様でも、上司でも、部署でも、会社でも、誰にしても、関わる相手にとっては「やれない」ことだと、お互いにとって意味がある関係になれると思います。銀行からテレビ局への転職や、フジテレビでの営業から財務、経営企画と広報IRの兼務はこの側面があったと思います。

そのためにも「旗を立てる」ことが大事です。自分が「やりたいこと」と「やれること」を言動や行動で示し、それに賛同してくれる仲間に集ってもらい、事を成していくサイクルを回し続けています。

Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?

2点あります。

1点目は「広報」の活動は「広報」だけではできないこと。2点目は「国内において広報としてのキャリア形成」という問いが、そもそも成立しない状況になっていることです。

1点目は古くて新しい問題だと思います。上述の通り、企業経営は、経営環境の変化に合わせ、事業領域は広がり、既存事業も内容が変わり、それに伴い新たなお客様と向き合うようになっています。伝える側が変化し、伝えられる側も変化しています。双方の変化を的確に捉えることが必要です。

そのために、社内では経営からグループ各社の現場まで、さまざまな領域、そして階層の方々とコミュニケーションをとるように心がけています。特に、サンケイビルの新規開発物件や、グランビスタのホテルなど、あまり接点がなかった分野の現場には、意識して足を運ぶようにしています。また、社外では大学の特任教授として10代と接したり、仕事以外にさまざまなコミュニティで幹事をしていろんな分野の方と関わるようにしています。

また求められる知識も、ますます増えていきます。30代でMBA、40代で会社の事業内容をベースにした領域で博士を取得したのも、その知識を増やし、つなげ、深めるためでした。この他、企業派遣で2013年に2週間のUCLA研修に行き「ファンベース」という考え方を得られたのも有意義でした。

2点目は、問いとしてもはや成立し得ない気がします。なぜなら、企業活動がグローバルになり、また、自社事業がグローバルに展開していなくても海外企業が日本に参入して活動を広げる中で、「国内において」「キャリア形成」という前提を起きにくくなっているからです。これは自分自身がロンドンに駐在した際に、現地で日本人のアーティストの方のライブや、コメディアンのイベントを企画・プロモーションしたり、海外の投資家にIRしながら感じたものです。

Q5:広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?

より「らしさ」を活かしたコーポレートコミュニケーションを展開したいです。極めて特徴的な企業体なのですが、領域の拡大と環境の変化もあり「わかりにくい」と言われることもあります。SNSやイベントなどを活用し、ステークホルダーの方々とさらに「共創」できればと考えています。

【次回のコラムの担当は?】

次回はセガ 広報部 副部長 の山田愛さんです。セガでは、X(Twitter)をはじめとするSNSセガ公式アカウントを2012年より10年超にわたり担当する「中の人」。X(Twitter)フォロワー数は約55万フォロワー。企業広報やインターナルコミュニケーションに従事する傍ら、SNSを活用したレピュテーションの向上や顧客との関係強化、採用広報に携わり、硬軟織り交ぜた情報発信を積極的に展開されています。書籍・マンガほかメディア露出も多数の他、セガが運営する公式アカウントのアドバイザーも務めておられます。変わりゆく環境に対応しながら、活躍の場所を広げる山田さんのお話を、ぜひ皆さんにも!

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