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コラム

西武ライオンズ広報変革記~やる獅かない2024~

プロ野球はファンが最優先―経営企画視点のライオンズ流「シン・広報戦略」

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こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。

4月は厳しい結果となりましたが、5月は昨日の楽天戦を終え5勝4敗と勝ち越しています。チームは北海道でさらに連勝を伸ばしてくれると信じています。

前回のコラムでは「『攻め』とは無縁だった球団広報の意識変革」についてお話しました。4回目は「経営企画や事業マネジメントの視点を“広報”に活かした『シン・広報戦略』」です。

私はさまざまなグループ会社で広報を務めてきましたが、企画にも携わりました。プリンスホテルのゴルフ・スキーの事業企画のほか、西武ホールディングスの経営企画ではグループの中期経営計画や子会社管理、新規事業など経験しました。

その経験をどのように広報戦略に役立てたのかをお話しします。今回は「『マーケティング』と『イノベーション』のふたつの思考」がポイントです。

プロ野球ファンは推しを「推す」仕掛けを待っている

西武ライオンズは、西武グループの中でイメージリーダーの役割を担っています。そして当社の事業ビジョンは「共に強く。共に熱く。」です。

西武ライオンズのビジネスモデル。提供:西武ライオンズ

ファンを増やし、ファンの満足度を上げ、売上と利益を増やす。それを選手に投資し、チームを強化する。強さこそ最大のファンサービスであり、魅力ある選手こそ最大のコンテンツです。その結果、ファンの満足度はさらに上がります。このサイクルを回すことで、事業ビジョンを体現していくわけです。

ホテル・鉄道・不動産のビジネスモデルとは違うため、従来までの広報戦略のアプローチとは変わります。

そのためライオンズの広報戦略を立てるにあたり、プロ野球ビジネスを長年取材している経済ジャーナリストに連絡を取り、話を聞きました。

すると「プロ野球はファンが大切。第一に考えるのはファンでなければならない。ファンは自分の『推し』を推したいので、推すための仕掛けを待っている。ファンと長くコミュニケーションを構築する必要のあるファンビジネスは、短期的な利便性の改善や企業都合ではなく、常にファンの気持ちを最優先に考えることが肝要」と教わりました。

これは、新規事業を企画する際に大切な視点であった「ゲインの最大化とペインの最小化」と置き換えることができそうです。

ファンが価値を感じる「ゲイン」を最大化し、ネガティブな「ペイン」を改善する。そして、球場に来場していただくファンを増やし、その観戦価値を高めて消費単価を上げれば、利益増につながります。来場者が増えれば、結果として球場内の広告価値も上がり、売上・利益にも貢献できます。この話を聞き、プロ野球興行のビジネスモデルがよく理解できました。

西武定番の応援スタイル「フラッグ応援」で声援を送るファンたち。提供:西武ライオンズ

「球場飯」は12球団中トップの評価に

次に、社内のキーマンたちに実情を聞きました。ライオンズは2017年に球場の「ボールパーク化」と「チーム/育成の強化」を掲げた計画を発表しました。球場の改修は2021年春に完成しましたが、コロナ禍でファンの皆さんにボールパークの体験価値を提供できていませんでした。

ボールパーク化の取り組みから。「auじぶん銀行ネット裏パーティーテラスネット裏パーティーテラス」から。提供:西武ライオンズ

子ども向けの屋外施設「テイキョウキッズフィールド」。提供:西武ライオンズ

バックネット裏スタンド地下には12球団最大級となる観戦ラウンジを新設したほか、これまで芝生で座りづらかった外野エリアに椅子を設置するなどしました。これまでのいいところは残しながら、改善すべきところを改修し、より観戦しやすくなったベルーナドームの魅力が、ファンの皆さんに伝わっていないという問題点がわかりました。

ベルーナドームの飲食、いわゆる「球場飯」は、ネットメディアの「ねとらぼ」で、2021年から3年連続で12球団中1位を獲得し、大変おいしいと評価をいただいています。

味のみならず、グループに「プリンスホテル」があるため、お客さまに料理をご提供する際、スタッフがお礼と共に「一声」かけるなどホスピタリティも徹底しています。球場の外に飲食店が少なく、球場内での需要があるため、力を入れており、担当者の話を聞けば聞くほど、私も食べてみたくなりました。

2023年に初めて実施した、ライオンズグルメ初のNo.1決定戦「KING OF 獅子まんま 2023」。

ライオンズ一筋23 年目の中村剛也選手のグルメ紹介も好評だった。

ライオンズの強みと経営課題をまず把握する

選手たちを統括する球団本部は「ニュアンスの言語化」に取り組んでいました。

例えば、選手が好調な時の打席理論を具体的に話すことができれば、再現性に繋がります。そのため、選手たちが「今日の打席で何が良かったのか」「何が課題なのか」をコーチと共に振り返り、上手く言語化できるように、人材開発の専門組織が作られています。

これは一般社会でも非常に大事なことで、球団本部がやっていることは、抽象化して考えれば、ビジネスパーソンや、子を持つ親など、広く興味関心が高い分野だと感じました。

来場者チケットの担当者に話を聞くと、コロナ禍以前に比べ、ファンクラブ会員数は10%減で留まっているものの、実際に球場に足を運んでいただけたファンクラブ会員数(1回以上来場した方をユニークユーザーと定義)は30%も減っていたのです。

ファンクラブの年会費を支払っているのに、球場に来場いただけてない。コロナ禍をきっかけに、球場から足が遠のいてしまっていることがわかりました。

さらに、ファンクラブ会員のボリュームゾーンは、何度もリーグ優勝・日本一に輝いていた1980年~90年代のライオンズ黄金時代に幼少期だった40代後半で、そこから左肩下がりになっています。

西武ライオンズの2023年度ファンクラブ会員の分布。提供:西武ライオンズ

それぞれの担当者の話を聞き、ライオンズの強みと経営課題がわかりました。最後に、社長と担当役員に、広報部に特に注力してほしいことを聞きました。

するとグループ会社の西武鉄道やプリンスホテルはコロナショックからまだ完全に抜け切れない状況だったこともあり、ライオンズは利益を残すために「マーケティング広報(営業広報)」に力を入れてほしいと言われました。

広報部組織の理想と現状ギャップを「7S」で分析

これらを踏まえ、広報部の組織について望むべき状態と現状のギャップを、マッキンゼーの7Sで分析しました。この分析手法は、企業にある3つのハードな経営資源(戦略、組織、システム)と、4つのソフトな経営資源(価値観、スタイル、人材、スキル)をもとに、適切な組織改革と事業戦略を考えることができるフレームワークです。

それにより導き出され、初期的に着手したのは、以下の3点です。

※このあたりの戦略はすべてお話しできず申し訳ありません。かなり言えない部分がありますが、なるべく伝わるように書きます。

・業務の棚卸、取捨選択
・慣例で続く仕事の見直し
・安定性、効率性の追求

代表的な例をお伝えすると、メディアの方の受付対応に広報部員が張り付いていましたが、これをDXで無人化しました。

また、プロ野球事業は例年ほぼ同じサイクルですが、広報部には業務マニュアルがありませんでした。例えば、メディア向けに取材誘致をする際は、前年のメールを振り返って、それをコピペして送付していたため、誤植が頻繁に発生していました。

マニュアルがあれば、誰がやってもミスなく、滞りなくできるようになります。私は西武ホールディングス広報部時代に、部の全業務を半年でマニュアル化しました。形骸化にならぬよう継続して見直すサイクルを作り、現在もそのマニュアルは健在だそうです。

そうした経験もあり、仲間にも「こうすればできるよ」と話をして、マニュアル化してもらいました。さらに、プロジェクト管理ツールも導入し業務を見える化し、複数案件を抱えている部員がいたら、均等に振り分けるようにしました。こうして部員の仕事に余裕を作っていきました。

プロジェクト管理ツールのBacklogを使って業務を見える化した。提供:西武ライオンズ

業務改善ののち、マーケティング広報を本格化

余力ができたところで、マーケティング広報(営業広報)です。経済ジャーナリストが「ファンと長くコミュニケーションを構築する必要がある」と話していましたが、顕在化しているファンの方には1年かけて、どういったニーズを欲しているのかを理解したうえでアプローチすべきだと考えました。

よって2023シーズンは広報部が持つ経営資源を投下せず、今いない潜在ファンに対してアプローチするため、ライオンズの強みを多様な媒体で取り上げてもらいました。これについては次回お話しします。

次はコミュニケーション機能の統合化です。今後は若いファンを増やすため、SNSも戦略性をもって取り組んでいかなければなりません。これまで、SNSチームは別部署に属していましたが、コミュニケーション機能を統合化し最適化することが適切だと経営陣に説明し、今年4月からSNSチームを広報部に移管してもらいました。

広報部各種ツールとSNS連携により、エンゲージメントが飛躍的に向上。隅田知一郎選手の結婚発表にまつわる投稿の例。

このような機構改革は、組織を司る経営企画のようなセクションの経験があれば、アレンジしていくことは可能です。広報部にあるリソースだけで考えると限界があります。

会社のため、そしてファンに有益な企画を実行するためには、周りの人たちを巻き込み、協力してもらい、みんなで組織を変える。「マーケティング思考」と「イノベーション思考」は、事業マネジメントを進めていくためにとても大事だと思っています。

実は、部員には最初からすべてを説明していません。「面白い仕事をするために余力を作ろう、そして憧れの媒体に取り上げてもらおう」だけでした。

また業務や戦略が変わったと一目で感じてもらうため、かつ面白そうと思ってもらえるように「シン・広報戦略」と名付け説明しました。その後は前回話した意識改革へとつながります。

筆者が作成した「シン・広報戦略」の資料から。提供:西武ライオンズ

そして着任から1年後、近隣のグループ施設で、1日かけてのオフサイトミーティングを行い、前述のビジネスモデル、ビジネスフレームワーク、経営課題などを話し種明かしをしました(笑)。ミーティング前にアイスブレイクとしてキャッチボールをしたり、多摩湖畔を散策したり、夜は社長や担当役員にも参加いただき車座で懇親も深めました。

次回は、今いない属性にライオンズの情報を届けるために行った「美肌の選手を美容雑誌に…西武ライオンズで実践してみた『戦略PR』の話」についてお話します。

 

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