生成AIの台頭により、業務の効率化が実現するとともに、メディアの在り方や、企業と人との接点のつくり方をも変えるような大きなインパクトが予測されます。マーケターは、これらの技術をどのように受け入れ、業務に生かしていけばいいのでしょうか。今回は、国政選挙に生成AIが与えた影響について、富士通の山根宏彰氏が解説します。
※本記事は月刊『宣伝会議』1月号の連載「AI×マーケティングで未来を拓く」に掲載されています。
生成AI時代における国政選挙 変化する政治コミュニケーション
2024年の秋は日米両国で重要な選挙が実施され、民主主義の新たな課題が浮き彫りとなった。日本では、生成AI時代における初の国政選挙である衆院選が、自民党の裏金問題という従来型の政治不信と交錯する中で行われた。一方、米国ではドナルド・トランプ氏が大統領に選出されたが、カマラ・ハリス氏が出馬するまでは、史上最高齢の現職大統領を含む大統領選が展開されていた。今回の選挙の結果により、政治コミュニケーションの在り方が変わったことを実感した。その変化は企業のマーケティング活動にも重要な示唆を与えているのではないだろうか。
国政選挙における生成AI技術の影響
現地時間で2024年11月5日の米国大統領選に向けて、生成AI技術が選挙戦の新たなツールとして使用され、選挙活動の様相を大きく変えた。特にトランプ陣営では、AIを用いたディープフェイク技術を活用し、バイデン氏に批判的な広告や映像を作成した。例えば、共和党全国委員会はバイデン氏の再選による最悪のシナリオを描いた生成AI動画をYouTubeに投稿した。一方で、ソーシャルメディア上では、AI生成による「バイデン氏の演説」として虚偽の内容が拡散された。
これに対し、“FacebookおよびInstagram”は、AI生成コンテンツへの明示的なラベル表示の開始など、新たな対策を導入した。こうしたSNS側の対応は、生成AI時代における選挙の公正性確保に向けた重要な一歩となったが、技術の進歩は規制の速度を上回り、新対策の有効性については継続的な検証が必要だ。
日本でも、先の10月の衆議院選挙では、生成AIを用いた偽情報の拡散が選挙の透明性を脅かす事態となった。例えば、テレビ朝日の選挙特番でAIコメンテーター「エレク」が「間違いなく不正選挙」などと発言しているとする偽動画が拡散する事例が発生。日本ファクトチェックセンターによると、拡散された動画は音声が改変されており、実際の放送内容とは異なる。実際の放送では、エレクは若者の政治に対する期待や支持政党について分析を行っており、不正選挙に関する発言はしていない。この事例は、生成AI技術が選挙の公正性に与える影響の深刻さを示すものとなった。特に従来型のメディア発のコンテンツもソーシャルメディア上で多く投稿され、両者が曖昧になる中で、情報の真偽を見分けることの難しさが浮き彫りとなった。
生成AIは政治の世界に2つの大きな変化をもたらしている。ひとつは選挙運動のデジタル化、もうひとつは偽情報対策の高度化である。
インドやインドネシアの選挙では、候補者の多言語での演説生成や、故人の「復活」演説など、生成AIを活用した選挙運動が現実のものとなっている。日本でも、公職選挙法上の具体的な規制はなく、活用の余地は広がっている。
一方で、偽情報対策の面では、NEDO、富士通が60億円規模の偽情報対策システムの開発に着手するなど、デジタル時代における選挙の公正性確保に向けた取り組みが官民を挙げて始まっている。
…この続きは11月29日発売の月刊『宣伝会議』1月号で読むことができます。

