かつて、コピーライターの役割は「商品を広告すること」でした。しかし近年、生活者の購買行動やニーズは多様化し、より“共感”や“インサイト”が重視される傾向にあります。そのような中で、言葉の力を活用し、ものづくりの段階から体験価値を設計することが求められているのです。
今回は、クリエイティブディレクター兼プロダクトデザイナーであり、「コピーライター養成講座 特別クラス」で講師を務める小野直紀氏(博報堂 monom代表)に、コピー起点でプロダクトや企画を発想する手法を聞きました。
魅力ある商品や企画は、言葉から生まれる
もともと、博報堂に入社した当時は空間デザイナーとして活動しており、3年目の配属替えでコピーライターとなった経歴を持つ小野氏。現在、両職能を生かした「コピー起点のプロダクト開発」を行う小野氏は、コピーライターに限らず、言葉という武器を手に入れることで自身の持っている力をより伸ばすことができると語る。
コピーライティングは、商品を魅力的に伝え、生活者に「欲しい」と思ってもらうためのコミュニケーションツールである。コピーライターは、商品の魅力を伝える言葉を探す役割を担っているが、言葉から逆算してモノをつくることができれば、より人々の心に刺さる商品や企画ができるという。
実際に生活者の視点に立つと、キャッチコピーが興味関心の入り口になっていることも多いことがわかる。小野氏は初代iPodのキャッチコピー「1000曲をポケットに」を例にとり、生活者の驚きやニーズを引き出す言葉と、そのような言葉を起点に商品開発を実現していくことの重要性を語る。世の中でまだ見つかっていないものや概念、考え方に言葉や名前を与えることで、生活者も気付いていないニーズを掘り起こすことができるのだ。さらに、もともと存在するものであっても見方を変え、違う言葉を与えることで、全く違うものに見えてくることもあるという。このように、世の中のものを発見したり、再発見したりするのが言葉の有用性だと小野氏は続ける。