フジテレビはどこで対応を誤ったのか。もしフジテレビ広報の立場ならどう対応すべきだったのか。企業で広報実務経験の長い4人が徹底討論した。
フジテレビ本社
参加者(仮名)
仁志さん
メーカー広報に従事しつつ、公的機関の広報にもコンサルティングを行う。広報歴10年以上。
真美さん
アパレルPR、公的機関を経て、ベンチャー企業の広報歴7年以上。アパレルPR出身のため危機管理広報は不得手だが、最近広報絡みの報道が多いため意識を心掛けている。
信之さん
メーカーの広報を経て、現在はIT企業に在籍。他社の事例を反面教師にしながら、対岸の火事だと思っている社長や同僚に危機管理広報の重要性を啓発中。
絵里子さん
金融業、デジタルマーケティング部門を経て、2024年より広報室長。金融業界の不祥事多発を受け明日は我が身と、模擬記者会見を計画中。
初動対応次第ではトップ辞任回避も可能
━━まずは危機管理広報の視点から皆さんの意見を伺います。
信之
:今回の騒動、初動対応でほぼ勝負が決まった典型例ですよね。危機管理広報では、初動の9割が結果を左右すると言っても過言ではない。過去のダメージを最小限に抑えたケースでは、おおむねすぐに謝罪会見を開いて誠意を見せようとしていました。ところが今回は「時間の経過とともに世論の関心は自然に収束するだろう」という安易な判断が致命的な誤りとなった。それがここまで騒動を長引かせた一番の要因でしょう。
KDDIの通信障害のケース(2022年7月)では、原因不明の段階で高橋誠社長がすぐに謝罪会見を開きました。結果的に社長の説明能力の高さが評価され、事態は収束に向かいました。フジテレビのように社長が辞任することもなく、高橋社長はこの4月に代表権のある会長に昇進することが発表されたばかりです。
またシステム障害で東京証券取引所が終日売買停止に追い込まれた際、東証は即日謝罪会見を開いて最小限のダメージで済ませています。謝罪会見は、できる限り早く行い誠意を見せることが重要です。理想的な危機管理広報とは、のちに誰の記憶にも残らないこと。この2つの例はそれに当たると思います。
フジテレビ問題の経緯
- 2024年
- 12月19日:『女性セブン』中居氏の女性トラブルを報道
- 12月26日:『週刊文春』中居氏トラブル第一報の報道
- 12月27日:フジテレビ、トラブルの幹部関与を否定
- 2025年
- 1月9日:中居氏、騒動を謝罪・示談成立認める
- 1月17日:港浩一社長が緊急記者会見、調査委員会設置発表
- 1月18日:大手企業がCM差し止め。トヨタ自動車など
- 1月20~22日:CM撤退相次ぎ50社超に
- 1月23日:中居氏が芸能界引退を発表。フジ、社員説明会実施。第三者委設置発表
- 1月27日:フジテレビ会見。嘉納会長、港社長辞任を発表
- 1月28日:週刊文春が訂正とおわび掲載
絵里子
:信之さんと同感です。まず速やかに、明らかになっている事実と調査中の点を切り分けて公表すべきでした。「現時点で分かっているのはここまで。残りは調査中です」という発表がまず第一歩。それが無かったことで、憶測や風評を呼び、事態を大きくしてしまった。フジテレビ社内のコンプライアンス担当や広報部門との連携体制も機能不全に陥っていたように思われます。体制の見直しが必要でしょう。
