【はじめに全文公開】『エクスペリエンスプロデューサーが書いたイベントの教科書』(中島康博著)

「宣伝会議のこの本、どんな本」では、当社が刊行した書籍の内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」や識者による本の解説を掲載しています。今回は、3月17日に発売した新刊『エクスペリエンスプロデューサーが書いたイベントの教科書「体験」の「カタチ」をつくる超実践的思考法』(中島康博著)の「はじめに」を紹介します。

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著:中島康博(博報堂プロダクツ)
定価:2,200円(本体2,000円+税)
詳細・購入はこちらから

はじめまして。著者の中島康博です。最初に少し自己紹介をさせていただきます。

私は、博報堂プロダクツのイベント・スペースプロモーション事業本部に所属するエグゼクティブ・エクスペリエンスプロデューサーです。博報堂に入社してから、30年以上にわたり一貫してイベントと空間の専門セクションで働いてきました。

イベント業界に長く関わってきたので、時代の変化に合わせて、イベントの形態や役割が大きく変わるのを目の当たりにしてきました。近年ではリアルなイベントだけではなく、バーチャルや、リアルとバーチャルを融合させたイベントも多くなり、また、役割もプロモーションメディアの一つとしての位置付けからブランド体験そのものへと変わり、その重要性も増してきました。そして、その時代の変化の中で、私の肩書もイベントプロデューサーからエクスペリエンスプロデューサーに変わりました。

私が担当してきた業務は、販促イベントや企業催事、展示会からショールーム、店舗、さらには商業施設開発まで、多岐にわたります。国内外を問わず、フィジカルもバーチャルも、どちらも経験してきました。そのような中で、常に考え続けてきたのは、さまざまに異なる環境の中で、どうすれば「感動体験」(心を動かす体験)を提供できるのかということでした。

私の仕事に対するモットーは、「企画・制作:運営・演出=50%:50%」です。イベントの成功は、企画のアイデアやデザインの良さだけでは成り立ちません。現場での運営や進行がスムーズで、参加者が安心して体験に没入できることも重要です。アイデアを具現化する企画から制作の段階と、それを現場で実施する運営や演出の段階が、それぞれ50%ずつの割合でイベントの成否を左右すると考えています。

私は、常に現場に足を運び、チームと共に準備を進め、イベント当日には参加者の反応を間近で見届けることに大きな価値を感じています。現場に立ってこそ、企画の段階で想定していたことがどう実現されるのか、参加者がどう反応するのかを知ることができるからです。そして、そういった経験が次の企画を練り上げるためのヒントになると考えています。そういう意味では、広告会社では少し珍しい(?)「現場主義」のエクスペリエンスプロデューサーです。

本書を書いた理由

私がこの本を書いた理由は「エクスペリエンスプロデューサー」という仕事を知ってほしいと考えたからです。

そもそも「エクスペリエンスプロデューサー」ってかなりわかりにくい言葉ですよね?「エクスペリエンス」と「プロデューサー」という2つの知っているようで知らない言葉でできているので当然です。

「エクスペリエンス」は日本語では「体験」とも「経験」とも訳せます。しかし「体験」は「現場」寄り、「経験」は「記憶」寄りの言葉であり、この点で言うと私たちが扱うのは「体験」で、かつその結果としての「記憶」までも想定していることを考えると「体験→経験」とでも表現するのが正しいものです。

一方、「プロデューサー」は「ビジネスとしての責任者」です。よく対比される「ディレクター」が「作品としての責任者」だとすれば、「プロデューサー」は予算も企画も成果にも(もちろん作品にも)責任を負う立場であり、クライアントに対して責任を負う立場です。

そのような認識から、私は「エクスペリエンスプロデューサー」を「感動体験(心を動かす体験)」の「総合演出家」であり、「感動体験施策(感動体験を提供する活動)」の「プロジェクトマネージャー」であると考えています。つまり、私たちは「体験」そのものが、より効果的になるよう総合演出する役割と、その「プロジェクト」全体をより効果的なものにするようにマネジメントする役割を果たすと考えているのです。

私たち博報堂プロダクツのイベント・スペースプロモーション事業本部は「体験のカタチをつくるプロ」を標榜しています。私は、ここでいう体験の「カタチ」には4つの要素があり、それぞれが「カタチ」と読む異なる漢字=「形」「容」「状」「象」で表現できると考えています。この4つの要素は、体験を構成する重要な要素であり、イベントや空間プロデュースはもちろん、オンライン施策にも、サービスや業態の開発にも適用できます。

まず「形」は、「形式」の「形」で「外枠」を意味します。イベントにおいては「企画」に該当し、体験の「骨格」をつくる段階です。次に「容」は、「内容」の「容」で「中身」です。これはイベントにおいては「制作」にあたり、体験の「対象」をつくる段階です。そして「状」は「状況」の「状」で「あり様」です。これはイベントにおいては「運営」に該当し、参加者の動きや反応に合わせて対象を「作用」させます。

そして最後に「象」ですが、これは「印象」の「象」で「しるし」を意味します。参加者の心をどのように動かすか、あるいはプロジェクト全体をどのように推進して成果を上げるか、つまり「演出」と「マネジメント」に該当します。この「演出」と「マネジメント」はイベントにおいては、「企画」「制作」「運営」とすべての段階に関わる重要な要素です。なぜなら、体験とは「相互作用」だからです。「相互作用」とは参加者と主催者が相互に影響を与え合って変化をすることです。企画段階でのアイデアが優れていて、制作段階でのクオリティが高くても、それを運営段階で参加者に対して有効に機能させ、主催者側にも適切にフィードバックをしなければ体験としては不完全なものになってしまいます。だからこそ、企画から運営まで一貫した、演出やマネジメントの視点が必要であると考えています。

エクスペリエンスプロデューサーは、「体験」を演出する「総合演出家」であると同時に「プロジェクト」をマネジメントする「プロジェクトマネージャー」でもあります。この2つの視点を兼ね備えることで、「感動体験(心を動かす体験)」そのものと「感動体験施策(感動体験を提供する活動)」全体をつくり上げることができるのです。

私はエクスペリエンスプロデューサーの仕事を「人が人と人でつくる」仕事と表現しています。強調したいのは3つ目の「人で」という部分で、最終的な成果物がキャストやスタッフなどの「人で」できているということです。エクスペリエンスプロデューサーの仕事には、多くの人と協力し、時に困難な調整を行いながらも、最終的には参加者が心から楽しみ、心を動かす体験をし、忘れられない経験として持ち帰っていただけるという醍醐味があります。この本を通じて、皆さんにエクスペリエンスプロデューサーの仕事の魅力や奥深さを知っていただきたいと思っています。

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