【前篇】「カンヌライオンズ2025『怒りなき表現時代』の到来」はこちら
私が好きな経済理論に「景気循環論」というものがあります。インフラや設備の劣化とイノベーションによるサイクルが産業ごとに10〜50年程度で起き、それによって社会が大きく変化するという理論。個人的にそれは経済だけじゃなくて、ファッションやフードにも当てはまるんじゃないかと思っています(タピオカとか、レトロブームも繰り返していますし)。
Windows95というPCの民主化・大衆化ツールが生まれて30年目の今年。一部の専門家のみならず、世の中全体に普及して一気に社会を変えているのはもちろんAI。カンヌ現地では、Appleやアクセンチュアなど多数の企業がセミナーでAIをテーマにしており、多くの人を集めていました。
カンヌライオンズのdentsu Beach Houseでは、電通の統括執行役員 豊田祐一氏らによる生成AI×ビジネスイノベーションに関するセミナーが開催されました。
受賞作の中でももちろん“AI”を標榜する作品が多数ありました。その中で、日本でも実践できるAIクリエイティブの活用術を2つご紹介します。
カンヌライオンズ受賞作に見るAIの活用術
今年の受賞作の中で、AIらしさが光ったものは以下の2つのポイントがありました。
01 Jury AI=熟練の人間の代わりに、判定員として機能するAI
02 Quirky AI=特異点(個性・クセ)をやや誇張して再現する生成AI
01 Jury AI(判定員としてのAI)
AIを活用した受賞作に共通するのは「目の良さ」だと言えます。そもそもの課題の着眼点(視点)が優れていたことと、それを解決するために人間ではなくAIの解析を用いることに必然性があったものです。
2つ事例をご紹介します。
Alkem Laboratories「DawAI Reader」
(Pharma部門シルバー)
インドにおいて薬の処方箋は、手書きで渡されるケースが一般的だ。ところが医師の手書き文字は殴り書きのように乱雑なため誤読され、量を間違えるなど危険な処方がされるケースも多い。「DawAI Reader」では医師の手書き文字をOCR(光学文字認識)で読み取りAIで分析し、医療データベースと紐づけて正しい処方を確認する仕組みをつくった。
The Ring Magazine「The 4th Judge」
(Entertainment Lions for Sport ゴールド)
ボクシングでは時折試合内容よりも判定結果について議論が起きる。歴史あるボクシング専門誌『The Ring』は、103年分の試合データを学習させ、リアルタイムで試合を分析・採点できるAIをつくった。WBCからも公式サポートされ、国際放送でも活用された事例。
これらの事例に共通するのは人間の目では判断しきれなかったり、修正を言い出したりしづらい相手(医師や審判)の判断に対して、「AIはこう言っていますけど」という御旗をつくり上げたのがポイントです。
日本にもマグロの尾の断面をプロの目線で解析した「TUNA SCOPE」や、昨年ACCグランプリを受賞したアイリスのAI搭載インフルエンザ検査機器「nodoca」など、AIの画像診断による良作は多いです。世界的にもホットな領域であるため、今後も受賞が続くと思われます。


