カンヌライオンズ2025「怒りなき表現時代」の到来

6月16日~20日(現地時間)にかけて開催された、カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル2025。今年も現地で参加した電通 zeroのクリエイティブディレクター 嶋野裕介さんが、要注目トピックを振り返ります。

こんにちは。電通のzeroという局にいる嶋野です。今年もカンヌライオンズに行って、たくさんの作品やセミナーを見てきました(帰りの飛行機が飛ばなくて深夜のパリで途方にくれたり、メーターをまわさないタクシーにあたったりと散々でしたが……)。

筆者左。右は同じく日本に帰れず、深夜のパリの空港を一緒に徘徊したGOのクリエイティブディレクター 小林大地さん。

今年のカンヌは受賞作が充実している良い“ライオンイヤー”でした。個人的トピックスでは、

  • 複数部門でのグランプリ獲得作品の存在
  • AIの標準装備化
  • OUTDOOR部門一番おもしろい説
  • スポーツなどLive系受賞作の質・量ともに拡充
  • プレゼンでは「当事者」の生声が結果に大きく影響
  • 初カンヌの広告主、ご担当者の増加
  • 中長期施策(ブランディング)の評価傾向
  • 社会課題の世界均一化傾向

などがありました。

数回にわたって解説をしていきたいと思いますが、本記事では「今年ならでは」と言える受賞作品の特徴をまとめます。

2025年カンヌライオンズ 受賞作品の2つの特徴

例年と比較して際立ったのは、次の2点です。

1、Multiple Grand Prix – 複数部門でのグランプリ獲得作品の存在
2、No Anger – 怒りなき表現時代

それぞれ簡単に説明します。

1、Multiple Grand Prix – 複数部門でのグランプリ獲得作品の存在

カンヌには時折、部門を超えてグランプリを取るジャイアントワークが存在します。記憶に新しものだと、2017年の「Fearless Girl」(4部門でグランプリ)、2019年の「Dream Crazy」(3部門でグランプリ)など。そういう作品が出る年は、その仕事自体がカンヌの顔となり印象に残りますし、世界中がその仕事を模範として、翌年以降一気に作品の方向性が変わります。

しかし近年は、部門の細分化(専門化)によりそれぞれの審査基準が細分化したせいか、複数部門をまたぐグランプリは0〜1作品の年が続いていました。私も、今後はもうそんなすごい仕事は現れないんだろうなぁ……と思った矢先。

なんと、今年は複数部門でグランプリを受賞する作品が現れました。しかも4作品も。

  • 「Caption with Intention」
    3部門制覇(Design部門/Digital Craft部門/Brand Experience & Activation部門 )
  • 「Three Words」
    2部門制覇(Titanium/Creative Business Transformation部門)
  • 「Real Beauty: How a soap brand created a global self-esteem movement
    2部門制覇(GLASS: The Lion for Change/Greative Strategy部門)
  • 「Vaseline Verified」
    2部門制覇(Social & Creator部門/Health & Wellness部門)

複数部門でグランプリを受賞した作品数の変遷(筆者調べ※間違えておりましたらすみません)。

※1つひとつの作品の詳細は、SNSなどで解説をしてくれる人がたくさんいるのでぜひご覧ください。全部めっちゃいいです。SNSやPR関連の仕事が多い私にとっては、特に「ワセリン」は衝撃でした。

「Vaseline Verified」

この4つの作品それぞれが帯びる主題こそ、これからのマーケター・クリエイターが取り組むべき重要なテーマとなる気がします。

4つの複数部門グランプリ作品と、その主題テーマ

  • 自分たちの既存ビジネス自体の殻をクリエイティビティで破り、新しいステップに拡張する“Business Transformation”。
  • 全く新しい発想法・技術で社会を前に進める“INNOVATION”。
  • 世界最大のメディアであり、感情の溜まり場である“SNS”。
  • 長きにわたる継続性でブランドを育てていく“Long term Branding”。

カンヌライオンズが、そのタイトルから「広告」という言葉を手放して十余年。今、クリエイティビティの先に広がっているのは、まさにこの4つの領域だと感じました。

なお、「AI」が含まれていないのは、すでに受賞作の中では標準装備されていたからです。もはやあって当たり前のものになっていました。

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