40年以上「広告」の世界にいます。その時間の中で「広報」は近しいけれどもちょっと異なる領域でした。クライアント企業においても「広報部」と「広告宣伝部」は別の組織であることが多かったような気がします。もちろん『広報会議』と『宣伝会議』はそれぞれに違う媒体です。「広告と広報は違う」そんな意識を持った関係者も多いのではないでしょうか?
しかし、本書のメッセージは従来別物とされてきた「マーケティング」「PR」「パーパス」「ブランド」それぞれが「経営」そのものと密接に絡み合い、相互に影響し合いながら絶えず変容しているということです。これらの概念は、もはや独立した領域でなく、組織や社会の中でダイナミックに交差するものとなっています。「広報」と「広告」、決して隣の領域の話ではない、という時代が始まっていると感じました。
書名から連想するのはコトラーの「マーケティング4.0」という言葉です。「PRも4.0か…」と本書を開きました。そのふたつの「4.0」は基本的にシンクロしているのですが微妙に進化の年代設定がずれています。「マーケティング1.0」は1950~60年代、「マーケティング2.0」は1970〜80年代、「マーケティング3.0」は1990〜2000年代、「マーケティング4.0」は2010年以降、とされていますが、本書では「PR1.0」は1950〜2000年代、「PR2.0」は2010年代、「PR3.0」は2010年代中盤から2020年代にかけて、そして「PR4.0」は現在始まっているトレンド、とされています。このずれが過去「マーケティング」と「PR」を隔ててきた薄い膜だったのかもしれません。
一方でそれぞれの変化は、大きな意味では2011年にカンヌライオンズが「国際広告祭」から「国際クリエイティビティ・フェスティバル」へと名称を変えた出来事と連関していると思います。それはグローバルな業界全体が「アドバタイズ」という言葉を捨てて「クリエイティビティ」を価値としようし始めた象徴的な瞬間でした。この転換は、広告・広報・マーケティング・ブランディング・経営の各機能が多層的に結び合う時代の到来を告げています。
突然、関係ないエピソードを紹介します。2007年に従来の物理学や数学の枠を超えて新しい宇宙探究を目指したカプリ数物連携宇宙探究機構が設立されました。分野横断的な発想が新たな知を生み出す、これが今、科学が進んでいる道です。本書『PR4.0』も、広告・広報という既存のカテゴリに縛られない、柔軟で創造的なPRのあり方を提示しています。もしかしたら広報広告連携機構が必要なのでは?そして「広告」「広報」を超えた新しいキーワードが求められているのでは?それを体現するキーパーソンは「PRパーソン」なのか?「アドパーソン」なのか?全く「新しい4.0パーソン」なのか?それは企業の経営者や事業の当事者なのかもしれません。と、いうことで本書は、出来るだけ広い業種の若い世代に読んで欲しいと思います。来るべき5.0の世界は「マーケティング」も「PR」もAIと共にあるはずです。


定価:2,200円
(本体2,000円+税)
『新しい「企業価値」を創出する PR4.0への提言』
編著:株式会社 電通PRコンサルティング
本書は、電通グループ内のPR領域における専門会社である電通PRコンサルティングが2020年8月から3年間、月刊『広報会議』(宣伝会議発行)において連載した「データで読み解く企業ブランディングの未来」をベースに、現在、そして来るべき広報の未来に向けて加筆しました。
『PR4.0への提言』は、序章と7つの章で構成されています。序章では、まずPR(パブリックリレーションズ)の進化について振り返ります。PR1.0は情報拡散を目的としたPRとして位置づけ、その後はPRの効果測定の指針として世界的に採択されている「バルセロナ原則」(※)に照らし合わせ、現在、自分たちの、2.0(アウトプットからアウトカム)、3.0(インパクトの評価)としています。そして来るべき「PR4.0」はどこに向かうのかを、本書を通して考察していきます。
※本書は、PRプランナー資格認定制度において、2次試験(科目C:広報・PR実務に関する知識)の参考図書に選定されました。
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