クリエイティブディレクションの「基礎力」という考え方
博報堂/SIXのクリエイティブディレクター/ストラテジストをしている、藤平 達之(とうへい たつゆき)です。前回のコラムでは、「君の言っていることはすべて正しいけど、面白くない」「器用貧乏と企画書マックスと頭でっかち」といった個人的な課題意識(コンプレックス)から、クリエイティブディレクションの基礎となる「8割の型」の仮説をお話しました。
今回のテーマは、その8割の構成要素である「定義」「実装」「姿勢」のうち、クリエイティブディレクションの出発点である「定義」です(結局前後編で終われませんでした)。
定義とは「ここ掘れワンワン」のことである
“クリエイティブ”を冠していたとしても、それはアートとはまったく異なるものであり、我々の仕事は、ほぼすべて目的芸術だと言われます。目的(課題・意義など)が先にあって、それを解決/創造するために芸術(企画や戦略、アイデアなど)がある。マーケティングやブランディングと切り離されることはない、とも言えるかもしれません。
ですから、クリエイティブディレクションは、目的や方針を「定義する」作業から始まります。それは、方向性、コンセプト、ミッション、作戦……、さまざまな言葉で形容されますが、何がゴールなのか、何を達成・解決するのか、何が起点になるのかを示す具体的な定義のことです。
「それはクライアントや戦略チームが考えることじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。(そういう線引きにあまり意味がない時代な気もしますが)やるべきことは、精緻なストラテジーではなく、簡単に言えば「ここ掘れワンワン」を決めることです。
童話『花咲かじいさん』で、飼い犬のポチが「ここ掘れ」と吠えてお爺さんに宝物の場所を知らせたあのムーブこそが、クリエイティブディレクションにおける定義そのものです。
「狭く」の効率化が「深く」の価値を生む
AIであれば、あるいは24時間365日そのことだけを考えることができれば、全方位、あらゆる可能性を思考し、筋がいいものを選んで仕上げられると思います。「好きに掘れワンワン」でいいでしょう。しかし、実際のところ、私たちは限られた時間の中で、最大の成果を目指さないといけません。
たとえば、私の持っている“企画HP”が10あり、HPを1つ使うと、「企画の切り口をひとつ考える」か「特定の企画の完成度をひとつ上げる」ことができるとします。すべてを切り口に振るとLv.1の企画が10個、その逆であればLv.10の企画が1個できる、というような感じです。
*本来はもっと複雑で割り切れないものですが、かなり単純化した考えとしてご理解ください。
仮にHPを割り振ってみる。どの企画の完成度から提案に値するかの判断はケースバイケースだが、完成度が高いに越したことはない。ディレクションは「考える必要がない切り口」も示せるというよさがある。もちろんHP自体が底上げされるのも大事だが……。
特に定義をしない「好きに掘れワンワン」の難しさはここにあります。どうしても「浅く広く」になってしまって、もしくは変な方向だけを深堀りしてしまって、議論する水準に満たない状態になりがちです。それを避けるには、体にムチ打って、一時的にHPを20や30に増強しないといけなくなるわけです。
ただ、チームメンバーが経験豊富な場合は、「好きに掘る」の方が機能する場合もあります。このあたりは見極めが必要ですが、とはいえ、多くの場合は初期に定義があるべきだと思います。
考える幅をいきなり「狭く」することは、クリエイティブの制約のようにも思えますが、実は「深さ=よさ」を生み出すための非常に大切な作業です。見てから決める・ギリギリまで迷う・全方位探索してみるのではなく、よくなかったらアップデートする前提で、明快な定義を最初に示すことが重要だと思います。
とある先輩は「狭ければ狭いほどいい」「これじゃ考える余地がないと思われるほどいい」と言っていました。私はまだそこまで振り切れませんが、CDとチームの究極の信頼関係だなと羨ましくなりました。

