定義=「生声を具体化」×「デコンで抽象化」
というわけで、どのように定義をするのかという本題です(遅くなりました)。アプローチは、専門性や好み、個々人のスタイルによって千差万別。いい定義ができればどんなやり方でもいいのですが、今回紹介するのは、汎用性が高いと思っている「具体と抽象を掛け算する」方法です。
個人的な意見ですが、(イノベーティブなごく一部のものを除き)世の中のいいものたちは「未知と既知のバランスが秀逸」だと思います。まったく新しいものよりは、「なんかアレっぽいけどどこか新しい/気になる」ものが受け入れられやすい印象があります。
そのバランスも念頭に「生声の探索による本音の発見」と「デコンストラクション(デコン、事例分析)による共通項の発見」を掛け算していきます。定義にあたってまずやることは、今回のお題に「固有の点はどこか」「何かと似ていると捉えられる点はどこか」の分解です。
例えば、「若い世代に投資を始めてほしい」というお題があったとします。固有の部分はもちろん「投資」です。若い世代の投資観の本音は、ヒアリングなどのリサーチをしないと浮かび上がってきません。
一方で、「投資という“難しいもの”を始められない気持ち」と考えると、それは英語・プログラミング・筋トレなど、なかなか一歩を踏み出せないものと似ていると考えられます。以上を踏まえ、具体(固有)と抽象(似ている)の両面でインプットするわけです。
【生声】街のきれいさを気にしていても全員がゴミ拾いをするとは限らない
インタビューやアンケートは当たり障りない発言ばかりだと思ってないでしょうか?
それは実は、聞き方や事前準備のせいかもしれません。例えば「態度と行動」を分けて聞くだけで、その人が思っているのにできていないことが見つかります。みんな「自分の住む街はきれいであってほしい」のです。だからといって「率先してゴミ拾いをする」わけではない。
恥ずかしいからでしょうか? 自分のゴミじゃないからでしょうか? やっても誰にも褒められないからでしょうか? 汚いからでしょうか? 態度と行動のギャップに迫ると、リアルな気持ちを見つけることができます。聞き方をちょっと工夫するだけで、本音遭遇率は爆上がりします。
「投資を始めないのは難しそうだからでしょ」と決めつけるのではなく、その先へ、その奥へ。n=1の具体的なヒントは、聞く・見るといった自らの五感からしか手に入りません。なるべく自分で聞いてみる。直接的な答えが得られずとも、受ける刺激の量が段違いになるのでオススメです。
【デコン】いい物語に共通する構造は「旅立ち→試練→帰還」である
言われてみると、なんだかそんな感じもしませんか?
これが「デコン発想」です。アレとアレって、実は構造や体験が似ているよね、全然違うジャンルだけどよく見ると同じ原理だよね。そんな「見抜きの技術」がデコンです。普遍的な構造やルール、力学、原理、仕組みなどを探して活用する、という考え方です。
デコンの具体的な手法は長くなるので割愛しますが、“○○モデル”と言われる多くのものは、デコンから生まれているものが多いと思います。たとえば、生活者が行動を起こす条件をまとめた、「フォッグの消費者行動モデル(B=MAT)」。
特定の「Behavior(行動)」が起こるには、「Motivation(動機)」と「Ability(それをする能力)」が揃っている状況で「Trigger(キッカケ)」が訪れる必要がある、というものですが、これもさまざまな事例の共通項がデコンされたものでしょう。ほかにも「恋愛テクニック」なるものも分かりやすいデコンの例です。
“巨人の肩の上”とも形容されるデコンは、汎用的な知をジャンプ台にする行為。既にあるものを転用してもよし、自分で何かしらの共通項を発見してもよしですが、カテゴリや世代などを超えた揺るぎにくい土台を見つけることは、定義の強さを上げてくれます。