「ゲーム&ウオッチ」、「ゲームボーイ」の開発を手がけた元任天堂の伝説の開発者・横井軍平が提唱した開発思想「枯れた技術の水平思考」。この思想はゲーム業界に限らず、幅広いクリエイターに影響を与えています。人口減少や資源制約という避けがたい現実が待っている日本で、「枯れた技術の水平思考」が活路になるのでは? という仮説を提言するコラムリレー。クリエイターそれぞれがどう「枯れた技術の水平思考」と出会い、自身のクリエイションにどう息づいているのか綴ります。今回は、18歳で起業し、ファッションデザイナーや実業家としてキャリアを切り拓き、現在はメルカリの生成AI推進担当のハヤカワ五味さんに伺いしました(以下寄稿)。前編はこちらから。
水平思考で逸脱した製造工程に
『枯れた技術の水平思考』の考え方が、単なる“読むだけの本”ではなく、実際にプロダクトへと接続されたのは、私が手掛けていた下着ブランド「feast」においてでした。
【拡散希望】
貧に…品乳向けランジェリーブランド
《feast by GOMI HAYAKAWA》
始動します!「なんで、胸がある子にはランジェリーを選ぶ楽しみがあって貧乳にはない⁈」
来月頭〜中頃に予約開始予定です! pic.twitter.com/IkVyh7Y9Zo— ハヤカワ五味 (@hayakawagomi) 2014年7月29日
feastは、自分の原体験からできた、バストが小さい人向けのランジェリーブランドです。いわゆるバンドゥブラタイプで、従来のブラジャー製造の常識からはかなり逸脱した設計でした。でも実は、それ以上に“逸脱”していたのは製造工程そのものだったかもしれません。
通常、女性用下着は専用の縫製設備やノウハウを持つ「ブラジャー専門工場」で作られるものです。立体カップの形成、ワイヤーの縫い込み、細かなレースの処理などなど、下着づくりは非常に高度で複雑な工程が多く、数百、数千枚のロットを前提とした大量生産が基本です。
けれど私は、「そんなに数が作れない」立場でした。当時は未成年でしたし、小規模で始めざるをえない、でもクオリティは落としたくない。そこで思い出したのが、横井軍平の言葉でした。
「新しいものを作るには、新しい技術はいらない。今ある技術を、今までと違う形で使えばいい」
〇〇の技術を下着に水平展開
私は、Tシャツや布帛シャツなどを縫っているカットソーやアパレル系の工場に、ブラジャーを頼んでみることにしました。もちろん「そんなの無理だよ」と言われることも多かったのですが、中には「やってみましょうか」と言ってくださるところもあった。
こうして、feastの下着は本来下着を作らない工場でも縫われることになりました。ワイヤーもパッドも使わず、構造を極限まで簡素化し、シルエットと肌触りで勝負する──いわば「Tシャツを縫う技術」を、下着という文脈に水平展開したのです。
feastはやがて、SNSで話題となり、数万枚を売り上げるブランドに育ちましたが、根っこにあるのは「技術を別の文脈で活かす」水平思考です。 今あるものを、今あるままに──けれど、誰もやらなかった角度から使ってみる。そんな横井軍平の思考は、私にとって“発明のための地図”でした。
