「下着はこう作るもの」という前提を裏返す──feastという実験

「ゲーム&ウオッチ」、「ゲームボーイ」の開発を手がけた元任天堂の伝説の開発者・横井軍平が提唱した開発思想「枯れた技術の水平思考」。この思想はゲーム業界に限らず、幅広いクリエイターに影響を与えています。人口減少や資源制約という避けがたい現実が待っている日本で、「枯れた技術の水平思考」が活路になるのでは? という仮説を提言するコラムリレー。クリエイターそれぞれがどう「枯れた技術の水平思考」と出会い、自身のクリエイションにどう息づいているのか綴ります。今回は、18歳で起業し、ファッションデザイナーや実業家としてキャリアを切り拓き、現在はメルカリの生成AI推進担当のハヤカワ五味さんに伺いしました(以下寄稿)。前編はこちらから。

水平思考で逸脱した製造工程に

『枯れた技術の水平思考』の考え方が、単なる“読むだけの本”ではなく、実際にプロダクトへと接続されたのは、私が手掛けていた下着ブランド「feast」においてでした。

feastは、自分の原体験からできた、バストが小さい人向けのランジェリーブランドです。いわゆるバンドゥブラタイプで、従来のブラジャー製造の常識からはかなり逸脱した設計でした。でも実は、それ以上に“逸脱”していたのは製造工程そのものだったかもしれません。

通常、女性用下着は専用の縫製設備やノウハウを持つ「ブラジャー専門工場」で作られるものです。立体カップの形成、ワイヤーの縫い込み、細かなレースの処理などなど、下着づくりは非常に高度で複雑な工程が多く、数百、数千枚のロットを前提とした大量生産が基本です。

けれど私は、「そんなに数が作れない」立場でした。当時は未成年でしたし、小規模で始めざるをえない、でもクオリティは落としたくない。そこで思い出したのが、横井軍平の言葉でした。

「新しいものを作るには、新しい技術はいらない。今ある技術を、今までと違う形で使えばいい」

〇〇の技術を下着に水平展開

私は、Tシャツや布帛シャツなどを縫っているカットソーやアパレル系の工場に、ブラジャーを頼んでみることにしました。もちろん「そんなの無理だよ」と言われることも多かったのですが、中には「やってみましょうか」と言ってくださるところもあった。

こうして、feastの下着は本来下着を作らない工場でも縫われることになりました。ワイヤーもパッドも使わず、構造を極限まで簡素化し、シルエットと肌触りで勝負する──いわば「Tシャツを縫う技術」を、下着という文脈に水平展開したのです。

feastはやがて、SNSで話題となり、数万枚を売り上げるブランドに育ちましたが、根っこにあるのは「技術を別の文脈で活かす」水平思考です。 今あるものを、今あるままに──けれど、誰もやらなかった角度から使ってみる。そんな横井軍平の思考は、私にとって“発明のための地図”でした。

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ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)

(テキスト 代表取締役/クリエイティブディレクター)

2015年頭に株式会社ウツワを創業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、多数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、2024年7月にメルカリにジョインし、生成AI利用の社内推進に尽力している。報道リアリティーショー「ABEMAPrime」レギュラーコメンテーター。


「枯れた技術の水平思考」コラムリレー
「枯れた技術の水平思考」コラムリレー

「ゲーム&ウオッチ」、「ゲームボーイ」の開発を手がけた元任天堂の伝説の開発者・横井軍平が提唱した開発思想「枯れた技術の水平思考」。この思想はゲーム業界に限らず、幅広いクリエイターに影響を与えています。『ものづくりのイノベーション「枯れた技術の水平思考」とは何か?―決定版・ゲームの神様 横井軍平のことば』編著者の草彅洋平氏や影響を受けてきたクリエイターらによるアドタイ連載コラムがスタート。人口減少や資源制約という避けがたい現実が待っている日本で、「枯れた技術の水平思考」が活路になるのでは?
という仮説を提言します。

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という仮説を提言します。

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