Nintendo Switch 2のゲームチャット
コラムの1本目では公式サイトに掲載されている「Nintendo Switch 2」(以下、スイッチ2)の開発者インタビューにおいて、「枯れた技術の水平思考」という、元任天堂開発第一部部長の横井軍平が提唱した開発思想が出てくることを示した。
今回は「スイッチ2」に新たに搭載された3つの新機能、(1)ゲームチャット、(2)おすそわけ通信、(3)マウス操作のうち、ゲームチャットについて、どんなところに横井軍平の思想が使われているのかつぶさに見ていきたいと思う。というのはゲームチャットが「スイッチ2」にとって「大きな特長になる機能」と思い、開発したとゲームチャットの開発者インタビューにも言及されているからだ。
━━そんなゲームチャットが、最終的にはNintendo Switch 2 の本体機能として、大きな柱になったわけですが、開発の最初から「これが柱になる」という意識だったのでしょうか。
小野:私たちとしてはゲームチャットを
Nintendo Switch 2 にとって「大きな特長になる機能」と思って
開発していました。
任天堂公式サイト「開発者に訊きました:Nintendo Switch 2」引用
ゲームチャットは、フレンドとオンライン通信をしながら、ゲーム画面の共有が楽しめる機能だ。最大12人でボイスチャット、最大4人でゲーム画面共有が可能で、異なるゲームをプレイしていても画面をCボタンひとつで簡単に共有することができるものだ。
これだけ読むと、すでに他のゲーム機器では当たり前に搭載されているボイスチャット機能が多少進化したくらいにしか思えないかもしれないが、これがどんなに革新的なものなのか、まずは動画を見てもらうのが一番だろう。
だれもが一瞬でゲーム実況配信者のように
最大の特徴がゲーム画面の共有だ。それぞれ異なるゲームをプレイしながら、見せ合いつつ会話をすることができるのだ。同時に別売のUSBカメラを接続すれば、ビデオチャット内にプレイヤー自身の姿を写すことが可能になっている。それも切り抜いた人の姿だけをゲーム画面と同時に写してくれるので、家の中が丸見えになるわけでもない(このあたりのプライバシーへの配慮も徹底的に計算されている)。そして一番面白いのは、自分自身の姿を写すことで、オンラインなのにまるで同じ場所で友達と一緒にわいわいゲームプレイしているかのような、不思議な臨場感を錯覚させてくれることだ。
ゲームチャットの開発者インタビューによると、もっとも重要視したのは顔の表情がいかにきれいに映るかだったという。
━━市販されているUSBカメラも接続はできるんですよね。Nintendo Switch 2 カメラはそういったUSBカメラと、どのような違いがあるのでしょうか。
田邨:ゲームをしている雰囲気を伝えるのに
かなり広角なレンズを使っていて、
最適な画角になるよう設定しているのが特長です。
近くからでも遠くからでも、一人でも複数人でも、
体を動かす遊びなんかも、ちゃんとカメラがとらえて
伝えられるようになっています。
でも、もっとも重要視したのは顔の表情がいかにきれいに映るか。
ゲームの雰囲気を伝えるには、人がどんな表情をしているのかを
鮮明に相手に届ける必要があると思ったんです。
なので、人の顔を自動で認識して、
そこを一番解像度高く見せるための処理を入れています。
任天堂公式サイト「開発者に訊きました:Nintendo Switch 2」引用
ゲームをしつつ、相手の表情を伺う。これは対面型のゲームなら当たり前のことに違いない。しかしながら昨今のゲームにおいて、相手の顔が見えないままゲームをすることの方が当たり前になっていた(これがオンラインゲーム上で他人を攻撃したり、嫌がらせをしたりする現象を生んでいたともいえる)。これをもう一度技術を使って顔を出すように逆転させようというのが、面白いところである。
横井軍平のコミュニケーション
開発者インタビューではこの機能がコロナ禍によって着想を得たことが話されている。
━━確かにゲームボーイのポケモンを公園で集まって遊んでいる、みたいな光景はよくありましたね。
河本:今回は本体機能で、
みんなでしゃべりながら同じソフトを一緒に遊ぶことも、
バラバラのソフトを遊ぶこともできます。
また、コロナ禍で一時期ソフトの開発が
リモートで行われていたことをきっかけに、
今回追加された新しい機能がありまして。
当時ビデオ会議システムで、
開発中のソフトを開発スタッフと確認していたのですが、
ビデオ会議システムに備わっている画面共有の機能では
ゲームプレイ画面をひとつしか共有できなかったんです。
そこで、みんなの顔が映っているところに
それぞれのゲームプレイ画面を映してみたところ、
「みんなでゲーム機を持ち寄って遊ぶ」感じが出て
嬉しかったんですよね。
その経験から、みんなのゲームプレイ画面を共有する機能も、
Switch 2 の本体機能に入れるというのはどうでしょうか、
という提案をしました。
任天堂公式サイト「開発者に訊きました:Nintendo Switch 2」引用
実はいまでは当たり前になっている携帯ゲーム機を一緒にプレイするというアイデアは、横井軍平が開発した「ゲームボーイ」(1989)に通信ケーブルを導入したことがはじまりだ。これまた一般的になったオンライン通信(枯れた技術)を拡張し、「みんなでゲーム機を持ち寄って遊ぶ」感じを演出するとは、任天堂らしいユニークな考え方ではないだろうか?
横井が大切にしていた考え方のもうひとつにコミュニケーションの重要性がある。例えば愛情度の値が示される「ラブテスター」(1969)は、「男女が気兼ねなく手をつなげるように」と開発されたものだ。「他人の喜ぶ姿を見るのがいちばんの快楽」とも横井は生前語っていた。仲の良い家族や友達がゲームを通して喜ぶ様子を微笑ましく見ることができる機能、それがゲームチャットなのかもしれない。
Nintendo 公式チャンネル YouTubeより
CボタンのCとは、横井の提唱したコミュニケーションのCではないかと考えると、このボタンが何かとても強い決意のようなものにすら思えてくる。それは任天堂がこの時代に人と人が向かい合う、コミュニケーションを再び重要視しており、そしてそれが何より遊びにとって重要だというメッセージなのではないかとすら思えてくるのだ。
※横井の言葉の引用は『横井軍平のゲーム館 RETURNS』(フィルムアート社)、『決定版・ゲームの神様 横井軍平のことば 』(P-Vine Books)より
