世界的なクリエイターである、杉山恒太郎さんの最新刊『THINK PUBLIC』は広告界のみならずこれからの社会の変革をもたらす”予言の書”です。黄色と灰色の格子模様の表紙の上に挑発的とも感じられる書名が掲げられています。テーマは「公共広告」の在り方を論じています。
「公共広告」とは何か―非営利団体や行政、国連関連組織のキャンペーンばかりではありません。「企業広告の公共性と社会化は、21世紀の潮流であり時代精神の反映だ。僕は両者をまとめて“公告”と呼ぶこともある」と、杉山さんは定義しています。
杉山さんが指摘している「価値観の転換を促したフォルクスワーゲンの『Think small』(1960年)」について、これが第1の波とすると「唯一無二の個性を保つことの意味を問いかけ、多様性の社会を先取りしたアップルの『Think different』(1997年)」は、第2の波といえるでしょう。
杉山さんは「広告はすでに『Think Public』の時代を迎えている。いわば“第3のThink”へと進化を遂げつつある」と強調しています。
次世代の社会を予言する書が、さらに社会の変化を促すことがあります。アメリカの未来学者であるアルビン・トフラーがデジタル革命による情報社会を予言した『第3の波』(1980年)の衝撃を想起させます。『THINK PUBLIC』の予言性は、それに勝るとも劣りません。
本書が優れているのは、「公共広告」の最先端の事例集というバイブル的な性格はもちろんです。それとともに、日本における「PUBLIC」の再定義を迫っているところです。
「公」と訳されるのが一般的です。公務員、国や自治体などの公的機関、公共事業……災害対策として、最近は「自助・共助・公助」といわれます。公助は最後に置かれています。フランス革命によって“発明”された、国民による「国民国家」は国民の生命と財産を守る存在です。
日本国憲法は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)から素案が示され、第15条の公務員について、「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」として、英文は「public servant」となっています。戦前の旧内務省などの官僚を連想させる「公務員」と翻訳されています。
六法全書にかつては、必ず掲載されていた「英文・日本国憲法」がいつのまにか消えています。「public」の概念は漂流を続けています。その再定義のために『THINK PUBLIC』の刊行が待たれたと感じています。
「あとがき」のなかで、杉山さんは「自分なりに『公共』とは何かを考える中でずっと気になっていたのは、批評家で哲学者の柄谷行人氏の著作にある『“未来の他者”への倫理的責務』という言葉でした。これを僕流に解釈すれば、広告のつくり手も公共発想を身につけ、子供や孫世代が暮らす世界を想像した上で創造を行う責任がある。その大儀を放棄してしまえば、社会を持続可能なものにすることは難しい、ということになります」と。
広告関係者のみならず、ジャーナリストや政治家、官僚らにぜひ読んで欲しい。
『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』杉山恒太郎
(著) 河尻亨一(編集協力)
定価:2200円(本体2000円+税)
ISBN 978-4-88335-628-7
小学館「ピッカピカの1年生」、サントリーローヤル「ランボー」などで国内外の広告賞を多数受賞し、世界最大級の広告祭・カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの国際審査員を3度務めるなど、国内外で活躍するクリエイター 杉山恒太郎氏。
国内外のクリエイティブを熟知し、考察し続けている杉山氏による新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』で取り上げる広告は、一般的に「公共広告」と呼ばれているものが多くあります。「公共広告」と聞くと、非営利団体や行政、国連関連組織によるキャンペーンを想像する方が多いかもしれません。しかし、本書では企業による公共サービス型の事例も織り交ぜながら、さらに一歩踏み込み、氏はこれからの広告のあるべき姿とし「THINK PUBLIC」を提言します。
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