7月に名古屋で開催された「マーケティングサミットリージョナル2025」から、注目セミナーをレポート。ヤマハの吉川剛志氏はブランド体験価値を向上させるファン創りのコミュニケーション展開について、ホットリンクの増岡宏紀氏はUGC(ユーザー生成コンテンツ) 活用とコミュニティマーケティングについて話した。各企業におけるファンマーケティングがどのような成果を得たのか、記事で詳しく紹介する。
情緒的価値の醸成を課題としていたヤマハ
ヤマハは世界中さまざまな地域に拠点を置き、楽器や音響機器、部品・装置など、幅広く事業を展開している。その側面として、「かつてのヤマハは地域・事業ごとに顧客へ伝えるブランドイメージが統一されておらず、製品の機能や品質への評価は高いが、製品を使用するときのワクワク感を示す情緒的価値を醸成できていないことが課題だった」と吉川氏。状況を打破するため、ブランディングの強化に乗り出した。
ヤマハは2019年にブランドプロミス「Make Waves」を掲げ、ブランディングの取り組みを本格的にスタートさせた。「Make Waves」は、ヤマハがお客さまの心が波立つ(Waveする)瞬間を提供するパートナーであり続けるという意味を持つ。ブランドプロミスを軸に、ブランドコンセプトや、ビジュアル、顧客とのコミュニケーション、SNSの発信方法などをルール・マニュアル化。社内への浸透度を高めるために、本社のブランドチームだけでなく、販売会社・事業部・グループ会社それぞれにブランド管理責任者やコミュニケーションアンバサダーの役職を配置し、現場と連携しながらブランド浸透を図る体制を整えた。
また、全社員に向けたブランド研修を実施し、社内全体でブランド理解を促進。その結果、自社ブランド調査においては多くの地域で顧客から見た情緒的価値が高まってきており、購買意欲の向上が期待される。吉川氏は「社内に一貫したブランドメッセージを浸透させることで、顧客から愛着や共感が得られ、購買行動にも良い影響を与えられる」と説いた。
顧客と深くつながるロイヤルティ向上施策
吉川氏は、ブランドへの愛着・共感が高まった顧客をさらにロイヤルカスタマー化する、ヤマハグローバル統一の顧客認証IDを導入する取り組みについても紹介した。ID導入により、ヤマハの音楽関連の有料サービスやEC、オンラインコンテンツなどを1つのIDで利用できるようになり、利便性が向上。さらに、統合されたユーザー情報の活用にもつながり、関心に合った広告やメールを配信することで、クリック率の向上やCPAの低下にもつながったそうだ。
吉川氏は「これらの施策は、PDCAサイクルを回すことで精度が上がる」と語る。ヤマハでは地域ごとにブランドに対する顧客評価を調査・分析し、ダッシュボードで可視化して社内で共有したのち、改善につなげる仕組みを整えている。「ただ、すべての地域で十分に仕組みが整っているかというと、そうではない。今後、全地域でさらに発展させていきたい」と述べた。
ファンを囲わないことでUGC(ユーザー生成コンテンツ) を促進する
ホットリンクは、SNSのコンサルティングを軸に事業を展開し、SNSにおけるUGC活用を熟知していることが強み。増岡氏は同社が取り組む、UGC促進のための効果的なSNS戦略について紹介した。
まず話したのは、「ファンがつきやすい商材とそうでないものがある」ということ。商品のまわりには「ファン」と「推奨者」が存在し、ファンはブランドを強く支持する人、推奨者は気に入っているが他の商品も買うライトな支持者のことを指す。「ファンは自ら商品の良さを発信してくれる貴重な存在だが、ファンが作りづらい商材では推奨者をどう動かすかが鍵」と増岡氏は述べた。
たとえば、ファンが少なかったり作りづらかったりする商材において、無理にファンを増やそうとしてコミュニティサイトを立ち上げたり、購入回数でランク付けする取り組みをすると、多くの場合、場が盛り上がりにくく空回りしがちだという。「商品の特性によって、ファンに限定しないSNSマーケティング手法をとることが重要」と強調した。
そこで重要な考え方が「ファンを囲おうとしないこと」だと増岡氏。ファンを囲うコミュニティマーケティングは、既存顧客のリピートには効果的だが、外部への情報拡散は限定的になる。だからこそ、推奨者の発信力が新規層に情報を届ける重要な役割を果たす。さらに増岡氏は、クチコミ(UGC)が増えることで指名検索が生まれ、指名検索数は売上と連動するというデータや、クチコミが2倍になると売り上げが2%プラスになるというホットリンクによる調査データを示し、「ファンのリピートではなく推奨者のUGCによって新たな購買層を創っていくことが大切だ」と説いた。
コミュニティを動かしUGCを増やす
増岡氏は、UGCを増やすための具体的な手法についても触れた。
「UGCを生み出すには、新たにコミュニティを立ち上げるのではなく、すでに存在している大きなコミュニティに入り込み、その中で自然にクチコミを広げていくことが重要だ」と述べ、その理由として現代のSNSの構造に言及した。
かつてのSNSはフォロー・フォロワーの関係性を通じて情報や関心が広がっていたが、今ではレコメンド機能が中心となり、友人・知人の投稿よりも、個人の興味関心に基づいたコンテンツが多く表示されるようになっている。こうした変化により、SNS上で漠然と大衆に向けて商品を発信しても、情報は届きづらく、的を絞ってコミュニティの中で伝播させる工夫が求められている。
具体的には、コミュニティに影響力を持つインフルエンサーを起用してコミュニティに入り込む方法や、広告を使って狙ったコミュニティに直接アプローチする方法を挙げた。
「重要なのは、誰に届けたいのかを明確にし、そのコミュニティに届きやすい形で発信していくことだ」と増岡氏は強調した。さらに、ホットリンクがこれらの手法でSNS支援をした企業の事例として、SNS強化前と比べて売上が約3倍になったケースも紹介された。増岡氏は、「まずは自社の商品についてすでに語ってくれているコミュニティを把握し、どのコミュニティに入り込むのかを見極めたうえで、発信と広告を強化していくことで、UGCは着実に増やしていける」とまとめた。
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