IPRN AGM 2025で発表された欧州PRの好事例を解説する本コラム。今回はフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれた、人口67万人強、面積は神奈川県と同規模の大公国、ルクセンブルクの事例を紹介します。
ルクセンブルクは金融業や宇宙産業などの高付加価値産業で知られています。IMFの発表によれば、ひとり当たりの名目GDPは14.1万ドル(2025年4月)。これは、2024年12月に内閣府が発表した2023年の日本のひとり当たりの名目GDP、3.4万ドルに対してその4倍以上です。ひとり当たりのGDPの観点では、同国は30年以上にわたって「世界一の富裕国」の座に君臨しています。
ルクセンブルクの名目GDP推移(Oxygen社提供)
そんな同国の、「持続可能な開発に関する高等審議会」(CSDD:Conseil Supérieur pour un Développement Durable/High Council for Sustainable Development)は、創設20周年という節目に合わせて、社会的議論を喚起するコミュニケーション施策を実施しました。設計と実行を担ったのは現地エージェンシーのOxygen & Partners社(以下、Oxygen社)です。
Oxygen社は本施策のキーメッセージを、世界有数の富裕国にとっては刺激的な、「脱成長(degrowth)」に据えました。制度の枠外にある生活者の不安や将来像に触れる論点をあえて前面に出すことで、単なる記念行事を越えてニュースとしての意味合いを強めるコミュニケーション設計に踏み切りました。周年をただの祝賀として処理せず、国内で続いていた年金改革の論争や、理事会任期の区切りといった同時進行の文脈へ接続することを目指したのです。
権威ある語り手により論点を可視化する
公開討議には、生態経済学の研究者ティモテ・パリク(Timothée Parrique)氏を招きました。彼は「GDPは繁栄を測らない」「ルクセンブルクは生態学的肥満の代表例」といった挑発的で分かりやすい言葉を使って、ルクセンブルク市民にとって刺激的な論点を提示しました。
