次世代を担う創造性とは? 2025-2030―THE NEW TYPE CREATIVITY

TBWA\HAKUHODO(以下TH)には世界から注目されるタレントが集まっている。2025年、Campaign誌のWomen to Watchに同社のイノベーション部門をリードする米澤香子氏が、40UNDER40にはデザイン部門をリードする伊藤裕平氏が、それぞれアジアを代表するかたちで選ばれた。2人は間もなく開講するDisruption Schoolの講師でもある。生成AIやメディア環境の変化に揺れるクリエイティブ業界で、今後も活躍する人材とは?これからの戦略と表現を切り拓き、リードする人材の条件について、同社のチーフクリエイティブオフィサーの細田高広氏に聞いた。

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クリエイティビティは死んだのか?

Is Creativity Dead? この挑発的な言葉は2024年の11月ニューヨークタイムズが公開した動画記事のタイトルだ。多様な表現に溢れていた世界が、急速に画一的で退屈な方向に向かっている。例えば、世界のどこに行っても「クールなカフェ」の内装は同じ。グレーな壁に木製家具。ソーシャルを覗くと、次から次へと、同じような服を着た人が、同じような顔をして、同じタンブラーを持っている。新商品のパッケージは模倣ばかり。広告だって、ほとんど見分けがつかない。どうやら、こうした現象は企業と生活者がアルゴリズムに基づいて行動した結果らしい。AIの浸透はこの明るいディストピア状態に拍車をかけるだろう。AIのアウトプットは、世界の平均値に集約していくようにデザインされている。

「均質化」はすでに多方面で頭痛の種になりつつある。ブランドは差別化する方法を失い、生活者にとっては選択肢が狭まる結果になった。平均化の波は、クリエイティブ業界の労働環境も一変させた。多くの企業で新規雇用に使っていた予算がAI導入に振り向けられている。人が担う平均的業務が減少し、世界中で仕事のないフリーランスのクリエイティブやマーケターが溢れている。

こうした現実を私たちは直視する必要があるだろう。AIによる自動化が進むいま、人に求められる能力は明らかに変わった。それは「AIができないことをやる人」というより、「AIと、これまでにできなかったことに挑む能力」だ。この超能力的技術との共存でこの先をリードする人々をNEW TYPEと呼びたい。対して、過去のやり方で活躍した人々をOLD TYPEと呼び、決定的に重要な5つの項目について比較しながら検討してみたい。

1.まだない課題を創造する Creativity in Questioning

AIの時代、答えは大量生産できる。一方で不足しているのは良質な「問い」だ。眼科医の清水映輔氏はボランティアとして世界中を訪れる経験を通して、貧しい地域で眼科医が不足している現実を目の当たりにした。「どうやって眼科医を増やすか?」という問題意識は誰もが持つが、解決策は生まれていない。そこで彼は諦める代わりに、新しい問いを立てた。世界のどの地域にも派遣されてくる医師がいる。ならば「すべての医師を眼科医にすることはできないか」。その問いから、 スマートフォンに装着するだけで、本格的な診療ができるSmart Eye Cameraが生まれた。現在までに、60を超える国と地域で10万人以上が彼の発明したデバイスで診療を受けている。

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優れた問いは、長く未解決の古い問題に対しても、新しい可能性に気づかせる。これからのクリエイティビティは、答えよりも問いの質がモノを言うようになるだろう。


OLDTYPE: 課題に対して答えを考えられる
NEWTYPE: 解くべき最高の課題を考えられる

問いが創造性を誘発した例をいくつか挙げてみよう。「なぜ日本でだけ、レジ打ちのアルバイトが立ちっぱなしで働かなくてはいけないのだろう」。 そんな問いがマイナビの「座ってイイッス」を生み出した。オレンジのイスとともに寛容の精神が広がり、確実に日本の労働環境に一石を投じることになった。

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政策を選ぶはずの選挙で、なぜ「大きな顔と名前だけが表示されたポスターが使用されるのだろう」。これでは有名人ばかりが選ばれるのも当然だ。そんな問題意識を持ったMarriage for allとTHのイノベーションチームが開発したのがPride Visionだ。スマホをかざすだけで同性婚や夫婦別姓に対する立場の違いが浮き彫りになる。

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ブリーフがないと考えられない?もうそんなことは言っていられない。問いを待つだけならAIのほうがはるかに優秀だ。

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