2. つくり方からつくり直す Rebuild Mindset
新しいテクノロジーは、過去の努力やその結晶とも言えるスキルを否定するように見えるときがある。作業を自動化できる動画編集ソフト、ロケのいらないバーチャルな撮影システム、画像やコピーを生成するAI。こうした技術は少なからず、私たちの存在価値を揺さぶることになる。だからこそ、積極的に取り入れなくてはならない。
例えばコピーライティングでは、通常ではあり得ない組み合わせの言葉を探求する時間が欠かせない。ひとしきり自分で様々な組み合わせを連想ゲームのように考えて限界を迎えたとき、AIに続きを任せると、一気に視界が開けることがある。同時に、自分の視野の狭さに気付かされて鳥肌が立つ。とある有名映像監督はAIにひとしきり演出プランを考えさせ、それ以外の方法がないかを考えるというかたちで使っているという。これまでにない視点が見つかることがあるそうだ。
AIに頼りっぱなしの人は衰えていくだろう。だがAIや新しいツールをうまく使いながら頭を動かす人は、これまでにない創造力の鍛え方を見つけるに違いない。筋トレだってマシンを使った方が効率的だ。
OLDTYPE: 特定の考え方・つくり方に固執する
NEWTYPE: つくり方からつくり直すことができる
グラフィックプロダクションからTHにやってきたあるADは、THE FIRST TAKEで音楽コンテンツに新しい光を当て注目された。その仕事を足がかりに、テレビ番組や映画監督といった領域に進出。どれも広告的なアイデアで音楽やアーティストの新しい魅力を引き出すことに成功している。アートディレクターの技能に加えて、貪欲に番組やNetflixの制作手法を取り入れたのが成功の秘訣だ。
我々のプロダクションチームのDiscoは、撮影のいらない映像制作を試行錯誤している。AIや世界初のバーチャルプロダクション技術。リアルな映像といえば実景撮影、という常識を覆すCMやコンテンツが、次々と世に出ていく。優秀なカメラマンやプロダクションスタッフほど、こうした新しいプロセスを面白がる傾向がある。積極的に自らのつくりかたを壊し、新しい枠組みを導入できる、柔軟なマインドセットを持つ人は進化を止めない。
いちど問いかけてみよう。5年前から思考・創造プロセスは進化しているだろうか。5年後、それはどのように変わっているだろうか。
3. 感性でつくり感性に届ける From Sense to Sense
博報堂に入社した時、当時の上司に言われた言葉がある。「優れた広告パーソンとは、あらゆる知識を持ちながら、それでも感性に頼る人たちのことだ」という内容であった。いま、改めて重要な認識ではないだろうか。マーケティングやデザインの現場で、あまりに多くの物事が前例と数値で決まるようになっているからだ。
理屈っぽい説明ばかりに追われて、直感的な「いい!」をつくることを忘れてはいないだろうか?心はいつだって、頭より先に真実を掴み取る。相手の感性を信じ、直感的に伝える力を取り戻してみよう。
OLDTYPE: すべてを論理と数字で説明しようとする
NEWTYPE: 直感と感性を活かすことができる
ホタメット(英語名: Shellmet)は廃棄貝殻の活用方法を考えることから始まったプロジェクトだ。甲子化学工業とTHとで廃棄貝殻を地域の漁師が使えるヘルメットにし、地球も命も守るサイクルをつくった。それが世界に注目されるきっかけになったのは、貝殻の由来を感じさせるスリット状のデザインだろう。
このディテールが、直感的に物語を伝える重要なシグナルとなっている。多くのアップサイクル製品は、パッと見で一般のものと区別がつかない。ホタメットは違う。語らずとも、見れば直感で分かる。だからこそ世界の名だたるデザイン美術館にも所蔵されているし、大阪万博でも公式ヘルメットに選ばれた。同じ素材でつくったベンチも大阪万博の会場に設置された。北の街ではなんと、テトラポッドや公園の遊具にも活用されている。
日産自動車、赤ちゃん本舗とともに開発したインテリジェントパペットIRUYO。親の顔が見えない後ろ向きのチャイルドシートにいても、親子で対話できるツールだ。最後に精度を高めるために必要だったのは、メカニクスよりも、赤ちゃんを安心させる人形の表情や動きだった。
AIは言語を学び言語をアウトプットする。だから基本的には論理的なアウトプットになりがちだ。だからこそ、無条件で愛せる音や表情や視覚的な記号や手触りをつくる、いわば「センスからセンス」へと伝達するコミュニケーションづくりが私たちに期待される役割になるだろう。




