食と観光の新しい関係性 「目的」と「ブランド化」
では 、J-POPとアイドルカルチャーにおけるファンダム経済について解説し、劇場公演や握手会といった「日本でしか体験できないイベント」が、海外ファンにとって大きな来日動機となっていることを説明した。
今回のテーマである「食」もまた観光における位置づけが変化している。従来は観光地を訪れる際の付随的な要素、すなわち「観光の合間に摂る食事」として認識されてきた。しかし、21世紀以降、グローバル化と情報化の進展により、食は単なる補助的要素ではなく、観光の主目的へとシフトしている。観光学やマーケティング研究においても、食文化が「観光資産」「地域ブランド資源」として評価されることが増えている。
寿司やラーメンの世界展開、抹茶スイーツやおにぎりのグローバルブームは、この潮流を象徴的に示す現象である。海外における日本食の普及は、単なる外食産業の海外進出で終わるのではなく、訪日観光の動機形成や日本ブランドの浸透に大きな役割を果たしていると言える。本稿では「商品ローカライズ戦略」「旅の目的化」「ブランド化」という三つの観点から、日本の食文化が観光マーケティング資産としていかに機能しているのかを論じたい。
寿司、ラーメンのグローバル展開と「本場で食べたい」という憧れの生成
寿司は20世紀後半から北米や欧州を中心に広まり、現在では世界の主要都市に寿司レストランが存在する。カリフォルニアロールのようなローカライズを経て普及した一方で、21世紀に入ると高級寿司店がニューヨークやロンドンに進出し、「日本の食=高品質で洗練された文化」というイメージを定着させた。寿司は単なる料理ではなく、日本の伝統・職人技・清潔性といった文化的要素を体現する象徴となったのである。
ラーメンは、寿司ほど古くから国際展開していたわけではないが、2000年代以降の一風堂の海外展開に象徴される「クールジャパン」戦略や留学生・旅行者を通じて急速に拡散した。ニューヨーク、パリ、シンガポールなどでは日本発のラーメンチェーンが行列をつくり、地域ごとに独自の味を模索しつつ受容が進んでいる。ラーメンは「庶民的でありながら奥深い料理」として認識され、日本人の生活文化や都市的な活気を想起させる。