モノで差別化できない時代、顧客理解が鍵
成田:奥谷さんは長年、顧客接点の重要性を様々な場で強調されてきましたが、環境が変化し続ける中で、今改めて「顧客を知ること」の重要性をどのように捉えていますか。
奥谷:モノでの差別化が非常に難しい時代だからこそ、体験で差別化しなければならない、というのが私の基本的な考え方です。その商品やサービスを「選ぶ理由」を顧客に提供することが重要で、そのひとつが体験です。
例えば、最近米国でスターバックスが苦戦しているという話があります。「サードプレイス」という体験価値を提供していることで知られていますが、モバイルオーダーが普及し、ただ商品を受け取るだけの場所になってしまった。一方でロサンゼルスの高級スーパー「Erewhon(エレウォン)」では、1杯約20ドルもするスムージーに若い人たちが集い、新たなサードプレイスが生まれています。
奥谷孝司氏/顧客時間 共同CEO/オイシックス・ラ・大地 COCO/Engagement Commerce Lab CEO/ Super Normal CEO。無印良品(良品計画)にて「MUJI passport」アプリの開発を主導し、オムニチャネル戦略の先駆者として活躍。最近は自らのD2C活動としてSuper Normalを始動。著書に『世界最先端のマーケティング』『マーケティングの新しい基本』などがある。
「商品が良ければいい」という考え方では、顧客はいずれ「なぜ自分はこのブランドを選んでいるのか?」と我に返ってしまう。デジタル時代だからこそ、店舗や接客も含む“人・リアル”と“デジタル”を組み合わせた買い物体験を設計し、そのためにデータドリブンにお客様を理解することが不可欠だと考えています。
ただ、皆さん顧客を理解したいのだろうけれど、今はまだまだ模索の時代でしょうね。顧客理解には、自分たちのビジネスやブランドが「お客様の何の課題を解決しているのか」という問いがなければ始まりません。
例えば、アンケートで「私たちはあんなこともこんなこともできますが、興味はありますか」という聞き方をしても、多くのお客様は「まあ……、興味はあるかな」と答えると思います。しかしこの答えに安心してはいけません。得られるのは表面的な答え、あったらいいなという答えだけ。
あるブランドのスニーカーを買った人に、また同じブランドのスニーカーを勧めるようなレコメンデーションも同じです。なぜその靴を買ったのか? ランニング初心者なのか、本格的なランナーなのか、はたまたコレクターなのか。そのジョブ(Jobs to be done)を理解しないままでは、真の対話は生まれません。
成田:まさにその通りです。私たちが提供する「DMMチャットブーストCV」は、LPからの離脱を防ぎ、コンバージョンを上げるツールですが、その本質は「顧客理解」、特にこれまで捉えきれなかった「未顧客」を理解することにあると考えています。LPを訪れたものの購入しなかったお客様が、何を考えていたのか。私たちはチャットを通じてそのインサイト、つまり「ジョブ」を言語化し解決します。
現在のWebマーケティングの現場では、クリックやコンバージョンなどの行動データが重視されがちです。しかし、これらの二者択一的なデータからは、行動の裏にある理由までは解き明かせず、データに基づく解釈が不可欠となります。一方で、チャットから得られる回答データは、インサイトのファクトデータです。このファクトを基に、他のマーケティング施策の「なぜ?」を解き明かしていく、というサイクルを回すことができるんですよね。
奥谷:まさに、今の時代は、デジタルタッチポイントを使えば、お客様のジョブを垣間見る機会は非常に増えています。ただ、店頭で買ったお客様に翌日「お買い物体験はいかがでしたか?」とデジタルの接点で聞くことはできますが、購買の前(プレパーチェス)の意識を探る方法は限られます。「購入」というモーメントだけでなく、このようなツールも活用しながらオンラインとオフラインを行き来する購入前後のプロセス全体で対話の機会を設計することが重要です。
レコメンドで意思決定の「摩擦」を減らす
成田:奥谷さんが関わられているオイシックスでは、購入前のプロセスはどのように設計されているのですか。
成田穂高氏/Algoage 執行役員 チャットブーストCV事業部事業部長。ソフトバンクを経て、サイバーエージェントでDSP事業の新規事業を責任者として立ち上げ、Rettyにて広告グループのマネージャーを経験し、2022年にAlgoageに参画。「DMMチャットブーストCV」事業責任者兼執行役員として、事業拡大と市場浸透の推進に従事する。
奥谷:オイシックスの場合、お客様に入会いただいた後は、むしろ「検討の時間をいかに短くするか」を重視しています。食品は代替品がいくらでもありますから、お客様が迷っている間に他の選択肢に移ってしまうリスクがある。そこで、毎週木曜日になると、あらかじめおすすめ商品が入った状態のカートが自動で用意される「定期ボックス」という仕組みをつくっています。
お客様はそれを確認し、不要なものを外したり、追加したりするだけ。決済も月末にまとめることで、購入の意思決定をできるだけフリクションレス(摩擦のない状態)にしています。我々はネット上での買い物しか見られない分、そこに特化して、検討時間をいかに短くするかを突き詰めているわけです。
成田:ユーザーの好みにあわせたレコメンドによってスムーズな意思決定をサポートしているんですね。
奥谷:動画ストリーミングサービスが「これを見た人はこれも見ています」と次々におすすめしてくれるのと同じですね。検討の時間が短い方がいいビジネスもある、ということですね。
クイズ形式で生み出す「納得感」
奥谷:顧客を深く理解していく上では、やはり対話が重要です。その意味では、「問いかける→答える」という形のチャットは非常に有効なツールになり得ると思います。
海外では、ポップアップでクイズを出すようなアプローチが増えているようです。「あなたはどんなランナーですか?」「膝や足首にケガはありませんか?」「内股ですか?ガニ股ですか?」といったいくつかの質問に答えていくうちに、自分に合ったランニングシューズが提案される。これは、企業側が顧客のジョブを理解しようとする対話です。
顧客は「今なら1000円クーポンプレゼント」「送料無料」といった企業からのお願い(買ってほしい)を「説得」するコミュニケーションではなく、お客様の潜在的な課題やニーズを改めて認識してもらい、自ら「納得」して購買してもらう。このプロセスが重要なのです。
しかも、こうした簡単なクイズ形式の対話で得られた回答を、その場限りで終わらせず、CDPなどに顧客データとしてきちんと蓄積していく。そうすることで、「このお客様はこういう意味合いで商品を探している」という深い理解につながっていきます。その対話の引き出し方は、AIチャットなのか、あるいは別のUIで見せるのか、やり方は様々あると思いますけどね。
成田:まさにその通りで、私たちもLP離脱ユーザーのインサイトから仮説を立て、チャットのシナリオを設計しています。ただ、今のAIエージェントのように、いきなり自由記述で「何でも聞いてください」というのは難しい。人は自分のことを意外と分かっていないので、最初は選択肢を提示し、気づきを与えた上で、より深い対話に進むのが理想的です。将来的には、人とAIが連携するハイブリッドの形で、より深い顧客理解を実現できると考えています。
「真の顧客中心主義」を描きやすい時代に
成田:マーケターは、チャットのような顧客接点をどう活用していくべきかという視点で、CTRを1.0%から1.1%にするといった連続的な成長は、定量データを見ていれば可能です。しかし、事業を前年比150%に引き上げるような非連続な成長を目指すには、数字を見ているだけでは得られない「新たな気づき」が必要となる。そのヒントは、ポストパーチェスであれば、クチコミやUGC、プレパーチェスのフェーズでいえば私たちのチャットから得られるような、定性的な声の中にこそ眠っていると思うのです。
その視点で、各アセットの得手不得手を理解しながらハイブリッドで回すことによって、事業成長を加速させていくことが可能になると思っています。
奥谷:今の時代、何かを買おうと思えば、ほとんどの人がスマホかPCを見る。つまり、あらゆる顧客接点でつながれる可能性がある。つまり買うという行為が容易になっているのです。しかしこの接点をお客様の課題理解にも活かせば、商品開発もメディアも作れます。このようなデジタル時代の顧客接点をお客様とのつながりにも使っていけば「真の顧客中心主義」を描きやすい時代なのです。
お客様と向き合い、対話を通じて買う意味をつくるのがマーケターの仕事であり、そのための手段が広がっている今、それを使わない手はありません。チャットというツールも活用しながら、どんどんお客様と対話し、理解し、より良いビジネスを作っていくべきですね。
成田:私たちも、コンバージョンを上げるという価値は提供しつつ、その先にある「顧客理解」を通じて、クライアントの継続的な成長に貢献していきたいと考えています。今はまだLPの離脱ユーザーという一つの接点に特化していますが、今後はさらにタッチポイントを広げ、各接点での対話の深度も深めていきたい。LPの中にチャットを組み込むだけでなく、より深い顧客理解を実現できる我々だからこそつくれるサービスも含めて、もっと上流の発想でチャレンジしていきたいです。

お問い合わせ

株式会社Algoage
https://chatboost.dmm.com/cv/
お問い合わせはこちら


