自社のカルチャーを改善するにはどうすればいいか。本セミナーの主題「『変わらないもの』『変えるもの』を見極めるコミュニケーション戦略」が意味することとは。
オープニングセッションとラップアップセッションで語られたのは、カルチャー醸成のための基本的な考え方と、それを具体的に前に進めていくための難しさだった。
カルチャーを考える上で“見極め”が大切な理由
多くの企業が自社の存在意義を示すパーパスを掲げるようになった。一方で、その理念が従業員一人ひとりにまで浸透し、日々の行動に結びついているかというと、課題を感じる企業は少なくない。壮大なパーパスと現場の日常との間に横たわるギャップは、多くの担当者が直面する現実である。
こうした状況を打開する鍵として、本セミナーが掲げたのが「変わらないもの」と「変えるもの」を見極める視点だ。変わらないものとは、創業以来の精神や企業の理念といった組織の根幹である。一方で変えるものとは、時代や環境の変化に対応していくための働き方や行動様式、具体的な制度などを指す。この2つを意識的に見極めてコミュニケーションを設計することこそが、無理のない、しかし着実なカルチャーの変革につながる。ではその見極めは、いかにしておこなえばよいのか。本セミナーのオープニングとラップアップ、2つのセッションで語られた内容をもとに具体的なヒントを探っていこう。
カルチャー醸成を戦略的に進めるための3ステップ
オープニングセッションでは、日本マイクロソフトやNECにおいてコーポレートコミュニケーションの統括責任者を務め、インターナルコミュニケーション研究会アドバイザーの岡部一志氏が登壇。感覚的になりがちなカルチャー醸成を戦略的に進める指針として、応用しやすい3つのステップを提示した。
インターナルコミュニケーション研究会 アドバイザーの岡部一志氏
最初のステップは、自社が目指すカルチャーの言語化だ。「私たちはどんな組織になりたいのか」を具体的な言葉にすることで、多様化する組織内にも共通認識が生まれ、施策のバラバラ感を防ぐことができる。岡部氏はマイクロソフトで経験した事例を挙げながら、言語化したカルチャーを評価制度にまで組み込み、連動させることで、より強力に浸透させられると解説した。
次のステップは、言語化したカルチャーを従業員が自分ごととして捉えるための体験創出である。例えば、創立記念日、社内アワード、ファミリーデー、国際女性デーといった既存の行事を単なるイベントではなく、目指すカルチャーを体感する場として再設計する。重要なのはこうした体験を単発で終わらせず、年間を通じて計画的に設計し、一貫したストーリーとして届けることだ。
そして最後のステップが、体験から生まれた変化を組織の資産に進化させるストーリーテリングである。変革における良いエピソードも共有されなければ、個人の思い出に過ぎない。社内外で語り継ぐ仕組みがあってこそ、カルチャーは組織全体に根づいていく。理想は経営層から現場まで全員が、自社のストーリーの語り部となることだ。そうなった時、カルチャーは与えられるものではなく、自分たちで育むものへと変わるのである。
他部署との連携、管理職の巻き込みが重要
岡部氏の問題提起に対し、現場ではどのような悩みや工夫があるのか。ラップアップセッションでは、セミナーに登壇した各企業の担当者から日々のリアルな声が共有された。
まずオープニングセッションの言語化というテーマに呼応するように、住友ゴム工業の平野敦嗣氏が興味深いエピソードを共有した。
「経営トップは挑戦を促すものの、社員からは『挑戦と言われると構えてしまう』という本音が寄せられた」と平野氏は語る。これは会社側の意図と社員の受け止め方にギャップが生じるという、多くの担当者が直面する課題だろう。平野氏はこの課題解決のヒントとして、東レの「初めの一歩賞」を例に挙げた。挑戦という言葉のハードルを「初めの一歩」と下げる工夫だ。この具体例では、経営トップの言葉をそのまま伝えるだけでなく、現場に受け入れられる言葉へ翻訳する重要性が示された。
次に取り上げられたのは、施策実行における連携の難しさだ。良い体験を創出しようとしても、広報部門だけでは限界がある。その課題に対し、商船三井の園田早苗氏とエイチ・ツー・オー リテイリングの田中周子氏からは、人事部や経営企画部といった他部署との連携が不可欠だという意見が挙げられた。さらにカッパ・クリエイトの吉冨知里氏は、各部署の部長やチームリーダーといった現場の管理職層を巻き込む重要性を指摘。研修や評価、会社方針、そして日々のチーム運営と足並みを揃える必要性が語られ、インターナルコミュニケーションは、会社全体で取り組むテーマであることが改めて共有された。
広報担当者が自社の語り部になれているのか
オープニングとラップアップの2つのセッションを通して見えてきたのは、インターナルコミュニケーションを担う担当者に期待される役割の変化だ。それは単に情報を伝えるだけでなく、組織文化を育むための仕掛け人という姿である。経営と現場、そして部署間をつなぐハブとなり、従業員が自分ごととして楽しめる体験を設計する。
しかし、最も本質的な役割は、担当者自らが体現することだ。岡部氏が触れた「推進組織自身のエンゲージメントの向上」という言葉がその核心を突く。変革を推進する組織や担当者自身が、まず自社の目指すカルチャーを信じ、体感し、そして仕事を楽しんでいる。その前向きな姿勢こそが、何よりも信頼のおけるメッセージとなり、組織に伝播していくのである。私たち自身が自社の語り部になれているのか。社内カルチャー変革の第一歩は、その自問から始まるのかもしれない。

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