『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、PARTYのクリエイティブディレクター/Founderでcombo 代表取締役の中村洋基さんが『AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる』を紹介します。
ぼくは、アイデア企画術のひとつとして、
「その企業のベネフィットを目立たせる、最も極端なアイデア」を思考することがよくある。
当時、クライアントはTOTO。同社のトイレの先進性は世界トップレベルである。これをアピールするために「世界の裏側、発展途上国の村にTOTOのトイレを設置する」というキャンペーンを考えた。
「日本でTOTOのトイレのシェアが上がるほど、マサイ族の村などトイレが未発達な地域にTOTOの世界最強・最新鋭のトイレが寄付されていく」というのはどうだろう。マサイ人がウォシュレットに驚愕する画もいいし、社会性もある。
思いついたはいいが、実現性に欠けていた。
どうやって発展途上国の村とネゴシエーションし、トイレを設置していくのか。
極端なアイデアこそ「ちゃんと実行できます」というフィジビリティが重要なのだ。
リサーチしたところ、なんと類似のアクションを発見した。
「nepia 千のトイレプロジェクト」だ。
ネピアのトイレットペーパーが購入されるほど、東ティモールの村にトイレが寄付されるというすばらしい企画だった。ここまで自分と似た思考をして、かつ実行できているのはすばらしい。
しかも、調べたところ、なんと同じ会社の人だという。聞いたことのない名前だった。
すぐに会いに行こう……!
これが並河進さんとの出会いだった。
豪胆な企画を出すので偏屈な人かと思いきや、照れながら嬉し恥ずかしそうにボソっと語るキュートでフレンドリーな方、というのが第一印象だった。
「いやあ、愛のある企画だね。いいね。手伝うよ」
笑顔でチームに入っていただいた。
結局マサイ族の企画は選ばれなかったが(代わりに、うんこで走るトイレ型バイクを作って日本を縦断するB案になり、「TOTO トイレバイク ネオ」という企画が実現した)並河氏との交流はつづいた。
やがてぼくは、彼の柔和な笑顔に潜む「何か」に気づきはじめた。