なぜ自社コンテンツをつくり続けるのか
この壁を突破するために僕らが選んだ道が、自社プロジェクトへの挑戦です。
誰かからの依頼ではなく、「自分たちで見つけた課題や好奇心に、自分たちで向き合う」という、徹頭徹尾「自分たち」が主語になるものづくりです。僕らが自社プロジェクトにこだわってきた理由を、4つ挙げていきたいと思います。
1. 「見たことのない表現」は、待っているだけでは生まれない
斬新なアイデアは、誰かの依頼を待っているだけでは永遠に生まれません。僕たちが開発した「minute mint」というミントタブレットは、その好例かもしれません。
「舐めることで、溶けるまでの時間を測れるミント」という奇妙なコンセプトの商品を依頼してくるクライアントは、当然いませんでした。このアイデアの原型は、僕が10年以上前から温めていたものでしたが、自分たちのプロジェクトとして能動的に動いたからこそ、ついに世に出すことができました。
自分たちが全力で「これをつくりたい」「これが面白い」と示すことは、新しい仕事や人材との出会いにもつながります。
受注制作を柱とする中小規模のクリエイティブスタジオは、営業活動に十分なリソースを割けないケースも少なくありません。そうなると、自分たちのポートフォリオがそのまま唯一の営業ツールになるわけですが、クライアントワークでは課題解決の力は示せても、まだ見ぬ表現の発想力やプロジェクトの実現力を示すことは難しい。そのため、新規案件の依頼内容も「前例の延長線」に偏りがちです(本来のビジネスだけを考えれば、本当はそれでもいいのですが…)。
だからこそ、自分たちが面白いと思えるクリエイティブに限界まで振り切った自社プロジェクトを発信していくことが大切になります。そのアウトプットが新しい領域の案件獲得や、「まだ見ぬ表現にチャレンジする」志を持った優秀なクリエイターの採用につながっていきます。
2. 自社コンテンツ開発による持続可能な経営
クライアントワークだけに依存するビジネスモデルは、どうしても市場環境やクライアントの戦略といった他社のニーズに依存していており、不安定さを伴います。だからこそ僕たちは、自社IPの開発こそがクリエイティブスタジオの持続可能な経営につながると考えています。
自分たちで生み出したIPが収益の柱となる。この夢が現実になり得る可能性を見せてくれたのが、描いた絵がARで動き出すアプリ「らくがきAR」でした。もとは社内のメンバー3人による小さなチームで始まったプロジェクトが、驚くことに世界8ヵ国の有料App総合ランキングで1位になり、国内外50以上のWebメディアや複数のテレビ番組で紹介されるなど世界的なヒットに。
この成功体験は、僕たちに大きな勇気を与えてくれました。
Qoncept, Whatever Co., and Fantamstick are great examples of the creative and entrepreneurial developers here in Japan who are bringing their apps to the world. We’re glad to launch our App Store Foundations program in Japan to help even more developers thrive on @AppStore. pic.twitter.com/qd8PINIevW
— Tim Cook (@tim_cook) December 15, 2022
この「らくがきAR」の経験は、自社コンテンツを“つくる”だけではなく、“届ける・育てる”までをセットで考えることの大切さも教えてくれました。この知見は、最新の自社プロジェクトとしてリリースを控えているARアプリ「everies」でも大きく活用されています。元々はGemini API デベロッパー コンペティションで発表したプロトタイプだったのですが、受賞をきっかけに単なるアプリのプロトタイプで終わらせるのではなく、企業とのコラボやIPとしての継続展開を視野に入れ、現在絶賛開発中です。
同じく現在進行形のプロジェクトであるストップモーション時代劇「HIDARI」では、長編映画化を見据えたパイロットフィルムの制作、海外配給・映画関係者との接点創出、クラウドファンディングによるコミュニティ形成、さらにはパイロットフィルム・フェスティバルの企画・運営まで、“つくって届ける”ための戦略を考えながらプロジェクトを進めています。



