生徒主体運営のSNSで8000フォロワーが示す、未来人材育成のための戦略的コミュニティ構築

ロングテールでニッチな関心を拾うSNS戦略

この成功の鍵は、SNSアカウントの戦略的な役割分担にあります。公式SNSが学校の理念やブランドといった「ヘッド」の情報を発信するのに対し、約10の部活動SNSは、個々の活動詳細といった極めて専門性の高い「ニッチ商品」の情報を発信しています。

ロングテール戦略を教育分野に適用すると、「ニッチな興味関心」(特定の部活動や探究活動)が、進学実績のような「ヘッド」の要素よりも、学校選びの意思決定に強く影響を与えることがわかります。フォロワー数6000人という数字は、個々のニッチなコミュニティの総和が、学校全体の広報効果を凌駕する高いエンゲージメントを生み出している構造を示しています。

また、ロングテール戦略のデメリットである「運用負荷」は、コンテンツの質やコンプライアンスの管理を教員と一緒に、生徒自身が担うことで解決されています。生徒が自らコンテンツ発信者として運営することで、教員の負担が軽減されると同時に、発信される情報に極めて高いオーセンティシティ(真正性)が生まれます。コミュニティマーケティングにおいて、生徒の目線で発信されるリアルな情報は、学校公式からの情報よりも信頼性が高く、学校への愛着(ロイヤルティ)とエンゲージメントを最大化する戦略となります。

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LTVを向上させる統合型マーケティング・コミュニケーション

コミュニティマーケティングは、学校の活動への深い関心を示すロイヤルカスタマー(生徒、保護者、地域住民)を育成し、LTV(顧客生涯価値)を高める効果があります。SNSを通じて日々の学校生活や部活動のリアルな姿に触れることで、生徒や保護者の学校への満足度が高まり、それが学校活動への積極的な参加や継続的な協力意欲(エンゲージメント)につながります。学校におけるLTVは、生徒が在学中および卒業後に学校にもたらす無形の価値(ブランド向上、ネットワークへの貢献)の総額を指しますが、この高いエンゲージメントの獲得こそが、持続可能な学校経営の基盤となります。このサイクルは、生徒の主体性を最大限に担保した教育モデルであり、GIGAスクール構想やDX人材育成の最終目標である「個に応じた学び」(個別最適な教育)の実現を支援するものです。まさにパーソナライズマーケティングです。

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生井秀一(茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校 校長)
生井秀一(茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校 校長)

花王の販売子会社に入社し、営業部門で大手流通チェーンを担当。ヘアケアブランドのマーケティングを担当した後、2015年にECの営業マネジャーとなり、花王のECビジネスを推進。2018年に全社DX推進をするプロジェクト型組織の先端技術戦略室に異動。2021年にDX戦略推進センターを設立、全社DX戦略を担当した。過去3度、社長賞を獲得。花王グループのDXを推進し、ECビジネスの構築などの推進役を担う。

2023年に茨城県とエン・ジャパンが実施した「ソーシャルインパクト採用」において、茨城県内の中高一貫校・専門高校の「校長」を教員免許不問で公募するプロジェクトに応募。1645人の応募者のなかから選ばれ、花王を退職して2023年4月から民間出身者の校長として茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校に着任。

生井秀一(茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校 校長)

花王の販売子会社に入社し、営業部門で大手流通チェーンを担当。ヘアケアブランドのマーケティングを担当した後、2015年にECの営業マネジャーとなり、花王のECビジネスを推進。2018年に全社DX推進をするプロジェクト型組織の先端技術戦略室に異動。2021年にDX戦略推進センターを設立、全社DX戦略を担当した。過去3度、社長賞を獲得。花王グループのDXを推進し、ECビジネスの構築などの推進役を担う。

2023年に茨城県とエン・ジャパンが実施した「ソーシャルインパクト採用」において、茨城県内の中高一貫校・専門高校の「校長」を教員免許不問で公募するプロジェクトに応募。1645人の応募者のなかから選ばれ、花王を退職して2023年4月から民間出身者の校長として茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校に着任。

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